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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第五章
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行動確認  壱


 正面扉付近では、間宮、老人、カップルの二人、寂抄尼、女中等が、南大門の方へ視線を送っていた。その視線の先の方から、サイレンの音が段々と近づいて来る。


「警察が到着したみたいですね」


 寂抄尼が小さく声を上げた。


 ある程度サイレンの音が近づいたかと思ったら、サイレンの音がピタっと止まった。


 そのまま様子を窺っていると、二人の警察官が中門下をこちらに向かって歩いてくるのが見える。その大仏殿の前まで警察官が近づいてきたのを見留めると、良基は慌ててそれを出迎えに行った。


「お、お待ちしておりました」


「吾妻署の者です。通報を受けてやって来ました。なんでも大仏殿の内部で人が死んでいるという事でしたが……」


 警察官は訝しげに聞いてきた。


「えっ、はっ、はい、大変な事が起きてしまいまして……」


 良基はしどろもどろに説明する。


「それでは早速、現場を拝見させて頂きましょうか」


「あっ、は、はい、此方でございます」


 良基は大仏殿の内部を手で指し示し、内部へと促した。


 扉の外側に出て警察が来るのを待っていた私達は横に避け、警察官が内部へ入っていくのを見守った。


 戸の外側から内部を覗っていると、中に入るやいなや、良弁大僧都の異様な亡骸を見た警察官の驚きの声が聞こえてくる。


「う、うわっ、こ、これは酷いな……」


「おおっ、何という状態だ…… い、一体どうやったらこんな事に……」


 横にいたもう一人の警察官が驚きの籠った声も聞こえてくる。


「そ、それがですね、朝の勤行を執り行おうと、正面の戸を開け内部に足を踏み入れた所、このような状況になっておりまして……」


 良基が震える声で説明するのが聞こえてきた。警察官達は緊張の帯びた顔のまま一度外に出て来ると、すぐに無線でどこかに連絡を取り始めた。 


「こ、今回の件は、我々では手に負えません。県警にすぐ来てもらえるように連絡を入れますから……」


 もう一人の警官が我々に詳細を説明した。


「申し訳ありませんが皆さんはここで待機していてください。動き廻らないようにお願いしますね」


 そうして、我々は行動を制限させられ、その場から動かないようにと指示される。当然、大仏殿内への立ち入りも禁じられた。


 それから一時間後、再びサイレンの音が鳴り響き、所轄である吾妻署の刑事や警官、更には群馬県警から派遣されたのかグレーのツナギを着た鑑識らしき人々や背広を着た人間などがどんどん集まってきた。


 随分と物々しい雰囲気になってきた。


 警官の簡単な内部の確認後、鑑識の人間は色々な器具を手に大仏殿内に入り込み、写真を撮ったり、現場の状態を確認しはじめる。警官が封鎖の意味合いなのだろうか、大仏殿の周囲を取り囲み鋭い視線で辺りを見張り始めた。


 しばらくすると、警察関係の人間の中で一番偉そうに見える背広を着た男が、刑事と思しき二人の部下を両脇に従えつつ、私達の方へと近づいてきた。


「えー、私は群馬県警、警部の土方歳蔵と申します。今回の事件の指揮を務める事になりました。宜しくお願いします」


 そう云い、小さく頭を下げる。


 その土方警部という人物は黒っぽい背広に黒っぽいシャツを合わせ、少し長い髪を後方に流していた。なにか柄が悪いというか、妙に気障な感じの男だった。


「えっ、はっ、よ、宜しくお願い致します……」


 良基は緊張気味に頭を掻きながら答えた。


 そんな良基に土方警部は探るような視線を向けながら声を発した。


「それでは、恐れ入りますが、遺体発見時の様子を詳しくお聞かせ願えればと思います。どなたでも構いませんが、お解りになられる方、説明の方を宜しくお願い致します……」


「あっ、は、はい、畏まりました」


 良基は恐縮しながら頷き返事をした。


「いえ、そ、それがですね、朝の勤行を執り行おうと、正面の戸の鍵を開け内部に足を踏み入れた所、このような状況になっておりまして……」


 良基が強張った顔で説明する。


「成程、朝に鍵を開け大仏殿の中に入ったら、この状態になっていたと……」


「ええ、そうなんです」


「ん? という事は、それまでこの大仏殿の扉は閉じられたままだったという事なのですか?」


 土方警部は眉根を寄せつつ扉を指差しながら質問してくる。


「ええ……」


 良基は緊張の入り混じる声で答えた。


「ちょっと気になる事ですね。扉はどのように閉じられていたのでしょうか? 一応ですが、その辺りを詳しくご説明を願いたい」


 土方警部が鋭い視線を送りながら質問してくる。


「えーとですね、まず、この大仏殿の出入り口は正面側に柱を挟んで三箇所にありまして、その三箇所はそれぞれ四枚の大扉が折り重なり形作られています。その四枚の扉が開かないように、閂で押さえられているのですが、閂そのものが簡単に引き抜けないように、南京錠が閂と閂通しの金具に跨るように引っ掛けられているのです」


「ほう、つまりその閂にも鍵が掛かっていた訳ですか?」


「ええ」


「因みに、その三箇所の閂を止める南京錠の鍵は三つ別々なのですか? それとも同じ鍵なのでしょうか?」


 土方警部は質問する度に良基へ鋭い視線を向ける。


「そ、それは同じ鍵です」


「同じ鍵と……」


 土方警部は頷く。


「私たちは朝、その三箇所の鍵を開け、南京錠を取り外し、閂を引き抜き、扉を開けたのです……」


 土方警部はそのまま続けて扉や閂、そして南京錠の引っ掛かり方などを事細かく聞く。


「……ところで、この大仏殿には他に出入りできる箇所はあるのですかな?」


 正面扉の構造をある程度聞き終えた土方警部が、気が付いたように聞いてくる。


「一応側面に出入り口がありますが、その扉も内部からしっかり閂がかけられていましたので出入りは出来なかったと思います」


「……ん? では、警察が到着するまでにこの建物内から誰か出た者は?」


「いえ、私と一緒にこの戸を開けた宿坊体験者の方々が扉付近で見守っていてくれましたが、不審な人物がこの大仏殿から外に出たという事は無かったようです」


 良基が後ろへ振り返り、私達に視線を送りながら説明する。土方警部は事務的な視線を私達に送ってきた。


「だ、誰もこの扉を出て外には出ていませんよ、私ずっと見ていましたから」


 カップルの女性、武藤京子が緊張の面持ちで声を上げた。


 土方警部は小さく頷く。


 鑑識による現場検証が一通り終ったのを確認したのか土方警部は声を上げた。


「さてと、当事者の皆さんに大仏殿内の事でも色々お伺いしたい事があります。皆さん御一緒に少しだけ中の方へお願い致します」


 土方警部は良基だけでなく我々も大仏殿内へと促がす。我々は指示に従い、おずおずと大仏殿内へと足を踏み入れた。


「再度お伺いしますが、間違いなくあなたがたが扉を開けてから、この入口から外へ出た者はいませんね?」


 土方警部は強い口調で確認するように質問してくる。


「ええ、間違いありません」


 その武藤京子の返事を聞いた土方警部は、傍にいた刑事に指示を出す。


「おい、永倉君、殺されたのが何時かが解らんとなると…… 奥の物陰にまだ犯人が隠れている可能性なんかもあるぞ。もう一度何人かで細かく裏側を確認してこい」


「はっ、警部」


 傍にいた永倉という名前の刑事が返事をして、大仏殿の奥側を確認しに行った。


「では、質問を続けさせて頂きます。ところで、あの紐とあの駕籠のような物は何ですか、こちらの施設の物ですか? それとも何処からか持ち込まれた物なのでしょうか?」


 土方警部は大仏殿の天井の梁から垂れ下がっているロープと、その先に繋がっている駕籠に視線を送りながら良基に質問する。


「あのロープと駕籠はこの寺の物です。大仏様のお身拭いの際に使用する物なのですが……」


「お身拭いですか、なるほど…… それに乗せられたまま大仏の手前に置かれた法具に貫かれて死亡していたと……」


 土方警部が腕を組み考え込む。


 警官や刑事は大仏後方の確認を終えたようで、靴を脱いで朱塗りの高砂の上に上り込み大仏と光背の隙間などを確認しはじめる。私達がまだ確認していない部分だ。


 しばらくすると、刑事達が戻ってきた。


「警部、裏には誰もいません。隠れられそうな場所も全て確認しましたが、やはり誰も隠れてはいないようです」


 永倉という刑事が少し息を切らしながら説明した。


 高砂の上では、グレーの服を着た鑑識と思われる人達が、引き続き遺体が吊るされている状態などを確認していた。




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