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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第九章
46/539

洞窟内へ  伍

 数日後、私と中岡編集は身延署での参考人招致を終え、中央本線に揺られながら東京に向っていた。


 中岡編集は相変わらず甲府駅で買い込んだ駅弁を食べている。今食べているのは甲州とりもつ弁当だった。


「いやいや、無事に帰れて何よりだな」


 頬を膨らませながら中岡編集が云った。


「……中岡さん、最期、殺されそうになった時、私を見捨てようとしましたよね」


 私は少し睨みながら苦言を云った。自分がトイレで万が一の場合に見捨てようと考えていた事は棚に上げておく。


「いやいや、残念な事に君があの大男との結婚を断られてしまったからね……」


 中岡編集が云った。


「こ、断られてないです。既婚者だったからでしょう! そういう場合は断られたって云わないんですよ!」


「まあ、あの時は時間稼ぎだったからね、本気で見捨てようととなんて思っていないよ。兎に角、話術で時間を稼ごうと必死だったんだよ」


「本当ですか?」


 私は目を細めて猜疑的に見る。


「本当だとも。中岡は龍馬を見捨てるような真似はしないぞ」


 なにか自信ありげに云った。

 

 しかし、また龍馬って……。私は疲れていたので皆まで云わずに流す。


「……だが、松子さんは色も白く細く美しかったな…… あんな人と結婚出来たら夜の営みが毎日楽しかっただろうに……」


 おいおい体目当てだったのかよ!


 私は呆れ気味に中岡編集の顔を眺める。


 列車は丁度大月辺りを通過中で、車窓の左側には大月金山を含む姥子山や、黒岳が見えてきた。この辺りは一応小山田家の所領だった辺りになる。かつて信玄が生きていた時代には、信玄配下である小山田信茂があの辺りの金山も発掘していたのかと思うと感慨深いものがある。


 結局、発見されたあの金鉱は国の管理下に置かれる事になったようだ。まあ国有地の山だったので当然と言えば当然な事なのかもしれない……。折角見つかった資源なので国には有効に活用してもらいたいものだと私は考える。


 また捕まった諸澄一派を調べた所、あの老人は諸澄九右門の子孫だったらしい。他の者達は子飼いとして老人に集められた仲間だったという事が判明した。武功録は老人が代々引き継いできた物、穴山家、高家武田の掛け軸は資料集めを続けた際に入手したものだったようだ。


 列車は東京都と神奈川県の県境にある小仏トンネルに差し掛かる。ゴーっという音が周囲に鳴り響いた。


 いずれにしても、私達としては埋蔵金の百分の一を入手できなかったが、大切な命は失うことなく当初の目的である小説の題材を手に入れる事が出来た。少し残念ではあるが、私にとってはそれで十分だった。


 折角貴重な体験をしたのだ。私はすぐに今回遭遇した事件を題材に新しい小説を書き始めようと思う。


 そんな事を考えている私を乗せ、列車はゆっくり都会の景色に入り込んでいった。



                        了





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