第34話 総理大臣に呼び出されたので、「美味しいメロン」を要求しておきました
本日4話投稿の3話目です(07時・12時・17時・21時)
世界を救った翌日。
西園寺さんが、また死んだ魚のような目で我が家を訪れた。
「……佐藤様。昨日の『狐の救世主』、どう見てもあなたですよね」
「いやぁ、どうでしょう。世の中には似たような狐のお面を持っている人も……」
「履いてた靴、昨日ウチで脱いだのと同じメーカーですよね?」
バレてた。
まあ、隠し通せるとは思っていない。西園寺さんは深いため息をついた後、真剣な表情になった。
「……総理がお会いしたいそうです。極秘で」
◆
案内されたのは、官邸の地下深くにあるシェルターのような会議室。
そこに、日本の内閣総理大臣が待っていた。
俺が入室した瞬間、総理はSPを制止し、深々と頭を下げた。
「佐藤君。……いや、日本の守護神よ。この国を救ってくれて、本当にありがとう」
国のトップに土下座されそうな勢いだ。
俺は慌てて止めた。
「頭を上げてください。俺はただ、自宅の庭と、ついでに通販が届く範囲を守りたかっただけですから」
「……器が大きすぎる」
総理が勝手に感動している。
彼は椅子に座り直すと、一枚の書類を差し出した。
「単刀直入に言おう。君の力は、一国家が管理できるレベルを超えている。もし君が敵になれば、自衛隊はおろか米軍でも止められまい」
「まあ、その気になれば地球ごと【クリーン】できますけど」
「(ヒェッ……)」
総理の顔が引きつった。冗談のつもりだったが、笑えなかったらしい。
「そこでだ。政府は君を**『国家特別保護対象』**に指定することにした。税金の免除はもちろん、君の行動に対する法的責任の免除、そしてあらゆる公的機関への優先命令権を付与する」
つまり、俺は法律に縛られない「生きた特区」になったわけだ。
やりすぎな気もするが、変な干渉を受けなくなるならありがたい。
「その代わり、日本が滅亡しそうな時だけは、また力を貸してほしい。……これ以外に、何か望みはあるかね? 地位か? 名誉か? それとも土地か?」
総理が身を乗り出す。
俺は少し考えてから答えた。
「あ、そういえば」
「なんだ!?」
「最高級のマスクメロンが食べたいです。あと、スズが好きなショートケーキも」
「……は?」
総理がポカンとした。
国家予算レベルの要求が来ると身構えていたらしい。
「それだけで、いいのかね?」
「ええ。静かな生活と、美味しいものがあれば十分です」
総理はしばらく呆然としていたが、やがて腹を抱えて笑い出した。
「ハハハハハ! そうか、メロンか! いやはや、君には勝てんよ」
その日の夕方。
我が家に、桐箱に入った最高級マスクメロンがトラック一杯分届いた。
ついでに、国家権力が俺の「平穏」を全力で守ってくれるという確約書も。
これで名実ともに、俺の最強スローライフは盤石なものになった。
……はずだったが、そう簡単にいかないのが世の常だ。
翌日、テレビを見ていたアイリさんが叫んだ。
「えっ!? ダンジョン庁が新設!? 一般人のダンジョン探索が解禁されるの!?」
どうやら、世界が変わるスピードは、俺の予想より早かったらしい。
(続く)
権力もお金もいりません。欲しいのはメロンです。
この無欲さが、逆に権力者たちを安心させる秘訣ですね。
これで国内の面倒ごとは全てパスできるようになりました。
次回、世界中でダンジョンブームが到来!
俺たちの庭にも、招かれざる客がやってくる……?




