第70話 「僕も異世界転移者です!」と名乗る、妙にテンションの高い青年が来た
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俺がソファでうたた寝をしていると、リサが静かに耳元で囁いた。
「Master、来客です。魔力反応は微弱、結界の正規ルートではない、非常に不安定な侵入ルートです」
リサが警戒を強める。
玄関のモニターに映っていたのは、派手なブランド物の服に身を包んだ、妙にテンションの高い若い日本人男性だった。
「誰だ、あいつ?」
「さあ……しかし、結界が不安定なのは確かです」
俺は扉を開けた。
青年は俺を見るなり、キラキラした目で手を握ってきた。
「おお! あなたは佐藤さんですね! わかっていた! 僕も同じ境遇なんです!」
「……え?」
「僕の名前は『高橋ユウキ』! 実は僕も、異世界に転移した経験を持つ**『選ばれた者』**なんですよ!」
高橋ユウキはマシンガンのように喋り続ける。
俺は内心で(俺は転移者じゃないんだが、能力が目覚めたのをそう見てるのか?)とツッコミを入れた。彼が異世界で得たという魔法は、明らかに中二病的な名前で魔力自体も素人レベルだ。
「それで、俺の家に何の用ですか」
「決まってるじゃないですか! 佐藤さんの『チート能力』ですよ!」
ユウキは周囲を見渡す。
無尽蔵に湧く魔力。完璧なメイド。豪華すぎる豪邸。
「僕が異世界で培った『世界を支配するための知識』と、佐藤さんの『万能な能力』が合わされば、僕たちはこの世界も、異世界も、思いのままですよ!」
「ふーん」
俺は鼻で笑った。
世界支配なんて、面倒くさいことこの上ない。
俺が欲しいのは、静かで平和なスローライフだ。
「残念ですが、俺は世界支配には興味がない。お引き取りください」
「えっ、ちょっ! 佐藤さん、冗談じゃないですよ! こんな凄い力、使わないのはもったいない!」
ユウキは必死に食い下がる。
その瞳は、純粋な野心と、俺の力を利用したいという邪な欲望でギラついていた。
しつこい。非常にしつこい。
「Master、排除しますか?」
リサが冷たい目でナイフの柄に手をかけた。
俺はため息をついた。
「いや、リサ。暴力は掃除屋の流儀じゃない」
俺はユウキの顔を正面から見据えた。
彼の顔に張り付いた「野心」と「嫉妬」が、俺にはドス黒い汚れに見えた。
「――ユウキさん。あなたの心、ちょっと汚れてますね」
(続く)
神の力で転移に成功した自称・異世界転移者、高橋ユウキが登場。
彼は主人公の力を利用しようとしますが、主人公は面倒なことは大嫌いです。
ユウキのギラついた邪な欲望は、主人公にとっての「汚れ」でしかありません。
次回、生活魔法【クリーン】の意外な応用。
邪念まみれの転移者を、「物理的」ではなく「精神的」に綺麗にして差し上げます。




