第45話 年末に「貧乏神」がやってきましたが、ウチが裕福すぎて効きませんでした
3話更新の1話目です
十二月二十八日。
スズが血相を変えて俺の部屋に飛び込んできた。
「主様! 大変です! 『天敵』が来ました!」
「天敵? Gか?」
「違います! 私のライバル……『貧乏神』です!」
直後、リビングの窓がガタガタと揺れ、隙間風と共にどす黒い靄が入ってきた。
靄が晴れると、そこにはボロボロの着物を着た、陰気な顔の少女が立っていた。
顔立ちは整っているが、目の下のクマがすごい。
「……ヒヒッ。見つけたぞ、座敷わらし。この家に取り憑いて、家運を下げてやる……!」
少女――貧乏神は、不吉な笑い声を上げた。
「まずは家電を壊してやる! 電化製品が同時に壊れる絶望を味わえ……!」
彼女がテレビや冷蔵庫に黒い波動を放つ。
しかし。
バチッ!
家電の表面が光り、波動を弾き返した。
「なっ!? なぜ壊れない!?」
「あー、それ全部俺が【エンチャント(故障無効)】かけてあるから」
俺がこたつに入ったまま言うと、貧乏神は目を見開いた。
「な、なら食べ物を腐らせてやる!」
彼女はキッチンの食材に飛びついた。
だが、タッパーに入った作り置きも、野菜室のトマトも、鮮度維持の魔法で守られていて指一本触れられない。
「さ、触れない!? どうなってるのこの家!」
「無駄ですよ。主様の生活魔法は、あなたの貧乏波動ごときでは破れません」
スズが勝ち誇ったように胸を張る。
貧乏神はプルプルと震え出し、その場にへたり込んだ。
「うぅ……なによこれぇ……。私、ノルマがあるのに……このままじゃ本部に戻れないよぉ……」
泣き出した。
どうやら彼女も、組織(神界?)の社畜らしい。
俺はため息をつき、こたつの上のミカンを投げてやった。
「ほら、食えよ。ダンジョン産の『超高級ミカン』だ」
「……え? 高級? い、いいの?」
彼女は恐る恐るミカンを食べた。
瞬間、陰気な顔がパァッと輝いた。
「あまっ! おいしっ! ……私、こんな良いもの食べたことない……」
チョロい。
どうやら今年の年末は、貧乏神の相手をすることになりそうだ。
(続く)
スズちゃんのライバル、貧乏神の登場です。
しかし、エンチャントで武装された佐藤家には、貧乏神のデバフすら通用しませんでした。
むしろ餌付けされて終わりましたね。
次回、薄汚れた貧乏神ちゃんを【クリーン】したら、まさかの美少女に!?




