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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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各自の行動  伍

 小一時間程すると、沖のほうから、白いモーターボートのような、船体が軽そうな船がこちらに迫ってきた。


 エンジン音は先程やってきた漁船とは打って変わり軽快そのものだった。そのモーターボートの先端には国旗が備え付けられていて、国家機関の所属である事が伝わってくる。船体にはアルファベットでポリスの文字が刻まれていた。


 モーターボートはゆっくりと接岸してくる。船首にいた白いシャツ姿の警官がロープを投げてきたので、源次郎がそれを係船柱に巻きつけた。


 エンジン音が止まり、船から背広姿の男が三名、鍔付き帽を被り青い作業服を着た男が二名、水上警察に属しているのか、白いシャツ姿の警官が二名がその船から降りてきた。


「いやいやいや、これは凄いですな、本格的な島城とは……」


 先頭を歩いてくる背の低い猿のような印象の男が、城を見上げながら呟いた。年の頃は四十代と思われる。


 後ろに付いている背広姿二人は二十代後半といった感じで部下のように見えた。そのまま三人は私達の眼前まで歩み出てくる。


「えーと、私は広島県警の警部で木下です。後ろは部下の堀尾刑事と中村刑事です。宜しくお願いいたします。それで、殺人事件が起こったとの通報を受けてやってきたのですが……」


城の管理を司る源次郎がその問いに答える。


「私はこの城の御用聞きで塙源次郎と申します。この城の主人である村上道正が寝所で昨夜亡くなっていたのです。それも胸に三本の矢を受けて……」 


 さすがに刑事達は顔を顰める。


「なるほど矢で殺されたという訳ですね、では早速ですが現場を拝見しても?」


「はい、勿論です」


 源次郎は頷き、城の方へ刑事達を案内しようと試みた。私、中岡編集と女中幾島もそれに付き従っていく。しかし漁船の船長はどうして良いのか解らないといった表情で、船の傍から離れずにいた。


「あの方は?」


「あの方は警察に無線で連絡を入れて頂いた漁船の船長さんです。こちらのお客様である中岡様と坂本様を迎えに来ていただいたのですが、その際に警察への連絡をお願いしたのです。この島には困った事に通信手段が無かったものですから……」


「わしは、只の漁師じゃ、ここまで渡る事がでけんと言うじゃけ、そん方々を乗せてきて、迎えに来ただけじゃ、そん方々が帰れんというなら、わしはもう帰りたいと思うけんど……」


 船長は困ったといった顔で声を発した。


「そん方々というのはどの方々ですか?」


 木下警部が私達に視線を送ってくる。


「は、はい、ぼ、僕と、この連れです。僕は中岡と申しまして、連れの方は坂本と申します。こちらのお城を見学に参ったのですが、交通手段がありませんでしたので、その船長さんに船で送迎して頂いたのですよ」


「なるほど見学ですか……」


「ええ」


 中岡編集は緊張気味に答える。


 その木下警部は、敢えてそれ以上問い正す事はせずに、横いた刑事に視線を送る。


「……堀尾刑事、あの船長さんから簡単にお話を聞いておいて下さい。関係がなさそうならお帰り頂いて結構です」


「はい、木下警部」


 堀尾刑事と呼ばれた背が高い方の刑事が手帳を広げながら船長の傍に寄った。


「さて、では参りましょうか」


 木下警部が天守方向に踏み出した。


「え、ええ」


 源次郎は頷き答える。


 源次郎を先頭に、木下警部、中村刑事、中岡編集、私、女中幾島、青い服を着た鑑識のような四名が、大手門を潜り抜け、三の丸、二の丸と登っていく。


「いやいや、すごい。しかし、よく作ったな~ここまでの城を……」


 木下警部は櫓や石垣を見上げながら呟いた。


 そうして、天守閣の手前側の玄関部で靴を脱ぎ、廊下を伝い天守下部の入母屋まで進んでいく。


 天守下部に入り込むと、廊下から皆が待機している場所が見えてくる。皆疲れきった顔をしていた。それでも警察関係者が来たことが解ると、妻の初は立ち上がり軽く頭を下げた。


「えーと、広島県警の木下です。なにか此方でとんでもない事が起こってしまったようで……」


「ええ、そうなのです。本当に恐ろしい事が……」


 妻の初は声を震わせながら答えた。


「後で皆様には細かくお話をお伺いたいと思いますが、まず先に亡くなられたという村上氏の様子をお見せ頂ければと思うのですが……」


「ええ、宜しくお願い致します。上の階におりますので確認して頂ければと思います」


 初はおずおずと頭を下げた。


「では失礼させて頂きますね」


 警部は深めに頭を下げ、周囲にいた警察関係者は小さく頭を下げた。


 そうして、上の層に警察関係者達は登っていく。源次郎と幾島と中岡編集、私は、そのまま警察の後に続き、村上氏の寝所があった層まで登って行った。


 村上氏の部屋の戸は、中岡編集が肩で体当たりした事により内側に倒れていた。そこへ廊下側から警察関係の人間が周囲に気を配りながら侵入していく。源次郎はそれに伴い部屋の中に入っていった。 


 中岡編集と私は、さすがに部屋の中までついて行くのは場違いだと感じ、部屋の戸の外側に立ち中の様子を窺った。


「うおっ、こ、これは凄い!」


 部屋に入った木下警部がその凄惨な光景に思わず声を上げる。


「本当に胸に矢を受けて絶命している。そして、その矢を放ったと思われるのは、まさか、この鎧武者だというのか!」


 木下警部が鎧武者を指差した。


「わ、私も、こんな事件はじめて見ましたよ……」


 横で中村刑事も驚いた声を上げている。


「鑑識、早速遺体の検分を始めてくれ!」


 木下警部の声で、一人の鑑識者が遺体の傍に近づき、もう一人は写真機を構え、写真を取り始める。


「……それで、いつ頃、この状態で発見されたのですかな?」


 木下警部が源次郎に質問した。


「ええ、毎朝六時に女中がご主人様にお声掛けして起こす事になっているのですが、お声掛けをしても一向に起きられる気配がないと言うことで、私を呼びに参ったのでございます。それで私もお部屋の前で再度お声掛けしたのですがはやはり返事はございませんでした。そっと引き戸を引いてその隙間から中を覗き込んだ所、この惨状が見えまして、私は体当たりをして開けようとしたのです。ですがびくともしません。それで中岡様に戸へ体当たりをして開けてもらったのですが、やはりご主人様が胸に矢を受けて亡くなられていたと云う訳です」


「なるほど……」


 木下警部は腕を組みながら答えた。


「……それでは、しばらく警察の方でこの部屋と、遺体の方を細かく調べたいと思います。皆さんは下の階で他の方達とお待ちになっていただけますか?」


 木下警部は、部屋の中の源次郎と、部屋の外に待機していた中岡編集と私、そして幾島に視線を送りながら、少し大きめの声で促してきた。


「は、はい、解りました」


 源次郎が答え、私達は階段を降りて、妻の初達が待機している場に戻った。


「……なんとか警察が駆けつけてくれましたね」


 妻の初は安心したのか、僅かに微笑んだ。


「ん? 漁船の船長はどうしたのですか? その男も犯人の仲間かもしれませんよ、逃がしてしまったら拙いんじゃないですか?」


 料理番が、戻ってきた私達に視線を向けながら聞いてきた。


 その問いに源次郎が答えた。


「船長さんは船着場付近で刑事さんの事情聴取を受けています。ですが私が思うにあの方は犯人の仲間などではないと思います。不審なところは一切ありませんでしたし、普通の気さくな漁師さんでしたよ」


 漁師さんを直接見た源次郎は料理番の言っていた説を打ち消すかのように答えた。


「なら、いいですがね……」


 料理番は薄く笑って頷いた。

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