鑑識からの質問 参
間宮は、なぜか警部よりも僧達を気にしながら、落ち着かない様子で声を上げ始めた。
「……す、済みません、確かに間宮という名前は偽名だよ。ただ、これだけは聞いてくれ、俺は和尚を殺害なんてしていない……」
「では、あなたは何者なのですか?」
土方警部は覗き込むように質問する。
「お、俺は、奈良の方から派遣された人間だ……」
それを聞いた良基、寂抄尼、良寛等は険しい表情を作る。
「奈良と云いますと?」
「大華厳宗の発祥である奈良から派遣されたんだよ」
「それはどういう理由でですか?」
宗教や宗派というものに疎いのか、土方警部はよく解らないといった様子で問い返す。
「調査の為だよ」
「調査ですか?」
「そもそも、この施設の宗教である大華厳宗というのは、嘗て奈良の東大寺を総国分寺として、日本中に広まっていった宗教だったんだよ、ただ仏教の黎明期に誕生した物だった為、未完成で、未成熟な部分が多く、その後に生まれた真言宗や天台宗に取って代わられていったけどな、ただ東大寺という歴史的文化遺産をその後の権力者が残し続けていったお陰で、その宗派である大華厳宗という宗派は残り続けた。そして明治時代起こった神仏分離令、そして、その後宗教団体法が確立し、離脱、独立が多く起こった。そんな最中に、どうやらこの上州の大華厳寺も形成されたらしいんだ。俺は東大寺側の依頼で、どういう経緯でこの寺が大華厳寺を名乗り始めたのか、そして、それだけでなくこの上州の大華厳寺が正しい教学を伝えているのか、大華厳宗の名を貶める事をしていないかという事を調べる為に此処へ来たんだよ……」
「それでは、あなたは、東大寺の方から遣わされた人間だという事ですか?」
「ああ、そうだよ、俺の本当の名前は橘久雄だ。住所所在地は奈良県奈良市雑司町……だよ、その名前と住所で調べてみてくれ、俺の言っている事が正しい事が解って貰える筈だから」
その間宮改め、橘という男の説明を聞いた土方警部は、横にいた刑事に目配せをした。その刑事はすぐ玄関の方へ向かって廊下を歩いていった。
「しかしながら、えーと橘さん。あなたが東大寺の方から派遣されてこの地にやってきたのは解りましたが、そうなると余計あなたと和尚様の間に確執めいたものが見え隠れしてくるのですが、どうでしょうかね?」
土方警部は穿った物の見方をして質問した。
「あっ、そういえば、和尚様の説法体験の際にも、さっきの説明と同じような事を言って和尚さんを責めていたような感じでしたよ」
武藤京子が説法体験の時の話を持ち出して説明をする。
「いや、確かに、あの時は、責めてはいたが、殺そうとなんて思っていない、そんな事をして東大寺側の権威を汚すような事を、俺がする訳がないだろう」
橘は必死に弁明をした。
そんな橘に視線を送りながら良寛が言及する。
「……な、なるほど間宮さんは宗教関係の方でしたか…… 写経体験の際にも何やら探るような視線を向けてこられていたので、実は私も間宮さんは、なにか怪しいと。もしかしたら、調査員かなにかと思っていましたが……」
それを訊いた橘は、ばつが悪そうな表情をする。
「まあ、一応ですが、橘さんがどういった人間なのかは解りました。それでは話を戻す事にしましょう」
土方警部はある程度納得出来たのか、その件の話を終えた。
「さて、犯人と思しき人物である生田友則という人間なのですが、この方がどのような人物なのかを考えた時に、二つの可能性が考えられると思います。それは宿坊体験者を装って入り込み、そして、殺害し終えた後、山林に紛れ消えていったという可能性……」
そこまで云ってから、土方警部が私達に鋭い視線を向けてくる。
「そして、もう一つは、生田友則という架空の人物を、ここに居いる誰かが演じているのではないかという可能性です」
さすがに警部だけあって目の付け所が違うようだ。格好を付けているだけではないらしい。
「そのような訳で、外部から入り込み殺害してから行方を暗ましたという線に関しては、吾妻郡全域、に非常線を張り、身柄の確保に取り組みつつ、一方では、生田友則なる人物が皆さんの中に紛れている事がないかどうかを調べていきたいと思います」
土方警部が鋭い視線を送ってくる。




