第33話 東京が壊滅しそうだったので、上空から「お掃除」したら神様扱いされました
本日4話投稿の2話目です(07時・12時・17時・21時)
「……佐藤様、もう駄目です。自衛隊の防衛線が突破されました。新宿は……放棄します」
電話越しの西園寺さんの声は、震えていた。
テレビには、炎に包まれる都庁と、逃げ惑う人々の姿が映っている。
数百、いや数千の魔物が、地下ダンジョンから溢れ出し、街を飲み込もうとしていた。
「……分かりました。すぐ行きます」
「え? 来るって、どうやって? それに佐藤様お一人では……」
「俺一人で十分です。西園寺さんは、現場の隊員たちに『上を見ろ』とだけ伝えてください」
俺は電話を切ると、クローゼットからあるものを取り出した。
以前、ドン・キホーテで買った「狐のお面」と「黒いローブ」だ。
顔バレ防止用だが、中二病くさいのは我慢しよう。
「主よ、派手にやるつもりか?」
「まあね。うちの庭だけ平和でも、日本が沈んだら通販が届かなくなるから」
マーリンがニヤリと笑う。
俺は脳内マップを展開した。登録地点は『内閣府』……ではなく、その上空。
「――【テレポート】」
ヒュンッ。
◆
――東京、新宿上空五百メートル。
俺は空に浮いていた。
もちろん飛行魔法など持っていない。だが、履いているスニーカーに**『地面や空気を「汚れ」とみなして全力で拒絶(弾く)する』**というエンチャントを施した結果、強烈な反発力で浮遊してしまったのだ。
靴を汚したくない一心で開発したが、まさか空を飛ぶことになるとは。
眼下は地獄だった。
黒い魔物の奔流が、大通りを埋め尽くしている。銃声と悲鳴。爆発音。
「……汚いな」
俺には、その光景が「汚れ」にしか見えなかった。
美しい街並みにへばりつく、黒いシミ。
なら、やることは一つだ。
俺は両手を広げた。
イメージするのは、視界に入る全ての「敵性存在」の消去。そして、破壊された街の「修復」。
全魔力を注ぎ込む。
「世界を綺麗に。――【クリーン・ワールド(世界浄化)】」
カッ!!!!!!!
夜空に、太陽が昇ったかのような閃光が走った。
それは破壊の光ではない。どこまでも優しく、清浄な光の波紋。
光は新宿を、東京を、そして関東全域をドーム状に包み込んだ。
地上で戦っていた自衛隊員や、逃げ遅れた人々は、我が目を疑った。
目の前にいた凶悪なオークやドラゴンが、光に触れた瞬間、サラサラと綺麗な砂になって崩れ去っていくのだ。
それだけではない。
砕けたアスファルトが、倒壊したビルが、割れたガラスが。
ビデオの逆再生のように組み上がり、元通りになっていく。
光が収まった時。
そこには、傷一つない、静寂に包まれた美しい夜の東京があった。
「……な、何が起きたんだ?」
「神様……? 奇跡だ……!」
誰かが空を指差した。
満月の前には、黒いローブに狐面をつけた人影が浮かんでいる。
俺はテレビ中継のヘリに向かって、人差し指を口元に当て「シーッ」というジェスチャーをした。
そして、再び転移。
◆
「ただいまー」
家に帰ると、スズがお茶を淹れて待っていた。
「おかえりなさいませ。……テレビ、すごいことになってますよ」
画面の中では、アナウンサーが泣きながら「救世主」の出現を伝えていた。
世界中のSNSが『JAPAN』『FOX MASK(狐仮面)』で埋め尽くされている。
「……やりすぎたかな?」
「フォッフォッフォ。歴史が変わったのう」
マーリンが楽しそうに笑う。
まあ、正体はバレていないし、日本も救えたし、良しとしよう。
俺は熱いお茶をすすり、ようやく一息ついたのだった。
(続く)
神様ムーブ、キメてきました。
空を飛ぶ理屈も「汚れ(空気)を弾く」という、あくまで掃除の延長です。
【クリーン】と【リペア】を同時発動すれば、災害もなかったことにできます。
次回、救世主騒動の裏で、西園寺さんが俺の正体に気づ……いてますよね、これ。
政府とのとんでもない密約が交わされます。




