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私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです  作者: 奏多


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32 助け

 私も、異世界に生まれて十数年生きてきた。

 だから元の世界にいた時よりもずっと、暴力が身近だ。


 この世界は民主主義なんてものは根付いていなくて、文句を言いながらも人々は貴族に従うのが当然だし、覆すなんて無理だと思っている。

 産業もすごく多くはなく、貧しい人も多い。


 なにより倫理観もかなり違う。

 奪って済ます者の多さは、庶民でも貴族でも段違いだ。


 私も身を守るために、剣を使う。

 だけど自分によくしてくれる人達を死なせるのは、どうしても心が拒否する。

 そして追い詰められた時に思うのだ。


 ――転生できたんだし、きっと次があるんじゃない?


 私が来世に逃げようなんて思うのは、当然じゃないだろうか。


 だって唯一の助けは呼べない。

 呼べば、私が聖女の力を持ってるとわかるから。

 それでも一瞬、飛び出した瞬間に思ってしまった。


 ――助けて。


 でも無理だ。

 そう思った。


 どんどん落ちていく。

 落下の重力加速に、今更恐怖心が湧き上がった。


 だけど、誰かが私を受け止めた。


「は!?」


 落下する人間を受け止めるとか、どんなスーパーマン?

 一緒に水に落ちる。


(冷たい!)


 春も過ぎたのに、流れる川の水はまだ冷たい。

 一気に体が冷えていく中、私は水を飲まないように口を閉じて目をぎゅっとつぶった。

 その間、その人はしっかりと私を抱えたまま。

 寒さの中で、私は自然とすがりつくように暖かな人にしがみついた。


 やがて流されながら岸につく。


 しかも、堀の壁を駆け上がった。

 壁よ?

 水に濡れて服も激重、しかも濡れて重量級になってるドレス着てる人間かかえて!?

 びっくりしているうちに、おそらく帝宮の対岸にある岸に上がった。


「怪我は?」


 やっと地面の上に座ったところで、顔を覗き込まれる。

 水に濡れた灰銀の髪。

 真っすぐな青い瞳。

 ああ、ゲームの中そのままに綺麗だ、と思った。


「レゼク……」


 助けてくれたことが信じられなくて、ゲームの中の人を見るような気持ちで、その名前を呼んでしまう。


「そうだ」


 でも彼は、怒らずにうなずいてくれた。


「お前がいなくなったと聞いた。その後、声が聞こえた」


「私、助けを呼ばないようにしてたのに」


 声には出さなかった。

 そしてあの不思議な音がなかったから、レゼクにまで届くはずがないと思っていたのに。

 するとレゼクが表情をしかめた。


「なぜ呼ばなかった」


「だって、カールが。ウルスラ妃の弟が、聖者の力を持ってるってわかって」


 力を上手く使って呼べたら、それはカールに伝わってしまう。

 レゼクのことは騎士だとわかってしまっているらしいけど、私が聖女だとはわかってしまうのは困る。


「だからって飛び込むとは……」


 レゼクが怒ったような表情になった。

 なんだかそれが嬉しい気がする。


「来世に期待しようかなって思いまして」


「来世だと?」


 拍子抜けしたような表情になるレゼク。

 あれ。この世界の宗教的に、来世思想ってなかったような気がするんだけど、抵抗ない人なのかな? それとも意外で、びっくりしすぎた?

 思わずレゼクの次の言葉を待ってしまう。

 彼はため息をついた。


「あるとしても、全て覚えていられないなら、問題を先送りにしても仕方ないだろうに」


「忘れても……良かったんですよ。だって、要求に応じないならノエリア様達とかを、殺すって言うから。自分のせいで死なれるのは嫌ですし。それだけは避けられます」


 私の目的は達成されるのだ。

 まぁ、さっきはそこまで深く考えたわけじゃなかったけど。

 だめそうだし、次行くか、ぐらいの感じだった。


「だとしても、だ。……聖女というのは、自分の命が惜しくない人間ばかりなのか?」


 レゼクがげんなりした表情になった。

 おや。他に会ったことがある聖女は、自己犠牲精神が強い人だったのかな。


「皇子殿下が会った聖女って、そういう人だったんですか? 私はただ諦め気分だったんですけど、まさに心の底から聖女って感じの方ですね」


 でもヴァール王国へ行って、母の親族を探そうかと思ってる私にとってはいいことだ。

 悪い人ではなさそうだし。

 でもレゼクは、いつものように「そうだ」と淡々と答えはしなかった。

 少し黙り込み、それから懐かしい物を思い出すように言う。


「……誰かを助けるために、剣なんて持ったこともないのに、戦場の一番前に出てくるような人間だった」


 比喩なんだろうけど、想像したらぞっとする。

 今の世界で、何度も剣で手合わせをしたことがあるからこそ、何十何百という人の剣で突き刺されかねない状況にはなりたくない、と思うもの。


「そうなんですね……ずいぶん度胸がある人だったんですね」


 私が言うと、レゼクは珍しく、くくっと笑った。


「たしかに度胸はすごかった」


「にしても、皇子殿下はよく私が落ちるのに間に合ったと思いますし、よく岸に上がれましたね」


 めちゃくちゃ驚いた。

 この世界の人って、前世よりも頑丈で、身体能力も少し上だけど。

 だからって水浸しの毛布をかぶった状態で、水浸しの布団を抱えて崖登りとか、まずできまい。


「聖女の力が働いたからな」


「そんなに、驚異的な能力なんですね……」


 実際に見たことがなかったのでびっくりしたけど。

 そりゃあ、命を狙われているレゼクが、聖女に協力させようと思うわけだと納得できる。


「そういえばカールが、殿下は騎士の力を持ってるって知ってました。でも、カールが聖者だと知らなかったのはどうしてですか?」


 尋ねられたレゼクが、やや渋面になる。

 そして話そうとしたとき。


「へっくしょい!」


 濡れネズミになったせいで、体が冷えたらしい。

 ひとまず私達は、帝宮の部屋に戻ることにした。

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