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愛しい旦那様、裏切りが事実なら辛くても別れます。  作者: もも


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6 帰還

読んでいただきありがとうございます

 戦争はなかなか終わらず貴族は勿論平民も参戦することになった。 ハサウェイ伯爵家からセドリックも騎士達と一緒に参加することになった。その中には侍従のルイもいた。


戦地へ向かう数日前アレクシアはセドリックに抱きしめられながら不安で泣いた。

夫が死ぬかもしれないと思うのはこれで二度目だ。あの時に奇跡が起きたのだから今回も大丈夫だと何度言い聞かせても心は納得してくれなかった。


泣き続けるアレクシアをセドリックは宝物を扱うように大切に甘やかしてあやし意識を飛ばさせた。どうにか眠ることが出来たのは朝方だった。




 出発の朝が来た。見送ったのはアレクシアは勿論妹のメロディと婚約者のアンソニー、父と母。コーンウェル家の義父母だった。コーンウェル家からも長兄が出征したらしく義母は痛々しかった。

トップに立つ人間が行かないでと言う訳にもいかず、泣きたいのを我慢するしか無かった。

心配で堪らないので貴重だと言われていた魔法石を手に入れ、祈りを込めて刺繍したお守り袋に入れて首にかけてもらうように渡した。



 家臣には祈りを込め刺繍をしたお守り袋を渡した。それ程魔法石は貴重で手に入り難い物だったのだ。その代わり刺繍にはどうか無事でと祈りを込めた。


渡すと騎士達は、涙を流さんばかりに喜んでくれた。

「きっと生きて帰ります」

と言いながら出ていく姿は凛々しかった。


家に残った女性や老人たちは出征した者たちの分まで忙しく働いた。

その方が悪いことを考えずに済む。






 アレクシアはこの頃体調が優れなかった。食欲がないし普通に思っていた食事の匂いにも気持ちが悪くなるのだ。厨房の近くにも近寄れなくなった。

セドリックがいないせいだと思っていたが、メアリーが気が付き医者に診て貰うと懐妊していた。

三カ月になっていた。家族は大喜びだった。戦地のセドリックにも手紙で知らせた。

感謝の気持ちと父親になる喜びが書かれた手紙が返ってきて、アレクシアの宝物になった。


そうして予定日より少し遅れてアレクシアは男の子を産んだ。経験したことのない痛みだったが、小さな息子を腕に抱いたアレクシアは神様に感謝した。


名前は以前から男の子だったらウイリアムにしようと二人で決めていた。

髪は母に似て銀色、瞳は父に似た青色でセドリックによく似ていた。

嫡男の誕生に暗かった屋敷の雰囲気が明るくなった。


誕生の知らせは戦場に届いたはずだった。

しかし返ってきたのはルイからの手紙で、若旦那様が頭に怪我をされましたという不安な物だった。命に別状は無いと書かれていたが、アレクシアは言いようのない不安に囚われた。



 戦地には王都のような優秀なお医者様がいるのだろうか、殿下がいらっしゃるから大丈夫だと思いたい。ぐるぐると不安になり母乳が出なくなった。

乳母が頼みの綱だった。乳母は子供を三人産んだベテランだった。夫は屋敷の庭師をしていた。


「奥様はゆったりとされていたらいいんですよ。きっと若旦那様は治られます。それに坊っちゃまはお母様が大好きなんですから」


息子は母が分かるのか少しあやしただけで、きゃっきゃっと声をあげよく笑ってくれた。


ウイリアムの顔を見るのがアレクシアの癒しになった。



 その後ルイの手紙が父宛とアレクシア宛に二通来た。

アレクシアは部屋でセドリックは手紙も書くことが出来なくなったのかと、暗い気持ちでペーパーナイフを使い手紙を取り出した。

そこに書かれていたのは残酷な報告だった。




敬愛する若奥様へ


この度の怪我で若旦那様は残念なことに記憶を無くされてしまいました。

最初は我々のことも忘れていて混乱しておられましたが、根気よく接したらどうにか受け入れてもらえました。奥様や坊ちゃまのことも伝えております。

お守りがあったおかげか有難いことに頭の外傷は軽症でした。

ただ若旦那様が早く帰れるかどうかは戦況を見ないと決まらないそうで、我々一同心配しています。

皆多少の怪我はしておりますが無事でおります。戦に勝てることを信じていてください。



           ルイ・ベンソン    



アレクシアは手紙を握りしめ記憶を無くした夫と臣下の無事を祈った。















 それから一年が過ぎた頃戦争が勝利に終わったと新聞に載り、更に二カ月経った頃のことだった。


「若奥さま、若旦那様達が先程こちらに帰って来られると連絡がありました」

家令が大慌てで知らせにやって来た。


「そう、お迎えしなくてはね。きっと覚えてもいない妻のことなど会っても嬉しくはないでしょうけど。ルイや騎士達は喜んでくれるわね」


「若旦那様に限ってそんなことがあるはずはありません。折に触れて奥様と坊ちゃまのことはお話させていただいたと報告が来ております」




玄関の方で騎士達が帰ってきた物音と声がした。

アレクシアは両親と妹と一緒に彼らを迎えた。

セドリックの側にはルイが付いていた。


「国を守ってくれてありがとう。お前たちを誇りに思う。誰も欠けていなくて良かった。セドリック記憶はまだ戻らないのか?私達は義父母でここにいるのがお前の妻のアレクシアだ」


セドリックは自信のなさそうな顔でアレクシアを見つめた。

「貴女が妻なのですね。綺麗な人だ。色々心配をかけて申し訳ありませんでした。私は何と言って詫びればいいのでしょう」

セドリックは記憶をなくしたことを謝ったつもりだったが、アレクシアにはそれが浮気を謝ったのだと聞こえてしまった。


差出人の名前のないセドリックの不貞を告げる手紙が何通も届いていて、アレクシアは迂闊にもそれを信じてしまっていた。記憶を失う前ならあり得ないと笑えただろうが寄る辺のない不安は、諦めの方向にアレクシアを突き落としていたのだった。

愛人という存在を貴族の妻として覚悟はしていたはずだったが痛みは胸を貫いた。


セドリックの最後の言葉を聞いたアレクシアは踵を翻し部屋に引き籠もった。

覚悟はしていたがセドリックの姿を見ると色々込み上げるものがあって涙が止まらなくなった。

せっかく無事で帰って来てくれたのに、あんなに愛し合ったセドリックがいなくなってしまったような悲しさがアレクシアを包んでいた。


残された騎士や家族は痛ましそうな視線をその後ろ姿にやった。


「皆、風呂に入り身綺麗になって美味いものを食べたり飲んだりしてくれ。食堂に用意してある。セドリックは湯浴みをしたら執務室に来てくれ。ルイ頼む」


妻だという人に拒否され、囚人のような顔になったセドリックは素早くシャワーを浴び、着替えてから伯爵の元へ向かった。





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