第35話 迷惑系ダンジョン配信者が庭に不法侵入しましたが、メイドとドラゴンが「教育」しました
本日4話投稿の4話目です(07時・12時・17時・21時)
政府による「ダンジョン探索解禁」の発表から数日。
世はまさに、大ダンジョン時代を迎えていた。
動画サイトには『ダンジョン潜ってみた』『ゴブリン倒すまで帰れません』といった動画が溢れ返っている。
そんなある日の午後。
俺はリビングで、総理から貰ったメロンを食べながら、防犯カメラの映像を見ていた。
「……来たな」
「Target、一名。カメラに向かって何か叫んでいますね」
リサが冷ややかな声で言う。
モニターに映っているのは、派手な髪色をした若者。スマホ片手に、勝手にウチの塀をよじ登ろうとしている。
最近話題の「迷惑系配信者」だ。『噂の個人所有ダンジョンに突撃してみたw』というタイトルで生配信中らしい。
「どうしますか、マスター? 排除(Eliminate)しますか?」
「殺すなよ? あくまで『不法侵入者の確保』だ」
「了解。……ゴミ掃除の時間ね」
リサがニヤリと笑い、メイド服のスカートを翻して部屋を出て行った。
◆
――庭。
配信者の男は、スマホに向かって興奮気味に喋っていた。
「へいリスナーのみんな! ここが噂の『佐藤邸』の裏庭だぜ! マジでダンジョンの入り口があるらしいから、俺様が一番乗りで攻略してやるよ!」
コメント欄が『不法侵入だろw』『警察くるぞ』と盛り上がる中、男は庭の奥へ進む。
すると、黄金色に輝く犬小屋の前で、何かが寝ているのに気づいた。
「ん? なんだあのトカゲ……えっ、ドラゴン!?」
リュウがのっそりと顔を上げた。
不躾なカメラを向けられ、機嫌が悪そうだ。
『……貴様、肖像権の侵害じゃぞ』
リュウが念じるが、イヤリングをしていない男には「グルルルル……!」という地響きのような唸り声にしか聞こえない。
だが、それだけで十分だった。生物としての格の違いが、男の本能に恐怖を叩き込む。
「ひぃっ!? う、唸った……!?」
男が腰を抜かした瞬間、頭上から冷徹な声が降ってきた。
「そこまでよ、侵入者(Intruder)」
男が見上げると、屋根の上にメイド服の美女が立っていた。
リサだ。
逆光で表情は見えないが、手には数本のナイフが握られている。
「なっ、なんだお前! コスプレか!? 俺は有名な配信者だぞ! 撮影の邪魔すんな!」
「……ここが私有地だと理解できない知能なのね。教育が必要だわ」
リサが腕を振った。
ヒュンッ!
目にも留まらぬ速さでナイフが投擲される。
「ひっ!?」
男の悲鳴。
だが、痛みはない。
ナイフは男の耳の横、股の間、脇の下ギリギリを掠め、地面と壁に深々と突き刺さった。
男は磔のように動けなくなる。
「つ、次は当てるぞ!?」
「ご心配なく。私のナイフは『汚いもの(あなたの服)』以外は切り裂かないようにエンチャントされているから」
リサが指を鳴らすと、ナイフが僅かに振動した。
その瞬間、男の着ていた派手なパーカーとズボンが、縫い目からパラパラと解けて弾け飛んだ。
「えっ? あ、あれぇぇぇ!?」
残されたのは、パンツ一丁で震える男と、それを生中継するスマホだけ。
コメント欄が『wwwww』『パンツw』『このメイド強すぎワロタ』で埋め尽くされる。
『……我の昼寝を邪魔した罪は重いぞ。少し炙ってやろうか?』
リュウが「ガァァッ!」と吠え、口からボッ!と小さな威嚇射撃の火炎を吐いた。
男のパンツのお尻部分に火がつく。
「アチチチチッ!! ごめんなさいいいいい!! 許してぇぇぇ!!」
男は泣き叫びながら、お尻を押さえて逃げ帰っていった。
二度と敷居をまたぐことはないだろう。
「……ふぅ。ゴミ掃除完了ね」
リサはカメラに向かって優雅に一礼すると、配信を切断した。
この映像は瞬く間に拡散され、『佐藤家には最強のメイドと番犬』がいるという噂が、魔除けとして機能することになったのだった。
(続く)
迷惑系配信者、撃退完了。
リサのナイフ捌きと、リュウの火遊び(お仕置き)の前には無力でした。
これに懲りて、不法侵入者が減るといいのですが。
次回、またまた「新しいヒロイン(?)」の予感。
ダンジョンの奥から、今度は人間が迷い込んできました。……でも、耳が長いような?




