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愛しい旦那様、裏切りが事実なら辛くても別れます。  作者: もも


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10 セドリック 

読んでくださってありがとうございます

 執務は覚えていたらしく書類を見ただけで捌くことが出来た。合間に庭園を散歩していると、女性の声と赤ん坊の笑い声が声が東屋の方で聞こえて来た。


お茶を楽しんでいるのだろう。アレクシアと侍女とウイリアムが楽しそうに笑っていた。

「ウイリアムはよく笑う子ね。天使のようだわ。この子がいなかったら生きていけなかったわ」


「そうでございますね、若旦那様が出征されて奥様の心の安定をウイリアム様がお腹の中で守っていらっしゃったのですよ。生まれる前からナイトですね」


「ちっちゃなナイトさん、これからもよろしくね」


膝に抱かれたぷくぷくの手がアレクシアの頬に伸ばされた。


「あい、かあちゃま」


「可愛い、愛してるわウイリアム。母様の宝物よ」


「あい」


きらきらと眩しい光の中にいるようでついうっとりと眺めてしまった。いつかあの中に自分も入れたらとセドリックは願った。




 政略結婚だから普通に顔合わせをして付き合っていたと妻は言っていたが、自分が一目ぼれをしたのではないかと思う。セドリックは兄達に手紙を書いて尋ねてみようと思った。


しかし、自分の屋敷の家族関係はどうだったのか、まず妻であるアレクシアに聞いてからにしようとセドリックは考えた。ギスギスしていれば正直には答えてくれないだろう。

今のところ信じられるのはアレクシアとルイだけだと勘が告げていた。


執務室にアレクシアが入って来たのでそれとなく聞いてみた。


「仲が悪いとはお聞きしなかったですわ。結婚式の時にご挨拶しましたけどセドリック様を可愛がっていらっしゃるようでしたが。優しそうなお兄様方だと思いました。どうかされましたか?」


「記憶のヒントが欲しいので手紙を書くか、会いに行ってみようと思うのです。家族関係が良ければ問題なく聞けるのですが、そうでないならと考え中です」


「仲は宜しかったのではないでしょうか。上のお兄様も無事帰って来られたようですし、帰ってみられたら良いと思いますわ。お義母様も見送りに来られた時、とても辛そうにしていらっしゃったのできっと喜ばれますわ」


「では一度帰って来ます。また戻ってきても良いでしょうか」


「好きになされば良いですわ、父も以前ほど怒っていないようですし」


「貴女はどうですか、もう顔も見たくないですか」


「自分の気持ちが良く分からないのです。一度は諦めたものですから」


「うっ、心を取り戻せるよう頑張ります。頑張らせてください」


曖昧な笑顔を返されたセドリックは切なくなってしまった。








 アレクシアは以前セドリックを好きだった時のときめくような気持ちをどこかにやったような気がしていた。夫の出征の辛さ、妊娠、出産の嬉しさ、浮気の噂(本当ではなかったが)を聞いた時の暗い地の底に落ちたような出来事を短い期間に経験し、一生分の体験をしたような気がしていたのだ。





☆★☆





 セドリックは戦場にいた時、誰が注意をしてくれたのか思い出そうとした。

最初の頃は誰が誰なのか分からなかった。名前を覚えてから女に近づくなと言ってくれたのはルイだった。その他にも数人が注意してくれた。顔と名前がぼんやりして、頭をぶつけるのは怖いものだと実感したものだ。


近づいて来た女が紛い物だというのは直ぐ分かった。軍服の内側のポケットに子供が出来たという知らせの手紙を忍ばせて宝物にしていたのだ。妻を裏切る筈もなかった。


昔瀕死の怪我をした時もアレクシアの機転と看病で助けて貰ったとルイから聞いた。自分の女神はアレクシアだと信じていた。ほかに関心が向くはずがない。



戦場で自分に体型の似た男がいただろうか?その男が治癒師に近づいていたのか。黒い髪は鬘で誤魔化せる。そこまでして自分を陥れたい人物とは一体誰なのか。

知らない内に恨みを買っていたのかもしれない。宰相室にいた人物の中にいるのかもしれない。宰相と縁続きになりたかったが、セドリックが選ばれてしまったので離縁させたい思惑があるのかもしれない。

考えればきりがなかった。

可能性は一つずつ潰していかなくてはならない。セドリックは用心深く探ることにした。




義父に相談してみようか。自分で解決しなくては許しては貰えないだろう。兄達に会いに行った時に宰相様に時間がいただけないか先触れを出そう。

記憶がないからこっそり会うのはリスクが高すぎる。顔も名前も分からない。

宰相を密かに呼び出すなんて今の自分には無理だ。


まてよ、正々堂々と正面から面会を求めても良いんじゃないか?まだ親戚だし、

元部下だ。駄目元で行ってみよう。



こうしてセドリックは自分の敵を見つけることにした。自分はやられたらやり返す人間だったのだとこの時自覚した。




 王都の家族は久しぶりの末っ子を歓迎してくれた。

「記憶がないのか?私たちのことも覚えていないのか?」

父が恐る恐る聞いてきた。

「そうなのです。仕事関係は覚えていて支障がないのですが、人の名前や思い出がなくなってしまって、自分が何者なのか分からないのです。申し訳ありません」


「謝ることはない、そうか大変だな。アレクシア様は悲しんでおられるだろう。ウイリアムに会いたかったが、お前がそんな風だと聞いて行くのが憚られてな、遠慮していたのだよ。後で自分の部屋に行ってみなさい。何か思い出すかもしれない」


「ありがとうございます。元の職場にも行きたいので先触れを宰相様に出したいと思っております」


「そうか、頑張りなさい。息子が二人とも生きて帰ってきてくれて嬉しい。今日は皆でご馳走だ」


セドリックは温かな実家の雰囲気を感じ取り肩の強張りが解けていくような気がした。



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