△第五話 初デートのお誘い
念願叶って樋本さんと付き合えることになった!
なったのだが……告白で全ての勇気を使い果たしてしまって、連絡先を交換することしかできなかった。
恋愛巧者であれば、早速デートの約束を取り付けたり、なんてことも出来たんだろうけど。
俺にとってこれは初恋、初めて出来た彼女、恋愛レベルは一だ。
圧倒的に経験値が不足している。
それでも俺は樋本さんとカップルらしいことがしたかった。
何せ俺は思春期真っ只中のもうすぐ高校生になる男子──性欲が服を着て歩いているようなお年頃だ。
今まで膨らませて来た妄想を現実の物にしたいという欲求は俺の豊満な肉体でも蓄えきれないほどにあった。
だからと言って樋本さんを欲望のはけ口にしたいわけじゃない。
初めての彼女だ……大切にしたいと思う気持ちの方が遥かに強い。
強すぎるあまり卒業から、付き合い始めてから一週間経ってもロクに進展がない……。
「これはよくない……」
俺は今日も樋本さんとのRINEのトーク履歴を見てくぐもった唸り声をあげる。
トーク履歴はそれなりに刻まれているが、特に何か進展があるわけではなかった。
今まで学校でしていた会話をRINEで交わす──程度のことしかできていない。
優しい樋本さんは、何でもないようなRINEのメッセージにもすぐに返信をくれる。
文字だけのやり取り。声は聞こえないけどそれだけで満たされてしまう自分のチョロさにうんざりとしてしまう。
このままだと一回も樋本さんに会うことなく春休みが終わっちゃうんじゃないか……。
そんな不安が腹の奥から喉元に逆流するかのように迫ってくる。
やるべきことは分かってる。
俺の方からデートなり何なりに誘うことだ。
「でもがっつき過ぎてキモいって思われたくないしなぁ……」
樋本さんと一緒にやりたいことは無限にあるけど、樋本さんに嫌われるかもしれないと思うと二の足を踏んでしまう、そんなジレンマ。
「何かキッカケさえあれば……」
そればかり考えていた。
そんな俺は息抜きにテレビを付けた。
特に目的もなくただ気まぐれで。
ラブコメの神様が背中を押してくれたのかもしれない。
俺がテレビを付けた瞬間、とある映画のコマーシャルが流れ始めた。
「これだ!」
俺は声を出さずにはいられなかった。
その映画は少女漫画原作の映画──そして俺はその原作漫画のことを知っていた。
他ならぬ樋本さんとの話の中で話題に上がったからだ。
映画公開日は今週の週末。
こんなのもう誘うしかないじゃないか。
俺は急いで自分の部屋に戻ってRINEを開いた。
そしてデートのお誘いの文面を考え始めたのだが……。
「文面での誘い方がわかんねえ……」
友人を遊びに誘うのとはわけが違う。
記念すべき初デートの誘いなのだ。
それを文章でポイって投げ捨てて、返事を待つばかりでいいのか……?
いや、よくないだろう。
ここは思い切って……通話にしよう。
そして俺の口から直接伝えよう。
その方が絶対に誠実だ。
こういうのは迷えば迷うほどためらいが足を掴んでくる。
そうなる前に、ハイになっている状態の今すぐに実行するべきだ。
俺は早速通話のボタンを押した。
プルルル……
繰り返す電子音がもどかしい。
俺はその間にバクバクと鳴る心臓を押さえつけるように、息を思いっきり吐いた。
そして三コール目の途中で電子音がプツっと切れて、画面に『通話中』の文字が表示される。
「もしもし……樋本さん?」
俺はおそるおそる、いつもよりワントーン高い声を出す。
『……相羽くん?』
続いて同じようにおそるおそる樋本さんの澄んだ声が聞こえてきた。
樋本さんは声がいい。
普段はあまり抑揚がないように聞こえるけど、感情が高まった時にはそれがハッキリと声に現れるのがとても可愛い。
──とか呆けている場合じゃなかった。
突然の通話、訝しまれる前に本題を伝えないと。
「その……元気?」
『うん、元気だよ』
……違う!
ああもう、何で俺の口は俺の思った通りの言葉を発してくれないのか。
しっかりしろ、俺。
男らしくビシっと誘うんだ。
「ここ、今週の週末さ、一緒に遊びに行かない?」
声が震えて鶏みたいになった。だせぇ。
『えと、それって……』
「いやもちろん樋本さんに予定が無ければの話なんだけど」
『ううん、空いてる……よ?』
言質は取った。
さあ行け、相羽将也!
「じゃあさ、映画でも見に行こうよ……どうかな?」
震える声をたぷんたぷんのお腹に力を入れて必死に抑え込みながらさり気なく、何でもないことのように。
『映画……?』
「もちろん樋本さんが映画とか好きじゃないなら別にいいんだけど」
『ううん、好きだよ。映画』
「じゃあさ、これなんてどうかな」
すかさず保存しておいた映画のポスターの画像をRINEのトーク画面に送信する。
『あ、これ! 見ようと思ってたの!』
緊張気味だった樋本さんの声が一気に明るくなる。
こうなれば後は簡単だ。
待ち合わせる時間と場所を決めればいい。
用意しておいた上映スケジュールの画像を送信して、
「この昼辺りから上映開始のやつでもいい?」
『うん、私は大丈夫だよ』
「オッケー、じゃあその三十分前くらいに駅前に集合って感じでいいかな」
『三十分前に駅前……分かった!』
映画を見た後ついでにご飯でも食べよっかー、みたいな流れに持っていけば完璧だ。
初デートのお誘いにしては上出来なんじゃないか……?
「それじゃ、で、デート、楽しみにしてるから」
『え、あ……うん。私も……』
最後の最後で噛まなければ……完璧だったのに。
「それじゃ、週末にね」と電話を切って大きく息を吐く。
五分かそこいらの通話だったのにとんでもない量のカロリーを消費してしまった気がする。
もしかしたら少し痩せたかもしれない。
しかし疲労感と同時に体に染み渡る達成感。
「ぃよし!」
俺はガッツポーズを繰り返した。
手の握りの強さは嬉しさに比例する。
ついに……ついに初デートの約束を取り付けた。
早く週末が来ないかな……。
そう思ったところでふと頭を掠めたものがあった。
それは見過ごすわけにはいかない問題。
「そういえば俺、デートに着ていけるまともな私服……持ってねえ」
勢いで行動すると大体そのツケを後で払うことになる。




