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愛しい旦那様、裏切りが事実なら辛くても別れます。  作者: もも


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11 敵の正体

読んでいただきありがとうございます

 セドリックは宰相室を訪れた。

「戦争は大変だったね。無事で帰って来てくれて嬉しいよ。色々あったのは弟から聞いている」


「ハサウェイ家にご迷惑をおかけし申し訳なく思っております。特にアレクシアには悲しい思いをさせ情けないです」


「出征した夫が帰ってきたんだ。笑い飛ばすくらいでないと貴族の当主はやっていけないが、私も姪は可愛い。姪を泣かす噂を流した者を許すつもりはない。それで昔の君を知っている者を見に来たんだね」


と笑顔だが目が笑っていない宰相が言った。

宰相は伯爵家の嫡男だったが、その頭が特別切れるところを買われて公爵家の婿に入っていた。


ほとんど家に帰れないので執務は引退した公爵と優秀な嫡男がやっているという噂だった。きっとこの宰相のことだ、時間を捻り出し帰って家の執務もこなしているのだろうと囁かれていた。




「アレクシアと結婚した私を妬んでいたりする者がいるかもしれないと思いまして。それに以前事故に遭ったと部下に聞きました。その時の書類に関係があるのではないかと思うのですが、いかがでしょう」


「事故の結果は掴んでいる。だが記憶のない君にそれを告げる訳にはいかないんだ。君の安全のためだ。妬んでいる者はいるかもしれないが、忙しすぎて実行できる者がいるかどうかだな。戦争中もその後も書類が凄すぎて、何日も帰れていないし、睡眠時間も満足ではないだろう。私もだが」


「戦時中ならどうでしょうか?戦地に行った者もいたのではないですか?」


「十人の内五人戦争に行っていた。騎士でもないのに気の毒だと思ったものだ。だがどこの家からも一人は参戦しなくてはいけなかったからな。我が家からも次男が参戦したが、あれは騎士団員だから当然だ。


平民は剣の心得も無いのに出るのだから貴族は当たり前だ。そのせいで亡くなった民が多い。勝ったから補償をするのにも予算が取れてありがたい。


あっこんな話をしている場合ではなかった。すまない、忙しすぎてゆっくり話もできないな。


事務官の名前と参戦した五人の名前がこれだ。皆とお茶を飲む時間があれば良いのだが、仕事が多すぎて無理かもしれないね。じゃあ又顔を見せに来てくれ」


「いえ、忙しい中時間を取っていただきありがとうございました」


セドリックはこの後手土産の焼き菓子を皆に配り、お茶を淹れながらそれとなく様子を探った。


「暇そうだな。入婿は大事にされていそうで良いな。手伝ってくれてもいいんだぞ」


「大事な仕事の邪魔をしてすまなかった。直ぐ失礼するよ」


「差し入れは感謝している。甘いものは脳を活性化させるからな」


元同僚だった見知らぬ男が言葉をかけてくれた。


宰相室は忙しすぎてピリピリした雰囲気で、セドリックは早々に退散することにした。

本来ならあそこにいたのは自分かもしれないと思うと複雑な気がした。




 実家に帰り長兄に宰相から貰った紙を見せて、自分か家に恨みを持っているものがいないか聞くことにした。


「兄上、この名前の中で政敵とか私個人に恨みがあるという話を聞いたことはないでしょうか?」


「早速か。たまに帰った時にこの中のサントスという名前をよくお前が口にしていた。仕事の上の良きライバルだと言っていた。確か侯爵家の三男だったか。心の中までは分からないからね、念の為うちの諜報に全員調べさせよう」


「家にもそのような組織があるのですか?」


「勿論だ。情報は貴族家の武器だからな。向こうの家にもあるのだろう?」


「そうですね。調べていただけるとありがたいです。名誉を回復しないと叩き出されそうなので」


「変な噂が出回っていた件だな」


「ご存知だったのですか?」


「ああ、お前に限ってとは思っていたが、酒が入ると面白がる輩もいたからな。それに尾ひれがついたのだと思っていた。

その女最初の頃は真面目な治癒師だったそうじゃないか。

若い貴族に騙されて甘い夢を見た結果が転落だ。挙句の果てにはお前を狙うなんて腸が煮えくり返っていたから、処分されてすっきりしたよ」


「無条件に信じていただけて嬉しいです、兄上」


「幾つになっても弟は可愛い。宰相室にいた頃は家にも帰れないほど忙しくしていたが、こうして帰って来てくれるのは嬉しい。でも記憶があれば自分で解決していただろうな。お前はそういう奴だ。優秀だったからきっと宰相様に惜しまれているよ」


「弾を避けて転び記憶を失うのは優秀な男のやることではありません。それに女のこともさっと対応できなくて、皆を不快にさせてしまい恥ずかしい限りです」


「怪我が軽くてよかったじゃないか、生きていればこそだ。まだ挽回は出来る。私も力を貸そう」


「ありがとうございます。頑張る勇気が出てきました」


「誰にも弱音が吐けずに辛かったな。結果が出たら連絡する。思い付く可能性は一つずつ潰して行けば良い」


「感謝します、兄上」


セドリックは兄の温かな言葉に胸が一杯になった。





 調査の結果サントスは限りなく黒に近かった。しかし決定的な証拠が掴めなかった。確かに参戦はしていたがセドリックとは違う部隊に所属していたのだ。

結婚して子供までいる夫婦を壊す目的とはなんだろう。傷ついたのはセドリックよりアレクシアだろう。



アレクシアを傷つけて喜んでいる者が、サントスの近くにいるかどうかが調査の対象になった。


諜報の報告は直ぐだった。サントスの従妹がセドリックに横恋慕をしていたのだ。子爵家の跡取り娘で随分甘やかされて育っていた。

確かに容姿は美人の部類だったが、人の夫を獲ろうと画策するなど性格が悪い。

サントスはこの従妹を、幼い頃から妹のように可愛がっていた。


サントスからセドリックが宰相に気に入られていると聞いて、興味をもったらしい。

従兄への差し入れと称して宰相室にお菓子を届けた時に、サントスにセドリックに会わせて欲しいと頼み込んでいた。


忙しいので菓子だけ受け取っていた時に、運悪く宰相室から出てきたのがセドリックだった。


一目で気に入った令嬢は父親に頼んで縁談を申し込んで貰おうと思ったが、既にアレクシアと結婚していた。


諦めきれず泣いて縋る従妹に絆され、戦場で噂を広げたというのが真相だった。


ちなみにセドリックは顔も覚えていなかった。



宰相に報告が上がり、サントスは王宮を首になった。社交界から締め出され子爵令嬢と一緒に遠方の荒地で平民として過ごすことが罰として与えられた。


以前の事故の犯人は別の部署の男だったらしく殺人未遂で処刑にされたと宰相から連絡があった。恨まれることが多くてやってられないとぼやいていたと義父から聞かされ、それで死にかけたセドリックは辞めて良かったと心から思った。 




侯爵家と子爵家からは莫大な慰謝料がハサウェイ家に支払われた。半分はセドリックに渡されたがそれをアレクシアの名義で貯金してもらうようにお願いした。

せめてもの償いだった。


敵を見つけ潰したセドリックの評価がハサウェイ伯爵の中で上がったことは勿論だった。



セドリックは心から兄に感謝した。







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