第37話 異世界のエルフに「カップ麺」を食べさせたら、涙を流して感動されました
3話更新の2話目です
佐藤家の客室。
ベッドで眠っていたエルフの少女が、パチクリと目を覚ました。
「……ここは? 私は魔王軍に追われて……天国?」
彼女はふかふかの羽毛布団と、エアコンの効いた快適な室温に戸惑っている。
そこへ、俺とスズが入室した。
「あ、気がついた?」
「っ!? 人間!? 離れなさい! 私はエルフの王女、フィアナよ!」
彼女――フィアナは警戒心を剥き出しにして身構えた。
まあ、異種族だし仕方ないか。
とりあえず、一番有効な「外交手段」を使おう。
「まあ落ち着いて。お腹空いてるだろ? これ食うか?」
俺が差し出したのは、日本が誇る最高の発明品『カップヌードル(醤油味)』だ。
スズがお湯を入れて3分待った、完璧な状態のもの。
「な、なによその変な器は……毒が入って……」
「いい匂いですよ〜。毒見は私がしましたから!」
スズに促され、フィアナは恐る恐るフォークで麺を啜った。
その瞬間。
「んっ!? ……んんんっ!?」
彼女の長い耳がピーン!と立った。
瞳孔が開く。
「な、なになにこれ!? この黄金のスープ! 縮れた麺に絡みつく複雑怪奇な旨味! そしてこの謎の肉(謎肉)のジューシーさは……!!」
彼女は夢中で麺をかき込み始めた。
王女の品格など知ったことかと言わんばかりの食いっぷりだ。
あっという間にスープまで飲み干し、彼女は涙目で俺を見た。
「……美味しい。私の国では、こんな魔法のような料理、食べたことない……」
「そりゃあ、化学調味料の結晶だからな」
「カガク? それがこの世界の魔法なの?」
彼女は空になったカップを大事そうに抱きしめた。
「……助けてくれてありがとう。貴方は命の恩人だわ」
「気にしなくていいよ。で、どうする? 元の世界に帰るか?」
俺が聞くと、フィアナは首を横に振った。
「無理よ。私の国は魔王軍に滅ぼされたわ。……帰る場所なんてない」
「そっか。じゃあ、ここにいればいい」
俺は事もなげに言った。
どうせ部屋は余っているし、カップ麺くらい幾らでも食わせてやれる。
「え……いいの?」
「おう。その代わり、家の手伝いはしてもらうぞ」
「……うん! 私、なんでもする! この『カップ麺』が毎日食べられるなら、悪魔に魂だって売るわ!」
チョロい。
こうして、亡国のエルフ姫は、カップ麺ひとつで我が家の軍門に降ったのだった。
(続く)
カップ麺、最強説。
異世界人にとって、現代のジャンクフードは高級宮廷料理以上の衝撃のようです。
フィアナ(エルフ)も無事に陥落しました。
次回、服がないフィアナのために、ショッピングモールへ買い物に行きます。
エスカレーターを見た彼女の反応は……?




