△第四十四話 高校生の夏休み
慧と薫が合流してからはリビングで勉強会をすることになった。
いくら片付けたと言えども四人が一緒にいるには俺の部屋は狭すぎる。
それに高校生にもなってほいほいと自分の部屋に人を入れると言うのも恥ずかしい。
いろいろ理由はつけたが、涼音だけは例外なのは言うまでもない。
リビングの机を囲んで勉強道具を広げるけども、やはり勉強は手に着かず自然と手は止まり口ばかりが動いていく。
「二人はさ、夏休みどうするつもりなの?」
口火を切ったのは薫だった。
器用にペンを手でこねくり回しながら口を開いた。
にしてもすげえな、どうやってんだそれ。
手元を全く見ないでペン回しするのってなんかカッコよくて憧れる。
「そういえば、何も決めてなかったな」
「うん、海に行きたいね……って話はしてたけど」
あれをしたい、これをしたい──頭の中では涼音としたいことが山のように浮かんではくるけれど、それを口に出して予定を組むところまではしてなかった。
目の前の日々が楽しすぎて、それで満足してしまっていたから。
「あ、でもね……」
涼音が少し申し訳なさそうに口をもにょらせる。
「私……夏休みあんまり遊べないかもしれないんだ」
「え……」
カラン、と薫の真似をして回していたペンがあらぬ方向に吹っ飛ぶ。
それを見て、慧が鼻で笑いやがった。
慧の方に飛んでいけばよかったのに……。
「その……私ね。今年は法事もあって夏休みに入ってすぐからお母さんの実家に帰省することになってるんだ」
「初耳だ」
「ごめんね、伝え忘れてた……。だからね、せっかくの夏休みだけどお盆明けまでは遊べないの……」
そうなのか……。
家の事情だから仕方ないとはいえそっか、お盆明けまでは遊べないのか……。
お盆明け──となると夏休みももう終盤。
涼音とやりたいことはたくさんあるのに……時間が足りないかもしれない。
そう考えると残念だ。
でも……。
「大丈夫だって、涼音。今年がダメなら来年だってあるし」
「将也くん……」
俺たちなら一年経っても仲違いなんてせずに、また来年。
万全の状態で夏を迎えられると確信していた。
大体、涼音と別れるなんて想像もできない。
「ひゅーひゅー、お熱いねえ」
「うるっせ」
感傷に浸ってたところに茶々を入れられた。
空気を読め、空気を。
今いい空気だっただろうがよ。
「私たちも続くかな、来年まで」
「どうだろ?」
「そこは断言してよ!」
「悪い悪い」
ケラケラと笑う慧と、顔を膨らませながらバンバンと背中を叩く薫。
薫って慧といる時はこんな風になるんだな。
ちょっと意外だ。
「痛い……痛いって」
「バーカ」
なるほど、これが目の前でイチャつかれるってことか。
確かに胸の奥を掻きむしりたい気分になるな。
……まあ、だからと言って自制はするつもりはないんだけどな。
「それで、さ。予定が崩れたワケだけど将也はどうすんの?」
薫からの追及を誤魔化すように慧。
「あー……どうしよっか」
去年までは、普通に遊んで、普通に勉強して、普通に過ごしていた。
だけど今年から俺たちは高校生。
大学生ほどではないけど、できる事の幅は各段に広がっている。
「俺たちは遊園地にでも行こうかな~、って話になってるんだけどさ。一緒に来るか?」
「カップルの間に一人で挟まるなんて肩身が狭くて居心地が悪すぎるだろ」
「だよな、もちろん冗談だけど」
「知ってる」
分かってながら聞いてくるところが慧の悪い癖だ。
それにしても、どうするか……。
「やっぱバイトかな……」
思考が垂れ流れてしまった。
でもまあバイト、って言うのが現実的な最善策だろうな。
「シフト増やすのか?」
「うん、それが一番いいかな」
「それで稼いだらなんか奢ってよ」
「俺、アイス!」
「ダメだ、俺は結構財布のヒモは硬いんだ」
「ちぇ~」
全くこの二人と来たら……野放しにしたらすぐこれだ。
悪童二人がそのまま成長した様な──そういう意味でも波長が合ってるんだろうな。
「ごめんね……もうちょっと早く言えたら良かったんだけど」
「いいって全然、涼音のために稼いでくるから」
夏休みに運動がてらバイトのシフトを入れまくればそれなりの額を稼げるだろう──それこそお年玉の比じゃないくらいに。
ある程度は貯金に回すとして……半分は自分磨きのために、半分は涼音とのデート代のために。
準備期間と割り切れば、バイト三昧の夏休みも悪くはない。
「あんまり無理しないでね……私、自分の分はちゃんと自分で稼ぐから」
「俺がカッコつけたいだけからさ、涼音は気にしないで帰省楽しんできてよ」
「うん……ありがとう」
頬をわずかに赤く染めた涼音が再び視線を教科書に戻した。
照れ隠しだ──と察しのあまりよくない俺でもすぐに気づいた。
カワイイ……。
「あの……勉強、しよ?」
「ああ、悪い」
涼音にたしなめられてしまった。
忘れかけていたが、今は勉強会なんだった。
これは……そうだ。
最初に勉強に飽きて口を開いた薫が悪い。
俺は悪くない。
「私たちも勉強しよっか」
「そうだな、黙ってないとこの二人は無限にイチャついてくるしな」
「それ、そろそろ胸焼けしそうだよ」
全くこの二人は……。
皮肉の一つでも言おうとしたが、涼音に怒られたくはない。
俺はジトーっと湿った視線を送るだけに留めた。
それからは適度に会話を挟みながらも、当初の想定と違って意外としっかり勉強会らしい勉強会ができた。
──もうすぐ夏が始まる。
次回から「終章」スタートです。
リハビリがてらに書いた短編第二弾を投稿したので、よければ下のリンクからご一読ください。




