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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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行動確認  参

 そんな所へ、再び先程の鑑識隊の責任者がやってきた。


「ちょっと失礼しますよ」


 土方警部は手を上げて話を中断する。


「どうしました勇さん」


 そう云いながら土方警部は鑑識隊の責任者に近づく。


 鑑識隊の責任者が土方警部に小声で耳打ちをする。それを受けて警部は何度も頷き返事をした。


 一通り説明が終わったのか、鑑識の責任者は我々に向かって小さく頭を下げ、再び遺体のある鈷剣の根本の方へと戻っていった。


「……さてと、今鑑識の方から報告が入ってきました。そして、亡くなられた良弁和尚の死亡推定時間がおおよそ解りました。昨夜の午前一時から三時という事です。それとまだ検出は出来ていませんがあのような殺害方法がなされたにもかかわらず、遺体に余り抵抗した跡がないことから睡眠薬を飲まされていた可能性が高いという事でした……」


 その説明を聞いて、皆の表情に緊張が走る。


 土方警部はゆっくりと良基に視線を送った。


「ところで良基さんでしたね、丁度良いので、あなたが昨日から今朝までどのようにお過ごしになられたのかも、簡単にお聞かせい頂いても宜しいですかな?」


「は、はい、解りました」


 良基は緊張気味に返事をした。


「わ、私は昨日、お昼頃に大仏殿の方で良弁様と修行僧の良寛と共に花替えを致しておりました。ちょうど大仏様の左脇侍である如意輪観音坐像の花替えをしている際に大仏殿の正面から入ってこられた宿坊体験のお客様のお姿がみえたので、お声掛けを致したのでございます」


 私と中岡編集の事か、と思いつつも、私は俯き口を挟まず良基の話に耳を傾ける。


「私はその方々をご案内すべく戒檀堂へとご一緒しました。その後、寂抄尼にその方々を託し、また大仏殿に戻り、良弁様と、良寛と一緒に花替えの続きを致しました」


「その時分は良弁和尚とずっとご一緒だったのですか?」


 土方警部が聞いてくる。


「ええ、三時から始まる良弁様の読経と説法の儀にも同席しましたので、その終わりまで一緒にいました。それは宿坊体験の方々もご存知だと思いますけど……」


 武藤京子とその連れの大谷正志が小さく頷いた。


「読経、説法体験が終わった後、私は皆さんを写経体験が行なわれる開山堂までお連れしてから、直ぐに大仏殿へと戻りました。その後は大仏殿内の清掃を行い、五時頃からは中門の回廊の掃除を致しまして、六時少し前には勧進所に戻りました。その後、皆と非食を取ってから、九時頃には就寝といった感じです……」


「ん? その非食というの何ですか? 夕食の事ですか?」


 土方警部は聞き慣れない言葉に小首を傾げた。


「ええ、そうです夕食の事です」


 良基は頷き答える。


「その非食はお一人で?」


「いえ、ここにいる良寛と法観と一緒にですよ」


 良基は横にいる僧に視線を向けて説明する。


「ほう、その時は三人がご一緒だったと?」


 土方警部が聞く。


「ええ、そうです」


「もしかして、その後もご一緒だったのですか?」


「はい、我々修行僧の部屋は大部屋で一緒の部屋で寝泊りしていますから、寝る時も一緒です」


「……なるほど、因みになのですが、その夕食の時間から朝までの間で、まあ、良弁和尚の死亡推定時間前後と云ってしまった方が解り易いですが、その時間に部屋から姿が見えなかった人などは居りますかな?」


「姿が見えないというのはどの位の時間を指すのですか? もちろんトイレに行ったりしていましたから、私にしても、良寛や法観にしても、そのような時間は多少なりともあったと思いますけど……」


 良基の質問に土方警部は少し考えてから口を開く。


「……そうですね、では、一時間以上、姿が見えなかった方などは?」


「えっ、一時間ですか…… いや、そんな長い時間居なかったということはありませんでしたが……」


 良基が良寛や法観に視線を送り双方で確認しながら答えた。


「そうですか…… どなたもそんな長い時間抜け出していなかったと云うのですね、了解です」


 土方警部は小さく頭を下げた。



 土方警部は皆に視線を送りながら質問する。


「それでは少し話を戻しましょう。改めてですが、皆さんの中に四時以降の和尚の動向を知っている人がいたら、私に教えて欲しいのですが?」


 しかし、皆は顔を見合わせては首を横に振るといった動きを繰り返し、和尚の動向を名乗り出る者はいなかった。


「ん? 誰も四時以降の和尚の行動を把握していないと云うのですか?」


 少し苛立ち気味の土方警部の質問に、皆は頷いて答えた。


「……困りましたね、ならば、質問を変えましょう。それでは、あの大仏殿は昨日の何時頃にどなたが閉じられたのでしょうか?」


 その土方警部の問い掛けに、私達の写経体験の講師を勤めてくれた良寛が手を挙げ答えた。


「そ、それは私が担当しました。で、でも、私が大仏殿の戸を閉める際は、いつもどおりで特に変わった様子などはありませんでしたよ…… ましてやあんな無残なお姿の良弁様などはどこにも……」


「戸を閉められたのは何時頃の事ですか?」


「昨日の夕刻、午後五時五十分です。その後に鐘突き堂で、六時の鐘を突くのが私の日課ですから……」


 私はその良寛の説明を聞き、夕食前に聞こえてきた鐘の音を思い出した。


「えーと、貴方は先程話に出てきた良寛さんですね、それではついでに昨日の昼頃からの行動をお聞かせ頂いても宜しいでしょうか?」


 良寛は黙って頷き、ゆっくりと口を開いた。


「畏まりました。良基の方と重複する部分も多いですが、謹んで説明させていただきます……」


 土方警部が頷いた。


「お昼頃は先程良基が説明したように、私は良弁様と良基と共に花替えの為大仏殿におりました。その後、良弁様と良基はそのまま続けていましたが、私はその後に南大門の清掃をする事になっていたので、そちらの方へ向かいました。南大門の仁王像の掃除なども行い、それが終わりましてから、写経体験の講師をする予定だったので、開山堂の方へ赴きました。そして四時から写経体験の講師を勤めさせて頂いた次第です」


 武藤京子はそうだと云っているかのように肯いた。


「写経体験が終わりましたら、皆さんを開山堂入口までお見送りして、教室の後片付けと掃除を行い、五時四十分位に大仏殿へと赴き正面門を閉じ、そのまま鐘付き堂へと向かい六時の鐘を突いてから、勧進所に戻り良基と法観と一緒に非食を召して、後は九時頃就寝といった感じです」


「なるほど…… それで、その後は先程良基さんにお伺いしましたように、お部屋から出られる事なく翌朝までお過ごしになられたという訳ですね?」


 土方警部が聞いてくる。


「まあ午後八時頃と、何時だったかは覚えていませんが、夜中にちょっとトイレへ行きましたよ、基本的には部屋の方に居りましたけど……」


 良寛は頭を掻きながら答えた。


「そうですか…… ところで朝はどのようにお過ごしで?」


「えーと、朝ですか、朝は五時頃から法観と一緒に南大門の先に位置する石畳の掃き掃除をしておりました。それが終わってから法観と勧進所の方へ戻った所に、良基が慌ててやってきたのです。良弁様が亡くなられていると叫びながら……」


 横にいる法観という太った僧は小さく頷いた。


「そんな所です……」


「……なるほどです。良寛さんお話有難うございました」


 土方警部は一応納得した様子で声を上げた。


 そして、土方警部そのままは良寛の横に立つ法観に視線を移した。


「えーと、あなたは法観さんでしたね、そのまま続けて、あなたの昨日の行動も簡単で良いのでお聞かせ願えますでしょうか?」


「えっ、は、はい」 


 法観という僧は緊張気味に答えた。


 その法観という僧は体こそ大きいものの、よく見ると意外と幼い顔立ちをしていた。もしかしたら随分年が若いのかもしれない……。


「ぼ、僕は、昨日のお昼頃は、勧進所の方で宿坊体験の人達の受付をしていました。最初にカップルの方々が来られたので、戒檀堂の方に案内しました。次に間宮さんという人が来られたので同じく案内して、その次に石田さんというお爺さんを戒檀堂の方にお連れしました。そして最後に生田さんというサングラスを掛けてマスクをした人を案内しました……」


「その際、生田という人物とは言葉は交わされましたか?」


 気になったのか土方警部が聞いた。


「いえ、その人に声を掛けたんですが、自分の喉辺りを指差した後、指でバツを作っていたので、喉の調子が悪いみたいでしたけど……」


「喉の調子が悪いですか……」


 土方警部は顎に手を添え呟く。


「その後は、僕は一度勧進所に戻ってから、町の方へ買出しに出掛けました……」


「んん? 買出しですか? 一体何の買出しを?」


「宿坊の方々のお食事の材料や、自分達の非食用の食材の買出しなどです。それ以外にも、日用品などの買出しもありますけど……」


 法観は説明する。


「色々な買出しということですね、解りました。それで何時ごろ戻られたのですか?」


「四時半頃です」


「その後は?」


「一度勧進所に戻ってから、良基さんと中門の回廊の掃除をして、その後は六時少し前に勧進所へ戻りました。中門の掃除からは良基さんとずっと一緒です」


 法観は必死に思い出しながら説明する。


「それでは、夕食後にお部屋から出られたりとかはどうでしょうか?」


「トイレにも行きましたし、非食の食器の返却や、寂抄尼様から明日の指示を聞く為に、戒檀堂に行ったりしましたよ、でも、そんな大した時間じゃなかったけれど……」


 土方警部が色々質問して僧侶がその質問に答えている横で、刑事達がその答弁を細かく手帳に書き込んでいた。


「では、夜中はどうですか?」


「夜中ですか…… 多分十二頃だと思いますけど、麦茶を飲みに冷蔵庫のある場所まで行きましたけど、その後ちょっとトイレに寄って戻りました。それだけですよ……」


「なるほど……」


 その説明を聞いた土方警部は頷いた。


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