5 戦火の前の結婚
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メロディは姉が大好きだ。小さな頃からしっかりしていたアレクシアは、ままごとをしてくれたり、抱っこをしてくれたり、絵本を読んでくれたり良く遊んでくれた。
だから大きくなってもお姉さまの味方は自分だと胸を張って言えた。仕方のないことだがお姉さまに婚約者が出来た。伯父様の部下だと聞いた。
ハサウェイ家の跡取りはお姉さまだと決まっていたから、いずれは決まるのだろうなと覚悟はしていたが取られたような気がして少し寂しかった。
政略でもお姉さまには幸せになっていただきたかった。お姉さまが段々綺麗になっていくのを見て恋をしているのだなと感じられて、メロディは嬉しかった。
義兄になる人は一見すると冷たそうなイケメンだが、姉を見る時の目が優しかったので合格点をあげた。
将来の義兄が重傷の怪我をした時は泊まりがけで看病していた。命も危ない状態だったらしい。献身的な愛がセドリック様を救ったのだと思う。
セドリック様の脚が治るまで式が延長になった時はお姉さまは無理をしていたように思った。きっと予定通りに結婚したかったのだろうなと複雑な乙女心を考えると同情してしまった。
そんな私メロディにも婚約者が決まった。アンソニー様というボンド侯爵家の嫡男だ。学院で同じクラスで仲が良かったけど、友達だと思って意識はしていなかった。派手な見た目ではない方だけど落ち着いた考え方をされるので、話していても楽しかった。
「ちょっと付き合ってくれる?」と言われたので図書館かなと思ったら学院の生徒専用サロンを借りていたので驚いた。
何のようかしらとぼんやりしている私に向かって
「メロディ・ハサウェイ伯爵令嬢、僕と婚約してください。君のことが好きなんだ。一生大切にするし君だけを愛すると誓うよ」
と言われ慌ててしまった。
「良い友達だとしか思っていなかったから、急に言われても混乱するわ。それにまだ十三歳よ、早すぎない?」
「僕もそう思っていた。一緒にいると落ち着く友達としていい関係だって。でも君はとても綺麗で人気があって、誰かに取られるかもしれないって思ったら居てもたっても居られなくなった。君の側で笑っている奴がいるともやもやするんだ。こんな気持ちになったのは初めてで、自分でもどうしたのかと悩んだけど君のことが好きなんだと気づいた。僕のことは嫌い?」
「嫌いではないわ。でも友達としてしか意識していなかったからもう少し考えさせて」
「うん、家から申し込むと断れなくなるから考えてみて」
考えた末に出した答えはイエスだった。彼となら穏やかな家庭が築けそうな気がして、学院の裏庭に呼び出した。
「この間のお話お受けします」
「本当に良いの?後悔しない?やっぱり辞めたいと言っても離さないからね」
「そんなことは言わないわ」
「嬉しい、夢みたいだ。早速家から申し込みをするから」
そう言うとアンソニーはメロディを抱きしめた。恋愛関係に免疫のないメロディは真っ赤になり思わず押し返していた。
「ごめん、嫌だった?嬉しくてつい抱きしめたくなったんだ」
「嫌ではないけど急だったから」
「ゆっくり距離を縮めるよ」
申し訳なさそうなアンソニーはきりっとした顔になって言った。照れくさくなったメロディがくすくすと笑うと彼も表情を緩めた。
両親は格上の侯爵家からの申し込みに驚いていたが、学院で同級生で仲が良いと知ると了承してくれた。後で分かったことだがちゃんとアンソニーのことを調べて合格だったらしい。
勿論侯爵家もメロディのことは調べているだろう。伯爵家が中立で穏やかに暮らしていて、それなりに裕福なことも、伯父が宰相だということも調べた上で、アンソニーの婚約者として認めてくれていた。
まだ学院の一年生なので婚約者として付き合う時間もあるし、結婚式は卒業して一年後と決まったので次期侯爵夫人としての教育もゆとりのあるものだった。
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日々は穏やかに過ぎていきこの平和が永遠に続くのだろうとアレクシア達が思っていた頃、隣国との関係がきな臭いものになってきた。
一般市民にはまだ影響は出ていないが騎士団が密かに動いているらしいと、セドリック様が噂を掴んできた。
のんびりしていた結婚式の準備も急ぐことになった。予定は早められ三カ月後になった。元々準備はしていたのでスムーズに進んだ。
繊細に編み込まれたレースのウエディングドレスとダイヤモンドのネックレスとイヤリングを纏ったアレクシアは美しく、白の正装姿のセドリックは凛々しく両方の家族に温かく見守られながらささやかに結婚式を挙げた。
やっと愛する人と夫婦になれるとアレクシアは幸せの涙を一筋流し、誓いの印としてサファイアの指輪が指に嵌められた。
誓いのキスがそっと唇に落された。この日のことは一生忘れないと心に誓った二人だった。
「アレクシアとても綺麗だ。こんな女神様のような人と結婚できて幸せだよ。大切にするから」
「セドリックも素敵。ますます好きになってしまうわ」
家族全員から祝われ幸福の絶頂で二人は夫婦になった。
王都で穏やかな生活を送っている間にも戦況は厳しくなっていった。第二王子を先頭に戦っている我が国が押され気味だと新聞が伝えていた。
貴族の義務としてセドリックも出征しなくてはいけなくなるのではないかと思うと、不安でアレクシアは離れたくなくなった。
セドリックは優しく抱きしめてくれるが、不安なアレクシアは離れたくなくて首に腕を絡ませ胸に頭をくっつけ心臓の音を聞いている。肌の温かさで安心するのだが、自分がはしたないと思われているのではないかと心配になった。
「大丈夫だよ、求めてくれるシアは色っぽくて可愛い。はしたないなんて思うわけがない。戦争はきっと直ぐに終わるよ。そのために騎士団が戦ってくれているんだ。それにもしも戦いに行くとしても君を守るためだと思うと嬉しいよ」
「側にいてくれないと心配で仕方ないの」
涙を流すアレクシアの瞼を唇で拭き取ってくれた。
「ずっと一緒にいるよ。まだ行くと決まったわけではないのにそんなに心配してたら身が持たないよ。ほらこっちへおいで」
セドリックは優しく抱きしめてくれた。
「セドリックの腕の中は落ち着く。温かくていい匂いがするわ」
「アレクシアも柔らかくていい香りがする。愛してる」
唇を塞がれながら髪を撫でられアレクシアは、段々頭が真っ白になって何も考えられなくなっていった。




