第59話 エルフの森から使者が来ましたが、フィアナが幸せすぎて帰りたがりません
3話更新の1話目です
一月中旬。
リビングで、フィアナがコタツに潜りながらポテトチップス(コンソメ味)を食べていた。
「ん〜っ、このパリパリ感と塩気がたまらないわね! コーラと合うわ〜」
その時、インターホンが鳴った。
モニターを見た瞬間、リサが動いた。
「Master、警戒してください。高い魔力反応。練馬区の結界を正規の手順で解錠できる者が来たようです」
俺たちは玄関へ出た。
そこに立っていたのは、長身で切れ長の目の美青年エルフ、ガイルだ。
フィアナは、彼を見るなり、ポテチの袋を落として顔面蒼白になった。
「ガ、ガイル……!? あなた、無事だったの!?」
「姫様! ああ、神よ! 貴方様だけでもご無事で……!」
ガイルは膝をつき、フィアナの手を取ろうとしたが、その手はフィアナに触れる寸前で止められた。
ガイルは一瞬、感情を露わにするも、すぐに硬い表情に戻り、自身の胸に手を当てて深く一礼した。
「……失礼いたしました、姫様。戦士長としての責務を優先させていただきます」
「もしかして私?」
「はい。私はエルフの森の戦士長、ガイル。魔王軍の残党に森の大半は占領され、今は精霊の力が弱まり、王家の血筋が絶える寸前です。貴方様の魔力が必要なのです!」
ガイルは絶望的な状況をシリアスに訴える。
だが、フィアナは涙を拭い、コタツに戻ってジャージの膝を抱えた。
「えー。やだ」
「……は?」
ガイルの表情が凍りついた。
「だって、ここ天国だもん。お風呂は温かいし、ご飯は美味しいし、ゲームは楽しいし。……森に戻ったら、またボロボロになって三日で死んじゃう!」
フィアナはポテチを口に放り込んだ。シリアスな森の危機と、**堕落した王女の現実**が激しく衝突する。
「ひ、姫様……? 何を仰っているのですか? 誇り高きエルフの使命は……」
「使命よりポテチよ。ガイルも食べなさい、飛ぶわよ?」
ガイルの視線が、ポテチと俺の間を彷徨う。
彼は鋭い目を俺に向けた。
「……貴様か、人間。我が姫に、生きるための**『誇り』を忘れさせる**という、邪悪な洗脳を施したな?」
「いや、俺はただ衣食住を提供しただけで……」
ガイルが剣を抜き放つ。
「フィアナ様を解放してもらう! 決闘だ、人間!」
「(えぇ……面倒くさいなぁ……)」
穏便に話し合う余地はなさそうだ。俺はため息をつきつつ、庭へと降り立った。
(続く)
エルフの戦士長、来訪。
しかし、姫様はすでに現代文明の虜でした。
シリアスな雰囲気が台無しです。
次回、エルフ最強の剣士 vs 生活魔法。
掃除魔法によるコメディ決着です!




