第32話 世界中が魔物の襲撃(スタンピード)でパニックですが、ウチの庭はメイドと座敷わらしが掃除しました
本日4話投稿の1話目です(07時・12時・17時・21時)
月曜日の午後。
リビングの大型テレビが、不穏な臨時ニュースを垂れ流していた。
『――緊急速報です。ニューヨーク、ロンドン、パリなど世界各国の主要都市で、地下から突如として「謎の怪物」が溢れ出しました!』
画面には、武装した軍隊が、ゴブリンやオークの群れと市街地で交戦している映像が映っている。
まるで映画の世界だ。
コタツでみかんを食べていたマーリンお爺ちゃんが、深く溜息をついた。
「始まったか……。『大氾濫』じゃ。長年溜め込まれていた地球の魔素が、限界を超えて噴出したのじゃろう」
「大変じゃないですか。日本は?」
「今のところ新宿で小規模な発生が確認されたそうじゃが……ん?」
マーリンが庭の方を向いた。
ズズズズズ……と、地響きがする。
「主よ、他人事ではないぞ。この家の庭も噴火する」
言ったそばから、庭のダンジョンの入り口から黒い霧が噴き出した。
続いて、数百匹はいるであろう魔物の群れが、雪崩のように押し寄せてくる。
レッドウルフ、オークキング、キラーマンティス……どれも災害級の魔物だ。
「わぁ、いっぱい出てきた」
「感心しておる場合か! この数、軍隊でも止められんぞ! 結界を……」
マーリンが杖を構えようとした、その時だった。
「Target、多数。……庭が汚れます。排除(Eliminate)します」
シュパッ!
メイド服のリサが、窓から飛び出した。
両手には、俺が【エンチャント】で強化した「無限投擲ナイフ」が握られている。
「主様のお昼寝の邪魔はさせません!」
続いて、勝手口からスズが飛び出す。手にはオリハルコンの包丁。
さらに、犬小屋からはリュウが飛び立った。
『ヒャッハー! 運動不足の解消じゃあ! 燃えろ雑魚ども!!』
――そこからは、一方的な蹂躙だった。
リサのナイフがオークの眉間を正確に貫き、スズの包丁がマンティスの鎌を紙のように切り裂く。
トドメに上空からリュウのブレスが降り注ぎ、魔物の群れは「悲鳴を上げる暇もなく」灰になった。
所要時間、三分。
世界を恐怖に陥れている大氾濫が、ここではただの「庭の掃除」で終わってしまった。
「……なんじゃ、あのふざけた戦力は」
マーリンがぽかんと口を開けている。
そこへ、二階からあくびをしながら俺が降りてきた。
「ふわぁ……よく寝た。なんか外、騒がしくなかった?」
「ああ、少し虫が湧いたので、皆で駆除しておきました」
戻ってきたリサが、涼しい顔で紅茶を淹れてくれる。
窓の外を見ると、庭はチリ一つなく綺麗になっていた(死体は全部【クリーン】で素材回収済み)。
「そっか。サンキュ。……あ、ニュース大変そうだな」
俺はテレビを見て、他人事のように呟いた。
まさか自分の庭で、それ以上の激戦が起きていたとは知る由もなく。
直後、俺のスマホが鳴った。
西園寺さんからだ。
『佐藤様! 助けてください! 政府だけではもう……!』
どうやら、平穏なのはこの家だけのようだった。
(続く)
世界が大ピンチですが、佐藤家は通常運転です。
リサ、スズ、リュウの連携が強すぎました。
マーリンお爺ちゃんの「常識的な驚き役」が板についてきましたね。
次回、泣きついてきた政府(西園寺さん)を救うため、ついに主人公が「本気」を出します。
世界の常識を覆す、大規模魔法の発動です!
【新作・短期集中連載のお知らせ】
いつも本作を読んでいただきありがとうございます!
本日から、短期連載で別の新作を投稿し始めます。
タイトルは『 ご都合主義について物申す。〜敏腕編集長は異世界出張で忙しい〜』です。
主人公は、理屈っぽい「ラノベ編集長」。
彼がいろんな異世界に行っては「設定が甘い!」「コンプラ守れ!」と説教して回るコメディなのですが……
なんと最終章で、本作『生活魔法』の世界にカチコミに来ます。
佐藤健太の「ストレスフリーな生活」が、鬼編集長にどう論破されるのか(あるいはされないのか)。
全40話、11/30日から8日間(1日5話更新)で一気に完結させます!
完結までお付き合いいただけると嬉しいです!
▼新作はこちら https://book1.adouzi.eu.org/n8864lk/
11/30 07:00に第1話が公開されます。




