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私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです  作者: 奏多


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33 川に落ちた後始末

 門を通過する時は、レゼクがマントをかぶせてくれたので、顔を見られずに済んだ。

 その後は人目を避けて、急いで駆け抜ける。

 そうして皇太后の棟までやってきた時、私が予定していた相手と会えなかったことを聞いて異変を知ったのだろう、侍女のみんなが待っていた。


「リリ!」


「べちゃべちゃじゃない!」


 マントを脱いだ私に駆け寄って来たノエリアやエルシーが、慌ててメイドを呼びに行く。

 すぐにタオルを沢山持ってくるメイド達。

 それを見たレゼクが、「では任せた」と言って立ち去った。


 私はタオルにくるまれたまま部屋に連れて行かれ、急いでメイド達に着替えさせられ、拭かれ、ストーブに火が入れられる。


「お湯を持ってきました!」


 さらにお湯が運ばれてくると、足湯のような状態で温まるよう指示され、たちまちホカホカの状態に。

 ようやく髪を拭くだけになったところで、メイド達が温かいお茶を持ってくると、ノエリアとエルシーを残してメイドは退室した。


「さ、これで何を言っても大丈夫よ。殿下も行ってしまわれたし、どうしてこうなったのか話してちょうだい、リリ」


 髪を拭くエルシーの言葉に、私はうなずく。


「それが、待っている人はあっちにいると呼ばれまして、ついて行ったら皇帝陛下のいる部屋で……」


「え、騙されたの!?」


 お茶をカップに注いでいたノエリアが目を見開いた。


「皇帝陛下からは、なんとか逃れたってこと……? でもどうして水に落ちたの?」


「皇帝陛下は、どうやら女性だとは理解してくれたんですけど、一緒にいたウルスラ妃の弟が、一応確認したいと言い出して……」


 今更ながらではあるけど、飛び降りるほどに追い詰められた怒りが湧いてきたもので。

 しっかりとカールに罪をなすりつけ……。


 同時に、カールに警戒してもらおうと思ったのだ。


 女性の衣服を剥ごうとしたと言えば、間違いなく警戒される。

 そして私がひどい目にあった話は、特別に秘密にすることではないので、メイドにも広まるだろう。

 もちろん、要注意人物として、騎士にもカールの名前が伝わる。


 結果的に、カールから心を操作されるリスクが減るはずだ。


(聞いた本人から恨まれそうだけど、今更だし)


 いい作戦だ、と思っているうちに、ようやく髪がだいぶん乾いたようだ。


「ひとまず休んでいて。暖かくしてね」


「はい。あの、カールにはほんと気を付けてください。あまり近づかない方がいいかもしれません」


「わかったわ」


 ノエリアも、人の服を脱がせようとするとんでもない少年だと認識してくれたようだ。

 表情がとても硬い。


「まさかそんな趣味がある子だったなんて……。見かけによらないわね」


 エルシーも若干引いている。

 ふふふ、うまくいった。

 私は内心でほくそえんでいた。死にかけたのだから、それぐらいしたって罰は当たるまい。

 そのまま二人が退室するのを、手を振って見送った。


 その後、一人になって、私は淹れてくれていたお茶をちびちびと飲む。

 ふと触った髪は、まだちょっとだけ湿り気があった。

 でもそろそろ熱いので、足湯をやめて、拭いてから内履きに変えた。

 お湯は、あとでメイドの誰かに持って行ってもらおう。


 お茶を飲み終わったところで、ちょっとだけ窓を開ける。

 籠っていた部屋の熱気が抜けていく。

 空は少し、夕暮れ時の色になっていた。


 もうすぐ夕食の時間だ。

 遠くに見える街並みからも、煙突から煙が上がっている。

 しばらくしたら私も、着替えて、皇太后と一緒の夕食の席につくことになる時間だな、と思い出す。


 そこでふと、レゼクのことが気になった。

 あの人も一緒に落ちたせいで、濡れネズミ仲間になったのだった。

 しかも、私よりも着替えるまでの時間が長いし。


「風邪、ひかないといいんだけど」


 つぶやいた瞬間に思い浮かんだのは、岸に上がってすぐに見たレゼクの顔だった。

 綺麗な色の髪、そして白い頬は多少日焼けしていても綺麗な肌で。

 何より青い瞳を思い出したとたん、なんだか恥ずかしくなって想像を打ち消す。


「やばいやばいやばい。恐ろしいわね、顔のいい男って……」


 つぶやいていると、部屋の扉がノックされた。


「はい」


 応じると、扉をメイドが開けた。


「皇太后陛下がおいでになっておられます。お加減が問題ないようでしたら、お話されたいとのことでしたが」


 私は慌てて窓を閉めて言った。


「はい、加減も大丈夫です!」


 まさか自室に来るとは思ってなかったので、慌てて変な返事をしてしまう。

 そんな私の部屋に、皇太后は一人で入って来た。

 メイドは退室させて、扉を閉めさせていた。


「もう、落ち着いたようね。リリ」


「は、はい!」


「大変な目にあったばかりだから、もっと休みが必要でしょうけど、少し話したいことがあって」


「あ、よろしければこちらにお座りください! 部屋は暑くないですか? ストーブは消しますか?」


 小さな二人掛けぐらいのソファーがあるので、皇太后はそちらに案内する。

 そして髪を乾かすために部屋を暖めていたけど、今は春も過ぎようとしている頃だ。皇太后が汗っかきなら脱水症状を起こしてしまうと心配した。

 皇太后の方は、小さく笑う。


「大丈夫。これだけの年齢になると、春なんてまだまだ寒く感じてしまうぐらいなのよ。しかももう夕方ですもの、これぐらいが心地いぐらいだわ」


 めずらしく沢山話してくれる皇太后。

 私はいそいそとその向かい側に椅子を移動して座る。


「その、お話とは?」


 川に落ちた直後のお話だ。

 まさか……なんて気持ちになってしまい、どきどきしながら用件を聞いてしまう。

 レゼクも一緒に川に突き落としたから、解雇したいとか言われたら……どうしようか。


「我が帝国の聖女への執着についてを」

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