各自の行動 弐
「では、女中さん達はいかがお過ごしだったんですか?」
素人探偵中岡編集は引き続き質問する。
その質問に、一番年配の女中頭といった感じの女性が手を上げて答えた。
「えー、私は幾島と申しまして、この城の女中頭を務めております。昨夜は御夕食の片付けをしてから、福子さんと美津さんに、呉羽さま、お初様、飛鳥様、お客様方の寝具の用意を指示をしてから、ご主人様の寝具の用意をしに天守の二層目に登りました」
「あれ、寝具の用意をしていたという事は、あのお布団を敷いたのは、幾島さんなのですか?」
「え、ええ、そうです。私は、いつも頭が東向きになる状態で畳の縁を跨がないようにとの仰せに従い、いつもの場所にいつもの向きでお布団を敷きましたが……」
さすがに自分が敷いた位置の所為で矢に射られた可能性がある為か、幾島は少し動揺気味に答える。
「頭が東向きになるようにですか…… では、その時、あの鎧兜を含め、村上氏や部屋の様子でいつもと違った様子とかは?」
「いえ、特別気になる事はございませんでしたけど……」
「特に無いですか……」
中岡編集は頷く。
幾島は気を取り直し、説明を続け始めた。
「……その後、本丸御殿の入口で美津さんと福子さんと合流してから二の丸部分にある女中部屋に戻りました。そこで源次郎さんを含め、皆で食事を取ってから、自分の部屋でお休みさせて頂きました」
「……因みに本丸から引き返す際や、夜中に変わったことなどはありませんでしたか?」
「いえ、その点も特にはありませんでした。……それで翌朝は五時半頃起床して、本丸のお掃除を行い、六時頃ご主人様のお部屋にお声掛けに赴きました所、いつもと様子が違っていたので、源次郎さんを呼びに行った次第なのです……」
「という事は基本的には美津さんや福子さんは幾島さんの指示で動かれているという事なのですね」
素人探偵中岡編集は、視線を美津と福子に向ける。
「そうですね」
美津と福子は声を揃えて返事をした。
「美津さんと福子さんは、先程の幾島さんのお話通り、奥様、呉羽さん、飛鳥さん、そして僕達の寝具の用意をしていただいたと思いますが、その時何か気が付いた事とかはございましたでしょうか?」
「いえ、特にはありませんでしたけれど……」
美津と福子は顔を見合わせながら答えた。
「夜はお食事を取られてから、お二人ともお部屋でお休みになられて?」
「……ええ、そうです。私と福子さんは同部屋なので朝まで一緒でした。起床したのも一緒の時間です。朝、御殿部分の掃除をしていたら、幾島さんが慌てた様子で、廊下を行ったり来たりしているのが見えて、話を聞いたらご主人様が部屋から出てこられなく変だというので、一緒にお部屋まで行ったんです。そうしたらあんな事に……」
美津が頷きながら返事をする。
「……あっ、そういえば、昨夜、本丸から二の丸に戻る時、階段上から二の丸の端の方に一瞬でしたけど小さな光を見たような記憶があります。気のせいだったのかもしれませんが……」
福子がふと思い出したように言った。
「……光ですか?」
「ええ」
「それは、美津さんや幾島さんもご覧になられたのですか?」
「いえ、私は気が付きませんでした」
幾島が答えた。
美津は幾島の答えに同意するかのように頷いた。
「いえ、あれは気のせいだったかもしれません……」
福子は自信が無くなってきたのか言葉を濁した。
「なるほどです…… でも少し気になるお話ですね……」
中岡編集は続いて源次郎に視線を送る。
「それでは、続いて源次郎さんがどうお過ごしだったかをお伺いしても宜しいでしょうか?」
「はい、私は女中達と一緒に、夕食後の片付けをして、本丸各所の戸締りを確認してから、二の丸の使用人用の食事場で女中達と食事を取りました。食事が終わると、各所を見回りながら、三の丸に降り、大手門に鍵を掛け閉ざし、そして船着場横の平櫓に戻りましたよ」
「あの大手門は夜は鍵を掛けて閉ざされているのですか?」
「ええ、不審者が来た場合は大手門を超えられないようにする為にですが……」
「だとすると、やはり外部犯の可能性はずっと下がりますね、大手門が閉じられていたのなら天守方向に登っていけないですものね?」
中岡編集は確認するように源次郎に質問する。次第に探偵スタイルが様になってきているような気がする。
「いや、でも、二の丸の各所を確認しながら下る時、二の丸から水車のある天守閣の真下に向かうための階段に設けられている櫓下の搦手門の閂が開いていたのです。まあ、あそこは開いていたり、閉じられていたりと、まちまちな場所ですけどね……。もし外部から来た者がいるなら、水車側に船を寄せて天守に乗り込んだ可能性も……」
「えっ、それでは源次郎さんが二の丸から船着場の平櫓に戻る頃に搦手門の閂が開いていたと言うのですか、それを確認されたのは何時頃になりますか?」
「多分、夜の十一時頃だったと思いますが……」
「その時、その下の水車辺りは確認されたのですか?」
「ええ、見回らないと心配ですからね、でも特段変わったことは無かったですね……」
源次郎は真剣な面持ちで答えた。
「まあ、搦手門の閂が開いていたのなら、外部犯の可能性も再度視野に入れないといけないかもしれませんね…… 福子さんが見られたという光の事もありますし……」
中岡編集は腕を組みなおし真剣な顔で思案する。
「まあ、とにかく私は、いつものように船着場近くの平櫓で寝泊りして、朝、三ノ丸の掃除をしていたのですが、幾島さんがご主人様の様子が変だと言いに来たので、ご主人様の部屋に赴いたと云う訳です……」
「なるほど……」
中岡編集はそう呟きながら、最後に残った料理番の男に躊躇いがちに視線を向けた。
料理番は顔を隠しているせいで、年齢などがいまいち把握出来なかったが、よくよくみると、長身痩躯で年齢は五十歳ほどに見えた。
「ふっ、ふふふふふふ、さっきから聞いていれば、客人さん、あんた随分偉そうな口振りだな!」
料理番はいきなり笑い出したかと思ったら、鋭い視線で中岡編集と私を交互に見た。
「俺から言わせてもらえれば、あんた等が一番怪しい不審者に見えてならないがなあ、今まで平穏な日々だったものが、あんた等がきて、宿泊して、その翌日にこの城の主人が亡くなったんだぞ、実はあんた等がその外部犯じゃないのか?」
「ええっ、僕達がですが?」
中岡編集はうろたえた。今まで探偵然として偉そうに振舞っていた所で、思わぬ指摘が入ったので驚いたのだろう。そしてまさか自分が犯人だと疑われるとは思ってもみなかったようだ。
しかし、その料理番の一言で、皆は気付いたように、私達に対して猜疑的な視線を送ってきた。
「ち、ちょっと待ってください。ぼ、僕は不審な人間でも、外部犯でもありませんよ……」
中岡編集が言い訳がましく云った。
「あんたは人に細かく行動を問いただしていたけど、そもそもあんた自身はどうなんだよ?」
随分口のきき方が悪い。無口な人間なのかと思っていたら、口を開くと止まらなくなる性格のようだった。
「えっ、ぼ、僕ですか? ……な、ならば、僕が何をしていたかをお話しますよ……」
中岡編集はしどろもどろになりながら答えた。
「ちゃんと不審者ではないということを、説明してくださいね」
中岡編集の挙動不審な反応に料理番は薄く笑いながら云った。
「ぼ、僕は、夕食後、美津さんに客間へご案内して頂いて、そして敷いてもらった布団で休ませて頂きました。昨夜は疲れていたのか布団に入ると物凄い睡魔が襲ってきて、そして朝までぐっすりと寝かせて頂きました…… 因みにそこにいる坂本龍馬似の連れと一緒に一緒にです……」
ああっ、また余計な一言を云いやがった!
「坂本龍馬似の連れ?」
料理番が訝しげな表情で私を見た。




