第38話 エルフを連れてショッピングモールに行ったら、自動ドアを「結界魔法」だと勘違いして震えていました
3話更新の3話目です
新入りのフィアナには服がない。
ボロボロのドレスしか持っていないため、今はアイリさんのジャージを借りている状態だ。
というわけで。
「お買い物に行きましょう!」
アイリさんの提案で、俺たちは近所の大型ショッピングモールへ行くことになった。
メンバーは俺、アイリ、リサ、そしてフィアナだ。
スズとマーリン、リュウは留守番である。
ただ、問題が一つ。
フィアナの「長い耳」だ。これでは目立ちすぎる。
「よし、魔法で隠そう。――【エンチャント】、認識阻害」
俺はフィアナが被った帽子に魔法をかけた。
これで周囲の人には、彼女が「ただの外国人の女の子」に見えるはずだ。
車(アイリの送迎車)でモールに到着。
入り口に立った瞬間、フィアナが悲鳴を上げて後ずさった。
「ひっ! サトウ、気をつけて! 入り口に見えない結界があるわ!」
「ん?」
「透明な壁が……ああっ!? 今、勝手に開いた!?」
自動ドアだ。
彼女には、ガラスの扉が勝手に動くのが信じられないらしい。
「これは『自動ドア』っていう科学技術だよ。魔法じゃない」
「カガク……恐ろしい子……!」
中に入ると、彼女の驚愕はさらに加速した。
「な、なによあれ! 階段が動いてる!? 人間を飲み込む魔道具ね!?」
「エスカレーターだ」
「天井に太陽(照明)が何個もあるわ! ここは王城なの!?」
「ただのスーパーだ」
フィアナは終始、キョロキョロと挙動不審だった。
だが、婦人服売り場に着くと、その目が変わった。
「……綺麗。こんなに鮮やかな色の服が、こんなにたくさん……」
「好きなの選んでいいわよ! 全部佐藤さんの奢りだから!」
「えっ、いいの!?」
アイリさんとリサに着せ替え人形にされ、フィアナは次々と新しい服を試着した。
パーカー、デニム、ワンピース。
何を着てもモデルのように似合う。さすがエルフ。
「……ふふっ。この世界の服、軽くて動きやすい。それに、みんな幸せそうな顔をしてる」
フィアナはソフトクリーム(これも初体験)を舐めながら、穏やかに微笑んだ。
「私、この世界が好き。……連れてきてくれて、ありがとう」
その笑顔は、出会った時の絶望に染まった表情とは別人のように輝いていた。
俺は頭をポンポンと撫でた。
「これからもっと楽しいことが待ってるさ。とりあえず、帰ったらゲームでもするか」
「ゲーム? それもカガクの魔法?」
こうして、異世界のエルフ姫は、順調に現代日本(というより俺の堕落ライフ)に染まっていくのだった。
(続く)
異世界人、現代文明に敗北。
自動ドアやエスカレーターは、魔法文明から見てもオーパーツ級のようです。
平和なショッピング回でした。
次回、平和な日常に水を差す「アイツ」が再登場?
以前ボコボコにした「元社長」が、懲りずにまた何か企んでいるようです。




