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98.続・無能会議

 レオンハルトの提出した文章、召喚魔法陣が発見されたとの一報があってから数分で、ヒューイは映像魔法により各場所の魔法陣の映像を映し出す。


発見された場所は、パレード会場、そして錬金術広場前。 そのほかの場所はいまだ捜索中であるが、伝説の騎士の報告と相違がないことまでは確認された。


これにより、先ほどの流れとは一転し、大臣達は全員が王都襲撃に備えた会議を開始しなければならなくなった。


「随分……でかいようにも見えるが、こんなにでかくても魔物数匹しか召喚できないのか? 魔術研究部」


治安維持部の大臣の言葉に、魔術研究部の大臣は息を飲んだ後。


「訂正せざるを得んですよ。 これは不味い……実物をみちょらん以上確定とは言えんが、こいつは不味い……魔物の軍勢、少なくとも1000は一挙に召喚できちゃる……第十三、マスタークラスの魔法陣というのは間違いないと思いますわい。 しかも見る限り、こいつは発動阻害を防止するために結界がはられちょる……魔族の魔法である召喚魔法を扱える魔術師は少ない解除も神聖魔法による強制終了しか方法はないっちゅーね」


全員が息を飲む。


「ま、マスタークラス」


息を飲むのも無理はない、この国で、マスタークラスの魔術を使える人間などおらず、いたとしてもそれは必ずといっていいほど歴史に名を残す。


この魔法陣を書いたものが魔物であるならば、既にそんな英雄クラスの化け物がこの街に潜伏しているということに他ならないからである。


「ま、魔物千匹……も、勿論合計ですよね?」


「いえ、魔法陣一つからだちょおもっちょる」


「あわ……あわわわ」


経済部の人間は襲われた街と経済的損失を思ったのか、卒倒して頭を抱える。


「一度発動したらもはやとめられんぞ……治安維持部隊を動員したとしても、我等は対人間用の部隊だ……それに、部隊の人間は400、魔法陣一つとてつぶせんぞ」


「頼みの綱は、騎士団だが」


騎士団の総勢は本隊予備隊訓練生合わせておおよそ四千、補給部隊などの魔物と戦う実質的な戦闘部隊はそのうち三千。


一人一殺と考えればまだ足りない数字ではないが。


「報告します! 召喚陣が、ロイヤルガーデン、希望の像前、そして繁栄者の道、冒険者の道各所で発見」


これで合計六……どう考えても騎士団の数だけでは間に合わない。


千の魔物を騎士団五百で抑えることは不可能である。 たかが有象無象の軍勢であればまだ可能性は有るが、伝説の騎士の報告からかんがみるに、相手は全員指導者をもったれっきとした魔物の軍隊……そうなると千対千でも負ける可能性すら存在している。


「外交大臣、他国、他の町から応援の要請は!」


「不可能です、あまりにも時間が短すぎる、近くのアリシアの町でさえも到着に半日はかかります」


「生誕祭まで後六時間を切った……使者を送るだけでも戦闘が始まってしまう」


「いや、しかしまだ来ると決まったわけではないですし」


「ここまでのものを見せられて楽観は危険すぎる……最低でも魔物の軍勢6000と

迷宮七階層以降の魔物6体が軍隊として王都を襲撃すると考えたほうがいいだろう」


「あわっあわわ……街が……お金が……赤字なんてレベルじゃない」


「やだなぁ、もう。あまりにも前例がなさ過ぎる、これでは動こうにも動けない」


「過去に何か似通った事例はあるか? レオンハルト」


「指南書に寄れば、巨大生物、飛竜等が街を襲撃した際の行動規則はかかれていますが、外壁、つまりは城の外から攻め入る外敵についての指南しかありません」


レオンハルトに変わり、ヒューイが冷静にそう返答をする。


「内側にいきなり現れるなど、前代未聞……」


「いやんなっちゃうなぁ……不測の事態が過ぎる」


「ここはもう、民は自主避難にまかせて、我等は王城を守っちょるというのはどうだろう?」


「名案だ、篭城に持ち込めば魔物の数が少なくても迎撃は出来ます、被害も富の損失も最小限に出来るかも」


「ふざけるな! 民を見捨てるというのか」


「民はまた作ればいい、だが、この王城が陥落すればここはもはやリルガルムではなくなる、王の御身が最優先です。 トップが不在になることが最も国の崩壊を招きます」


「う~む……仕方がないことですね。 では、篭城に向けて我々は行動、騎士団を王城付近に集中させ、魔術研究部は最高峰の結界を重ねがけしてもらいましょう。 赤字は止む終えません」


「仕切るな経済部! 私は民を見捨てるなど認めんぞ!」


「治安維持部はでしたらその間に民の誘導をお願いします。 立った四百でも冒険者ギルドに強力を仰げばなんとか成るでしょう? 経済的損失、他国からの信頼は皆無になるでしょうが、まぁ、迷宮の財産があればまた復興は可能です」


「ぐっ」


「レオンハルトは其れでいいのか」


「…………」


「沈黙は肯定とさせていただきます。時は金、ですからね」


(いいわけがない)


ぼそりと治安維持部からの言葉にレオンハルトは口ごもりながら小さく呟く。

民を見捨てるなどレオンハルトにとっては自らの首を跳ねることよりも難しい。

しかし王を守ることがレオンハルトにとっての最大の使命であり、方法がなければレオンハルトは王国騎士団長として王を優先しなければならない。


故にレオンハルトは何も発言できず、ただ黙することしか出来ない。


本当は民も王も双方守りたい。


だが、先と同じように自らの言葉には、この流れを覆すような力もなければ案もない。


頼みの綱はヒューイであるが、険しい表情のまま何かを考えるような素振りを見せている。


レオンハルトは半ば諦めの境地で成り行きを見つめる。


「では、王都襲撃の対策としては王城への籠城を前提として、考えていきます。よろしいでしょうか? 陛下……」



「ならぬ」



会議室が一瞬で静まり返る。


今の話を聞いてなお、王はその決定を真っ向から否定した。


「しかし……」


「民なき国の裸の王になるつもりはない……王城など捨て置け」


「……承知いたしました」


そのことに対し、もはや抗議の言葉を述べるものはない。


たとえ不条理であろうとも決定は絶対……。


それが王というものであり、大臣たちは沈黙のまま、籠城という選択肢を白紙に戻す。


その瞬間、副団長であるヒューイは口元を緩める。


まるでこの時を待っていたかのように。


「では……民の保護を最優先とした防衛方法ですが」


大臣たちは第三位の決定権しか持たない副団長の発言に目を光らせるが、ほかに案を持たない大臣たちは言葉を噤む。


(ヒューイの奴……これを狙っていたな……恐ろしい奴だ)


王がどのような決定を下すかまで織り込みずみで行動をしていた部下の行動に

レオンハルトは一つ息をのみ、冷や汗をさらに垂れ流す。


知略ではかないそうにない……願わくばその知恵の刃が自らに向きませんように……そんなことを心の中で本気で願いながら、レオンハルトはヒューイの作戦を聞き入ることにする。


「まずは、治安維持大臣の部隊を総動員し、ダンデライオン一座の確保を願います」


「ダンデライオン一座?」


「今回生誕祭にてパレードを行う者たちです。彼らがアンドリューの協力者である可能性が非常に高い」


「なぜそう言い切れる」


「伝説の騎士の情報によりますと、現在アリシアの街でもダンデライオン一座による公演が行われているとの情報が入っています」


「なに? 外交大臣!」


治安維持部の大臣の怒号が飛ぶ。


「しばしお待ちを!?」


外交大臣はヒューイの発言に慌ててライブラリの魔法を唱え、書物を取り出してページをめくり始める。


そして。


「あっ……アリシアの街からの報告……先日、ダンデライオン一座が急きょサプライズ公演を開き……大盛況……という報告が……あります」


「確か明日パレードを開く大道芸人も、ダンデライオン一座っちゅー名前だったとおもっちょるが」


「やんなっちゃうなぁもう、なんでそれを報告しないの!?」


「もうし訳ございません……たかが祭りのことと、まさかこの国に訪れている大道芸人が、ダンデライオン一座であったとは」


「ダンデライオン一座にパレードを依頼したのは」


「私です」


経済大臣が手を挙げる。


「ロバート王に生誕祭の全権を預からせていただいております、必ず黒字にするようにと努めてまいりました」


「それが今回の犯人みたいじゃないか、まさかお前が引き入れたのか?」


「馬鹿な、交渉も書状もしっかりと国の指南書通りの手続きを通してあります、それはレオンハルト殿と国王のお二人の承認を得たはず、間違いなどありませんでした。それに、依頼はこちらから依頼をしたもの、王都襲撃を企てすり寄ってきたものの可能性は皆無です」


経済部大臣の言葉に治安維持部大臣は王を見るが、王は黙ってうなずく。


「……ぐっ」


「確かダンデライオン一座っちゅーのは相当遠くの国の大道芸人……それがアリシアの街なんて田舎に急きょサプライズで訪れるっちゅーのはおかしな話。 どっかで記憶の改ざんでもされたっちゅーこっちゃな」


「おっしゃる通り、どこかでなり替わった……というのが正しい線でしょう。 しかしどうして侵入が可能だったか、なぜ本物の方は進路を変えてアリシアの街に向かったのか、この際それは捨て置きましょう、あとで捜査をして再発防止策を指南書に書き加えればいい、それだけですから。

今は目前の問題です、二つのダンデライオン一座が現れて、この街に危険な魔法陣が出現した……では、治安維持大臣、政治的判断は一騎士である私にはわかりませんが、この場合、ダンデライオン一座捕縛のために治安維持部隊を出動させることは可能ですか?」


「可能どころではない、最優先事項だ」


「では、すぐにお願いします」


「王よ、よろしいでしょうか?」


「構わん、最優先事項とせよ」


「はっ!」


「人相書きを外に控えている部下に渡してあります。 それを参考に捜査に当たってください」


「助かる、副団長殿!」


そう言葉を放つと治安維持部大臣は急ぎ執務室を出る。


「さて、これでことが収束すればいいのですが、その可能性は低いでしょう。敵はこの日のために入念に、さらには細心の注意を払ってここに挑んでいるはず、これだけ大きな魔法陣をこの街に描いたのです……見つからない自信があるということ」


「……だったら、先に民の避難が最優先だったのでは?」


ついつい、レオンハルトは自分の部下にそう質問を投げかけてしまうと、ヒューイはいつも通りジト目でレオンハルトをにらんだ後。


「代表格であるフランク・そしてストーンオーガの人相書きは確かにあります、ですがダンデライオン一座としてこの街に侵入した人間は100を超えています。 これのどれが敵かわからない状態で避難をさせて、一緒に避難させるつもりですか?」


「あ……すまない」


自らの短慮さにレオンハルトは謝罪をして髭を垂らす。

ちなみに、ロバート王はその姿を見てかわいいなと思ったのは内緒の話である。



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