38 目的はたぶん……
セレーナを送り届けた後、レゼクと歩く。
どうやら徒歩で追いかけてきたらしい。
「馬で来た方が早くないですか?」
「いや。聖女の力の影響下なら、走った方が早かった」
そう言われて、さっきの戦闘のことを思い出す。
確かにあの速さや力を考えると、馬を引き出し、鞍をつけて、走った先で誰かに馬を預け……なんてしてた方が遅いかもしれない。
襲撃場所も、帝宮からすごく離れた場所ではなかったし。
「それはそうと、ようやく聖女の力の扱い方がわかってきたようだな」
レゼクもそれがわかったようだ。
私はうなずく。
「はい。なんかこう……こういうことなのかなって感じが」
改めて思い返すと、この世界にある魔法のすごい版みたいな感じだった。
たぶん魔法を起こす要素がこの世界にあって、何か精神的にその要素と通じる物を聖女達は持っていて、それを気持ちや言葉で動かすのだと思う。
私はなるほど血統が関係あるわけだ、と納得していた。
それができる素質があるかないか、ができるかどうかに関係しているから。
騎士はたぶん、その中でも聖女の力の影響を受けやすく、聖女と同調することによって魔法を使えるような感じじゃないだろうか?
二つの素質が血統によるのは……なんでだろう。
(遺伝的に、魔力に影響を与えやすいとか、聖女の血統の力を受けやすいとか、そんな感じなのかな?)
魔法のある世界で遺伝なんて言っても仕方ない感じはするけど。
元が日本産の私は、ついそんな感じに想像してしまう。
「それにしても、今日襲って来た人達はなんなんでしょうか」
あの後、巡回警備をしている警備兵を呼んで引き渡した。
尋問とかするんだろうか。
「あれは、両方を標的にしていたんだろう」
「両方ですか?」
「あの女優が帝宮で騒ぎを起こしただろう。それでウルスラ妃が苛立っていたらしい。あと、皇太后の侍女に近づくのも不愉快だったようだ」
「うわ……」
こっちは男だという無理筋の疑いをかけられて、大迷惑していたのに。
ウルスラ妃側から見ると、皇帝が私に興味を持ったように感じてしまうらしい。
「でも、けしかけたのはカールなのに……」
弟から事情を聞いていないのだろうか? と思ったが、まぁ、人の心なんてそんなものでもある。
理不尽なことをするウルスラ妃が、まともな判断をしてくれるわけがない。
因果がわかっていても、でも夫が女に興味を持つ行動をするのが不快だから殺しちゃえ、という判断に至ったのかもしれない。
「カールが聖者の力を使ったということは、あの女優をもう追い払うつもりでいたんだろう。長く付き合って、うっかり男子を産み落とされたら、ウルスラ妃の娘が困ると思うだろうからな」
うーん、ちょっとセンシティブなお話だ。
皇帝とセレーナがそういう仲なのはわかっていても、なんだか居心地の悪い話題だ。
「だから殺してしまおうとしたのかもしれない。そして一緒に目障りな侍女も出かけたとなれば、まとめて始末する好機だと思ったのだろう」
「一応、襲撃される場面は想定して侍女を受けましたが……」
一度はそういうこともあるだろうと思っていたけど、実際に起こると疲れるな。
「それにしても、やっぱりドレスって不便ですね」
裾をちょいと摘んでみる。
外を歩くために王宮を出る時に少し位置を上げたものの、足首まであるのだ。
剣を隠すには都合が良いふくらみも、戦うのには向いていない。
しかし戦闘の度に裾を切るなどもったいない、という貧乏人根性が……。
だってこの世界、まだ手織りの布が主流なわけで。
布もなかなか高価なのだ。
ヨーロッパの近世初期ぐらいに近い。
王侯貴族が布を買って着て、それを下げ渡された人達が着て、売られた古着をまた庶民が手に入れて晴れ着にする、みたいな。
どうにかできないかと苦悩しながら裾をひらひらさせていると、不意にレゼクに手をはたかれる。
「もう城門が近い。衛兵に見られる」
「はぁい。……皇子殿下、なんだかお兄さんみたいですよね」
ついぽろっと、思ったことが口からこぼれ出た。
するとレゼクは微妙そうな顔になった。
皇子殿下にお兄さん言ったのが、失礼だったのだろうか?
慌てて私は話題を変えた。
「あ、改めて助けに来てくださってありがとございます。その、お夕食の時間でしょうに、お手を煩わせまして……」
「問題ない、聖女を失うことより優先される者などない」
「そそ、そうですか」
返ってきたのは、激重な返事だった。
おおぅ。
でも確かに、直近の出来事を見ても聖女がいた方がいいと判断しているのはよくわかった。
私だって、あんな戦い方ができるなら、絶対聖女を側に置いておきたくなるもの。
とはいえ助けてもらったのは確かだ。
「でも随分迷惑をおかけてますし、何かできることがあればおっしゃってください」
そう言うと、レゼクの微妙そうな表情が淡い笑みに変わった。
「考えておこう」




