第72話 「世界の均衡を崩すな」と、リビングに神の使者がやってきた
3話更新の2話目です
高橋ユウキを駅前に送り返し、リビングに戻って30分。
自動化システムのログをチェックしつつ、ホットコーヒーを飲んでいた。
「ふう、静かになったな。やっぱり平和が一番だ」
その時、突然、リビングの空間が揺らぎ始めた。
天井の照明がチカチカと点滅し、空気の温度が急激に下がる。
「な、なんだ!? この高密度の魔力反応は!」
ガイルが掃除用具を落として、戦闘態勢に入る。
フィアナやリーリアも青ざめて壁際に張り付いた。
空間の揺らぎの中心から、眩いばかりの光の球体が現れた。
その光は、音もなく、優雅に回転しながら、俺の目の前で停止した。
『――佐藤。我は高次の管理者である』
頭の中に、老練で威厳に満ちた声が直接響いてきた。
「ああ、なるほど。この前のチートになりたがってたヤツに力を貸した張本人ですか」
「Master! 神です! 神の使者です!」
リサが興奮気味に囁く。
俺は光の球体に、持っていたコーヒーカップを掲げた。
「あのさ、俺の生活を邪魔しないでほしいんですが。今、最高の安寧を満喫してるんで」
『聞け、佐藤。貴様が地球で展開している魔力循環システムは、世界の均衡を大きく損なっている』
使者の声は厳しかった。
『貴様の【クリーン】は、本来汚染されるべき魔力すらも浄化し、貴様の自宅に集中させている。このままでは、地球と他の次元の境界線(結界)が崩壊する』
「つまり、俺の生活魔法がチートすぎて迷惑だってことですね」
『そうだ。直ちに能力の使用を停止し、おとなしく日本で暮らせ』
能力停止。それは、究極の労働ゼロ生活の停止を意味する。
「お断りします」
『なに?』
「だって面倒じゃないですか。毎日ダンジョンで労働しろってことですか? 勘弁してくださいよ」
俺はそう言って、コーヒーを一口飲んだ。
神の使者の光が、僅かに赤く点滅した。明らかに怒っている。
『貴様……分かっているのか! これは世界の危機なのだぞ!』
「世界を救うのは勇者の仕事でしょう。俺はただの掃除屋です。……邪魔するなら、あなたも掃除しますよ?」
(続く)
究極の安寧を求める主人公と、世界の均衡を守りたい神の使者が、まさかのリビングで衝突。
神の命令も「面倒」の一言で一蹴する主人公。その姿勢はぶれません。
神の使者は、主人公に強制的に能力を止めさせることはできないようです。
次回、神の使者が主人公に「能力停止」の代わりに「無理難題」を突きつけてきます。




