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短編集2025  作者: 斎木リコ


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人工妖精

 人工妖精。それは、人と世界を繋ぐツール。通話、メール、SNSなどコミュニケーションツールであり、また家電の制御から車の自動運転なども行う大変便利なツールだ。


 現代人にとって、なくてはならないものの一つだろう。


 見た目はいわゆる「妖精」そのものだが、あくまでマシンなので人格のようなものはない。


 AI技術により疑似人格を載せた事もあるそうだが、不評だったのですぐに元に戻ったという経緯がある。


 人工妖精は、各メーカーが半年に一回新作を出す。早い人は、半年で最新式のものに買い換えるんだとか。


 今の人工妖精はもう三年使ってる。そろそろ買い換え時だろう。動作が妙に重いときもあるし、最近は要求されるスペックもかなり高いようだから。


 ショップに行く前に、サイトで新作の情報を見てみる。


「どれも似たり寄ったりだなあ」


 人工妖精は、外見の規格が厳しく決められている。出始めの頃は規制が緩く、本物の猫や犬のような外観のものもあったそうだ。


 実際にいる動物そっくりにすると色々とトラブルが発生するので、規格で外観を縛るようにしたらしい。


 私の人工妖精は、購入時に流行ったカスタムモデルだ。好みの顔立ちにカスタマイズ出来るのが売りで、かなり凝ったデザインも出来た。


 ちなみに、うちの子の顔立ちはリアルよりで、目の大きさや鼻筋、口元などは実在人物にいそうな造りをしている。


 今の流行は有名デザイナーがデザインした外観だそう。今見ているショップのサイトにも、でかでかと「人気デザイナー某氏とのコラボレーションモデル」とあった。


 お勧めモデルとして出て来たのは、目を大きくした昆虫タイプ。新作のデザインは、ほぼ全てそちら寄りだ。


「参ったなあ。これ系苦手なんだけど」


 今まで人工妖精を買い換えなかったのも、流行の外観が気に入らなかったからだ。


 ちらりとテーブルに腰を下ろす人工妖精を見る。見た目だけなら、こだわって作ったこの子が一番なんだが。何せ三年前のモデル故、中身が相当古い。


 いっそ、中身だけ最新式のものに入れ替えられたらいいのに。


 ふと、サイトの一番右端に、新しいサービスの提供開始という文字を見つけた。


 クリックすると、今使っている人工妖精の外側をそのまま使い、中身だけ最新スペックにするという「載せ替えサービス」というもの。


「これ、いいんじゃないかな」


 やはりこだわった外観は、このまま手放すには惜しい。中には、もう使わなくなった人工妖精を飾って楽しんでいる人もいる程だ。


 なら、外側は今のまま、中身だけ最新のモデルにするのもありではないか。




 無事ショップで載せ替えを終え、家に戻る。それはいいのだが、ここまでの間に問題が起きていた。


 新しくした人工妖精が、聞き間違いばかり起こすのだ。


 質問と音声入力すると。


「ひつもんとは何ですか?」 


 疑問と入力すると。


「ぎごんとは何ですか?」


 逼迫と入力すると。


「卓袱とは、中国風の食卓の事です」


 ガチャ耳もいいところだった。前の中身の時は、こんな事なかったのに。確実に、載せ替えが原因だ。


 調べると、他にも載せ替えでトラブルが起きている事を知る。この不具合を直すには、メーカーに送って調整してもらう必要があるんだとか。


 面倒臭いな。


 ただの聞き間違いだ。その度に言い直すのは面倒だけれど、仕方ない。


 そう思っていたのだけれど。あまりにも頻発する聞き間違いに、結局こちらがギブアップとなった。


 諦めて最新の人工妖精に買い換えるかと、載せ替えを行ったショップに行ってみる。載せ替えを担当してくれた店員さんがいたので、事情を話し最新の人工妖精を見せてもらおう思ったら、意外な言葉が返ってきた。


「それでしたら、以前の中身に戻しますか? バックアップがありますので、戻せますよ?」

「出来るんですか?」

「ええ。ですが、スペックも元に戻りますので、使い勝手は悪くなるかもしれませんが」


 究極の選択だった。見た目が気に入らなくても最新式にするか、それとも見た目重視で低スペックの中身に戻すか。


 悩んでいたら、もう一つ店員さんが教えてくれた。


「実はうちのメーカー、こそっと拡張パーツを販売していまして。これを使えば、低スペックを多少は補う事が出来るんです」


 そう言って見せてくれたのは、人工妖精に装着するタイプのアクセサリーだ。これが外部処理装置や外部ストレージになるそうで、完全に新作並のスペックにはならないけれど、近い仕上がりには出来るという。


 ただ、そのアクセサリーのお値段、新作人工妖精とほぼ同額である。


 散々悩んだ結果、ショップで載せ替え前に戻し、拡張アクセサリーも買ってしまった。財布には大打撃である。


 ただ、気のせいか人工妖精がご機嫌のようだ。おかしい。人工妖精に人格はないのに。表情も、ただのプログラムだ。


 そうわかっていても、つい口を突いて出てしまった。


「随分とご機嫌だね」


 誰が、とは言わない。本来の人工妖精なら、まずそこを聞いてくるはず。なのに、この子は自分に言われたと認識していた。


「マスターが、私の為にこれを買ってくれたから」


 おかしくないか? これでは、まるで人工妖精に人格があるように思えるのだが。


 それに、最新式の時には聞き間違いばかりしていたはず。何故、今はそのままきちんと聞き取ったのだろう?


 何も言えずに足を止めていると、先をふよふよよ飛んでいた人工妖精が振り返った。


「マスターは滑舌が悪いから、癖のある言い方になっているんだよ。そんなのを聞き分けられるのは、人工妖精多しといえど、私くらいのものなんだからね?」


 人工妖精の疑似人格搭載は、規格で規制されてはいない。という事は、どこかのメーカーが載せていても不思議はないけれど。


 この子を買った時に、そんな売り文句はなかったはずだなんだが。じゃあ、今目の前で笑う人工妖精は、一体何なんだろう。


 ……あれだ。長く使うとAIにも個性のようなものが現れるんだよ、多分。そういう事にしておく。

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