13 セドリック アレクシアへ愛を乞う
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セドリックはアレクシアとの関係を少しずつ縮めることにした。三度の食事を一緒に摂る手配をルイに頼み、執務も教えを乞うという体で同じ部屋にしてもらった。許して貰えるのか分からないが後はない。精一杯真心と言葉を尽くすつもりだった。
「おはようございます」
自室を出たセドリックはアレクシアの支度が出来るのを扉の前で待ち挨拶をした。朝から妻は可憐な少女のように美しかった。この人と子供の出来るようなことをしたのだと思うと身体が熱くなった。
「おはようございます。待っていてくださったのですか?食堂で会えますのに」
と言いながらアレクシアも朝から麗しい夫に出迎えられて頬を赤らめた。
腕を差し出されエスコートされるとテンションが上がった。
以前も優しかったがもっと淡々としていたのに気遣ってくれているのだと思うと嬉しさが込み上げた。
「多分以前の私は言葉が足りなかったのではないかと思っているのです。これからは挽回したいと思っています。ではダイニングへ行きましょう」
腕を曲げると彼女が恥ずかしそうにそっと手を添えてくれた。ぐいぐい迫ってきていたあの女には何の感情も湧かなかったが、清楚な妻には一度で心を撃ち抜かれた。
「貴女はやはり運命の人ですね。私たちは愛し合う夫婦だったのだと思いました。もう一度私を見てもらうように努力します」
林檎のように真っ赤になった妻は俯いて
「朝からそんなことを仰るものではありませんわ、食事の味がわからなくなったら困ります」
「こんな私はお嫌いですか?口を慎んだ方が良かったでしょうか」
「嫌いではありませんわ。恥ずかしくて心がかき乱されるのです」
「良かった。ではこの調子で貴女を口説きますね」
「以前の貴方と違って積極的ですのね」
「どうやら私は貴女に愛情を伝える言葉を出し惜しみしていたのかもしれないと思ったのです。気持ちが伝わっていなかったから心配させて泣かせてしまったのですよね。記憶のない私がもう一度恋をしたら信じていただけるようになるかもしれません。全力で落としにかかります」
「もうここまでにしてくださいませ。胸が一杯になって食事ができるかどうか分からなくなります」
「では私が食べさせて差し上げますよ」
「もうからかわないでください。一緒に食べませんよ」
「そんなつもりはなかったのですが気を悪くされたのなら謝ります」
セドリックはしょぼんとして項垂れてしまった。
「普通に食事をしてくだされば大丈夫ですわ」
「良かった」
そう言って笑うセドリックは出会った頃より色気が増していてアレクシアの心をかき乱した。
(何なの、朝から無駄なこの色気。ウイリアムよ、可愛いウイリアムを思い浮かべるの。落ち着け私、冷静になるの)
両親や妹と一緒に表向きは何もなかったように食事を済ませたアレクシアは、帰りもセドリックにエスコートされてダイニングを出た。
「では執務室でお待ちしています」
「はい、では後で」
胸がどきどきして仕方のなかったアレクシアは、私室に帰るとソファーに座り込んだ。
(一度は諦めて別れようと思った夫にここまで振り回されるってあるのかしら。今でもどきどきして仕方ないわ)
落ち着く為にメアリーにお茶を頼んだ。
メアリーが香りの高いお茶を持って来てくれた。
「ねえメアリー旦那様のアプローチが以前より凄くて落ち着かないの」
「帰って来られて若奥様を見られた瞬間の若旦那様の目は、こんな綺麗な人が妻なのかという風に見えましたですよ。それなのにあんな噂をと悔しい思いをされたのではないでしょうか。旦那様に叱られておいででしたし。あの女狐が自白して身の潔白が証明されて良かったです。冤罪で離婚なんてお可哀想です」
「あらよく見ていたのね。私なんて最初の一言で疑ってしまって泣くだけだったのに」
「第三者の目と当事者は違いますよ。主観が入って理性的に判断が出来なくなるものです。若旦那様はもう一度やり直したいと必死なんですよ。いいじゃありませんか、もう一度新婚生活を楽しまれても。あの時泣かれていた若奥様へのご褒美ですよ。出会われた時からお好きだったじゃありませんか」
「ばれてたのね。でも噂を聞いてからは別れようと思っていたわ。もしも事実ならあの人が幸せで生きていてくれるだけで良いと思っていた。後継ぎはいるしもういいかなと思ってたの。勿論目に入らない所で暮らして欲しいとは思っていたけど。
それが謀られたものだと分かって、戻られてからの態度でこんなに簡単に想いって変わるものかしらって、自分の気持ちが良く分からなくなったの」
「若旦那様は基本的に何もお変わりではなかったのですよ。はっきり敵も分かりましたし、若奥様は愛情を受け取って差し上げれば良いだけです。考えすぎなんですよ。ウイリアム坊ちゃまの為に幸せな家庭を築いて上げてください」
「メアリーって凄いわ。理論的に説明されてこれからの道筋が見えた気がするわ。ありがとう」
「若奥様に幸せになっていただきたいだけです」
落ち着いたアレクシアはセドリックの待つ執務室へと移動した。
さっきのやり取りが耳に残って恥ずかしくて仕様がなく、まともに目を合わせられなかったアレクシアは、知らないうちにセドリックとの空気がぎこちないものに変わっていることに気がついていなかった。
他人の悪意で壊れそうになった一組の夫婦が一からやり直すことになりました。




