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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第一章       ● 其ノ三 備後水軍城殺人事件
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再現された島城  弐

 私達の乗った船は接岸する為に大きく回り込んでから船着場に近づいて行った。


 その船着場は大きな石を敷き詰めて石垣のように作られて居り、数席の船が接岸できるようになっていた。このような場所すらもコンクリートが使われた形跡はなく、本格的な島城を模して作られた事が窺い知れる。


「中岡さん、隣を見てください。随分変わった形の船がありますよ」


 私達の乗ってきた漁船の傍には別の船が接岸されていた。


 しかし、その船もよく見かけるヨットや、クルーザーとは趣が違い、甲板の上に木で壁が作られ、その壁で囲われた中には櫓のようなものがある古そうなデザインの船だった。


「ああ、見たところ安宅船を意識して作られているようだな……。戦国期、矢の攻撃を防ぐ為に壁が設けられ、将がいる場所として櫓が設けられこんな形をしているとか……」


「安宅船ですか、資料で読んだ事がありますよ。でも絵とかではなくこう間近で見ると、かなり迫力がありますね」


「まあ、漕ぎ手が艪を出す穴や、矢狭間にガラスが嵌め込まれている所をみると、現代の船にそういった装飾をした物だと見受けられるがね……」


「しかしながら、船までここまでするとは、村上道正という人物の拘り具合は相当のもののようですね」


 私は船を見上げ、呆然としながら呟いた。


「だからこそ取材のし甲斐があるというものじゃないか」


「まあ、そうですけど……」


 そんな私達を横目で見つつ、漁船の船長が渡し板を取り除きながら声を掛けてきた。


「じゃあ、四時頃むけえにくるけ」


「あっ、すいません、よろしくお願いします」


 中岡編集は手を挙げて応えた。


 私達を乗せてきた漁船はゆっくり岸を離れ、もと来た尾道方面へ帰って行った……。


 船着場に取り残され、改めて周囲を見回すと、近くには平櫓のような船宿のような建物が建っている。人の姿は無い。


「……誰も出迎えてくれませんね……」


 余りに静かなので中岡編集に声を掛けてみた。


「そうだな誰も居ないな……」


 中岡編集はボリボリ頭を掻きながら答える。


「どうしましょう? 見たところ、その左側の道を登り進んで行けば天守部分まで行けそうになっていますよ」


「しかし、大手門みたいなのがあるし、仮に鍵が掛かっていなかったとしても許可なく門を潜るのは拙い気がするな……」


「確かに……」


「矢張り、先ずはあの平櫓のような船宿のような所へ声を掛けた方がよい気がするな」


 中岡編集は視線を向ける。


「まあ、そうですね」


 そうして私達は船着場近くの平櫓ににじり寄る。


「すみません、誰かいらっしゃいませんか?」


 中岡編集が板戸を叩いた。


 しばらくすると板戸が開き、中から作務衣のような、法衣のような服を着た男が現れた。雰囲気からするに御用聞き、世話係といった印象だ。


「はい?」


 その御用聞きのような男は、私達が訪問する事など知らないといった様相で胡散臭げに見る。確かに格好はというと中岡編集は茶色い背広姿とコーディロイのズボンで少々ラフだった。そして私は相変わらず長い襞付の茶色いスカートに編み上げブーツ、そして黒っぽいカーデガンを羽織っている。いずれにしても島城を作る程の名士と面識があるようには感じられないかもしれない。


「あっ、あの、私、中岡慎一と申しまして、今日、村上道正氏のお屋敷を見学させていただく事になっておりまして、訪問させていただいたのですが……」


 中岡編集は余りに素っ気無い対応に焦ったのか、しどろもどろに問い掛けた。

 さっき聞いた所では手紙で村上道正氏と連絡を取り、訪問する確約を得ているような事を云っていたが本当なのであろうか……。


「えっ、見学? ああ、そうなのですか、本日ですか、ご主人様からは、そんな話は入っていなかったもので……」


 その御用聞きは、少し戸惑いながら声を発する。


 おいおい、本当に大丈夫か? 


「えっ、いや、手紙で連絡を取り、ちゃんと許可は得ていますけど……」


 中岡編集は返信で受け取ったらしい手紙を見せ、少し焦りながら説明する。御用聞きは中岡編集の差し出した手紙を受け取りそれに視線を走らせていく。


「ふむふむ、確かにご主人様からの手紙のようですね、こちらの連絡漏れだったようです。許可を得ていらっしゃるなら、結構でございます。それならば本丸までご案内いたしましょう」


 その御用聞きは、納得してくれた様子で頷き答えた。


 そして平櫓の戸を閉じ、私達を誘うように歩を進め始めた。


「それでは私の後に着いてきて下さいませ」


 私は少しホッとする。 僅かな傾斜を進んでいくと両脇を石垣で固めた大手門に差し掛かる。


「うわ~、立派な門ですね」


 本格的な佇まいに私は思わず声を上げる。


「ええ、宇和島にすむ宮大工に依頼して、宇和島城の城門を模して作らせたようです。小規模ながら渡櫓型の櫓門となっています」


「なるほど立派な訳ですね。宮大工か手掛けたなら本格的なのも頷けますよ……」

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