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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第一章       ● 其ノ三 備後水軍城殺人事件
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再現された島城  参

 島の周囲は切り立った崖になっていた。天守に唯一向かうことが出来そうな門の両脇も石垣が組まれ、崖のように切り立っている。つまり、この大手門以外からは天守方向には進めないようになっているという事だ。この島城も通常の城郭と同じように防衛に関しては細かく考えられ作られているようだった。


 御用聞きの男が、大手門の脇の小型の戸に手を掛けた。大軍を動かす訳でもないので、わざわざ大きい大手門を開ける必要がないからだろう。しかしその戸に手を掛けた手を見た瞬間、私は僅かな衝撃を受けた。その男の右手には指が三本しかなかった。親指と一指し指、薬指はあるのだが、中指と小指が根元から無くなっていたのだ。


 気が付いてしまったものの、あまり意識してしまっても申し訳ないので、私はそのことに気が付かなかったふりをした。


 門を抜けると、その道は大きく左に曲がり、正面に見えていた天守閣が右側に位置するようになる。


 そのまま石段が織り交ざる坂を登りきると、広めの郭、恐らく三ノ丸となる場所へと出た。そこには面積が広そうな入母屋型の櫓があった。


「こ、この入母屋も住居の一部なのですか?」


 私は立派な櫓を見ながら質問する。


「いえ、ここは物置として使っています。なにぶん島ですので、ある程度備蓄がないと侭なりませんからね」


 御用聞きの男は視界に太陽が入って眩しいのか目を細めながら答える。


 その三の丸の奥まで進むと、再び上に登る石段があった。私達は御用聞きの男に付き従い、石段を登っていく。もう随分天守閣が近い。外から見た印象では、黒漆喰で塗り固められた望楼型天守閣で、大天守の他に小天守まで設けられており中々迫力があった。


 私達は二の丸部にもある入母屋前を通過して、石垣の淵に沿って築かれた塀を横に更に石段を登っていく。高度も随分増し見晴らしが更に良くなってきた。ふと、随分と横が静かだなと視線を送ると、中岡編集が辛そうにしながら進んでいた。呼吸が荒く顔色が悪い。相変わらず持久力が乏しいようだ。そして涙目になり私に視線を送ってくる。


 また、竜馬よ僕をおぶってくれ、とか云い出しそうだ。私は変な事を云われないように歩を早め中岡編集から距離を取った。


 石段を登りきると島の一番高い部分に位置する本丸部分に到着した。


 周囲は屋根瓦の乗った塀に囲われ、その塀には矢狭間、鉄砲狭間などが設けられている。本丸部分には手前側に石垣が設けられた低層が広めの入母屋があり、その奥に天守閣があった。その二つは一階部分で繋がっているように見受けられる。仮にそうだとすると連郭式城郭の類になるのかもしれない……。


 私と御用聞き風の男性に遅れて、中岡編集が肩で息をしながらも何とか到着した。


「どうぞこちらへ」


 石段の上には庇があり、そこが玄関となるようだ。そのまま私達は入母屋の入口となる玄関部分へ促された。


「ここでお履物を脱いで頂けますか?」


「え、ええ、了承しました」


 私と中岡編集は履物を脱ぎ屋内へと踏み上がる。


 そのまま手前側に位置する建物の大外を進み廊下を巡っていくと、内側に書院風の部屋が幾つも見えてきた。手前側の入母屋は、御殿風な造りのようだった。

 どんどん廊下を進み、天守閣の下部に当たる入母屋へと入り込むと、木で出来た階段が見えてきた。どうやら村上氏は天守の上層階にいるらしい。


 階段を登るのかと思っていたら、御用聞きの男は階段脇を抜け奥へと進んでいく。そして、ある引き戸の前で止まった。


 御用聞きの男は徐に引き戸の脇にある木製の取っ手をグルグル回し始めた。

 特に辛そうな気配はない。部屋の奥からはゴロゴロ何かを廻している様な音が聞えてくる。しばらくして御用聞きの取っ手を廻す手が止まった。その上で目の前の引き戸を引き空ける。


「どうぞ」


 中は厠程の大きさの小部屋だった。中には明かりの灯った行灯が置かれている。


「えっ、こ、これは、もしかしてエレベーターなのですか?」


 私は驚いて質問した。


「ええ、ご主人様の趣味で付けられた物です。電気を一切使わないからくり昇降機といった物です。沢山の歯車を使い一定の速度しか出ないようにしてあるとの事で、滑車と重しを使って下から上まで登る事が出来ます。飯塚庄九郎というからくり師に依頼して作らせたものでございます。ただ構造上降りてはこられないので、降りるときは階段を使っていただく事になりますが……」


「す、すごい!」


 私は猛烈に感動していた。まさかこんな不思議な乗り物に乗れるとは思ってもみなかったからだ。


「こりゃあ凄い、そして助かった! もう登るのは勘弁して欲しいと思っていた所でしたよ」


 中岡編集は階段を登らなくてよいのが余程嬉しいのか、嬉々としてその昇降機に乗り込んだ。私も後から乗り込んでみる。

 昇降機の戸は二重扉になっているようで木製ながら少し重そうだった。その戸を御用聞きはゆっくりと手で閉じた。


 昇降機内部には穴が開いていて、御用聞きの男は、そこにも手を突っ込み何かをする。


 手を抜くと同時に昇降機がゆっくり上昇し始めた。


「お、お、おおおおおおお、凄い、凄いぞ、登っていくぞ!」


 中岡編集は感嘆の声を上げる。


 どのぐらいの速度が出ているのかは解らないが、そんなに早そうではない。そして、その昇降機はしばらく上昇を続けた後、どんと軽い衝撃と共に停止した。普通のエレベーターより衝撃は強いが許容範囲だった。


 御用聞きは、再び手を添え戸を引き開ける。そして先に昇降機から降りてから、私達を促した。


「どうぞお降り下さいませ」


 中岡編集が先に、私は後から緊張気味に昇降機を降り二、三歩踏み出す。そこは板張りの廊下部分だった。


「申し訳ありませんが、ここで少々お待ち頂けますか? 一応ご主人様に確認してまいりますので……」


「ええ、お待ちしておりますよ、間違いなくアポイントは取っていますので、ご主人様に確認してみてください」


 御用聞きは小さく頷くと、板の張られた廊下を進み、突き当たり角を左に曲がっていった。


 しかしながら、エレベーターも然ることながら、こんな海のど真ん中に、個人の資産でここまでの城を作ってしまうとは驚嘆に値する。わたしは只々感心するばかりだった。


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