△第四十五話 予兆
「随分気合入れてバイトしてんじゃん」
バイト先のファミレス、バックヤード。
あまり空調が効いてない蒸し暑い場所でぐったりとしていたら慧が声を掛けてきた。
時間は十五時過ぎ、ちょうど人が少ない時間。
休憩時間が被るのはよくあることだ。
「そりゃな~。稼ぎ時だし」
「間違いねえな」
夏休みに入ってから今日で三日目。
少しくらいは涼音と会う時間はあるか、と思ったのだが夏休みに入って本当にすぐに実家の方に帰省してしまったので、いよいよバイト以外にやることがなくなってしまった。
一応毎日電話をしたり、RINEでやり取りなんかはしているけど……あと半月近く会えないのか……。
もう挫けそうになってきた。
「それにしても……慧」
「ん~?」
「慧の方こそ彼女をほったらかしにしてていいのか?」
「夏の合宿行ってるからこっちはこっちで暇なんだよ」
「あー、そっか」
そういえば、薫は陸上部のマネージャーなんだっけ。
夏の大会も近いだろうし忙しいのも無理はないか。
「じゃあ、その間に稼いでお金を貯めないとな」
「将也のその一途なところは尊敬するよ……」
呆れたように慧が言う。
何かおかしなことを言っただろうか。
よくわからない。
「だってさ、将也って何をするにも彼女、彼女、彼女じゃん」
「ああ……確かに」
確かに俺にとって大事な人──涼音が彼女になってからというもの俺の行動原理の片隅にはいつも涼音がいる。
何をするにも涼音の存在が頭にちらつくから。
でもそれって……普通のことじゃないのか?
「慧は違うのか?」
ふとした軽い疑問に慧は苦笑する。
「違くはないよ。俺だって薫のことはちゃんと好きだし」
「だろ? だったら……」
「でも将也と樋本さんを見てるとちょっと怪しくなる」
「そんなもんか? 十分仲良く見えるけど」
慧と薫は仲の良い友達の延長線上にいるような関係に見える。
何をするにも遠慮がいらなそうで、等身大のままでいられるような……そんな関係。
背伸びをして、何とか涼音に釣り合いが取れるように──と頑張っている俺にとって、そんな二人の関係に少し羨ましく思うところがあった。
「ならよかったよ……」
慧は納得したように持ってきた賄いのカレーに手を伸ばした。
「くあぁ……」
話の切れ目に大あくび。
さすがに店がオープンする時間からずっとシフトに入っているからそれなりに疲れが溜まってきていた。
それに最近ちょっとなぁ……。
「どした? 随分眠そうだな?」
カレーを頬張りながら慧。
そういえば、この時間にカレーを食べて夕食は食べられるんだろうか。
「いや、何て言うか……最近寝不足でさ」
「おいおい、夏休みだからってそれは良くないんじゃないか?」
「ちげーよ、夜更かしはしてないって」
そう、夜更かしはしていない。
バイトに行って宿題と筋トレをして、夜に涼音と話して寝る。
極めて健康的な生活を送っている。
なのに……夜眠れないのだ。
不眠というわけではない。
涼音に会えないストレスで不眠──ありえなくもない話だが、俺が最近、ここ数週間あまり眠れない理由は別にあった。
精神的な理由じゃなくて物理的な理由だ。
「じゃあ、どうしてよ?」
「いやーなんかさ、音が聞こえてきて夜に目が覚めるんだよな」
「音?」
「ミシミシ……って言う感じの音が体の内側から響いてくるような感じでさ。音自体は大きくないんだけど気持ち悪くてなんか睡眠が中断されちゃうんだよな」
そう、夜になると体の内側から音がして目が覚めてしまう。
微妙に痛みを伴う、骨が軋むような音のせいで。
あれ、一体なんなんだろうな。
目が覚めた……からと言ってそのまま眠れない、という事態にはならないのだが、睡眠が浅くなっているのは間違いない。
随分迷惑な話だ。
「もしかして……」
慧が神妙な顔で俺の方をジーっと見てくる。
何かを確かめるような目で。
「ちょっと立ってくれ」
「お……おう」
慧に言われるがままに席を立つ。
なんだ? 慧は一体何をしようとしているんだ。
「ちょっと、シャキっと背筋伸ばして」
「こうか……?」
思いっきり背筋を伸ばした。
なんだ? ちょっと背中が痛いような……
「やっぱり……」
慧は何かに気づいたらしい。
「将也、お前それってさ──」




