第23話 世界中の裏組織が俺を狙っているらしいですが、今日の晩ご飯はハンバーグです
本日3話投稿の2話目です(07時・17時・21時)
――某国、地下司令室。
薄暗い部屋で、男がデスクを叩きつけた。
多国籍諜報機関『ネスト』の極東支部長だ。
「たかが日本の一般市民一人に、精鋭部隊が全滅だと? ふざけるな!」
モニターには、佐藤健太の写真と、彼が住む元・別荘の衛星写真が映し出されている。
先日送り込んだ部隊からの最後の通信は、『家が……家が襲ってくる!』という錯乱した悲鳴だった。
「魔法のような美容液……そして、一瞬で汚染を消し去る技術……。こいつはただの民間人ではない。日本の国家機密そのものだ」
支部長は葉巻を噛み砕いた。
この技術を手に入れれば、軍事バランスすらひっくり返る。何としても生捕りにし、自白させなければならない。
「『コード・タランチュラ』を呼べ。……本気でいくぞ」
「はっ! し、しかし、あの女を使うのですか? もし制御不能になれば……」
「構わん。佐藤健太を拉致し、あの要塞のような家を焼き払え」
闇の中で、殺意の歯車が回り始めた。
◆
――日本、佐藤家リビング。
「……へくちっ!」
俺は盛大にくしゃみをした。
誰だ? 噂ななか? アイリさんがまたテレビで俺の話(もちろん名前は伏せて)でもしてるんだろうか。
「主様、風邪ですか?」
「いや、大丈夫だ。それよりスズ、挽肉の準備は?」
「バッチリです! 今日はダンジョンの『オーク肉』と『和牛』の合挽きハンバーグですね!」
スズがボウルを抱えて目を輝かせている。
そう、今日のメインイベントはハンバーグ作りだ。
オーク肉は弾力がありすぎて硬いのが難点だが、俺の魔法があれば関係ない。
「――【クリーン】、筋繊維分解」
俺が指を鳴らすと、ゴツゴツしたオーク肉が、最高級のネギトロのようにふんわりと解れた。
余分な脂身や臭みも消滅済みだ。
「これを和牛の脂と混ぜて……パン粉の代わりに『粉砕したマタタビダケ』をつなぎに入れる!」
「うわぁ、焼く前からいい匂いがします!」
ジュウウウウウ……ッ!!
フライパンの上で、特大ハンバーグが音を立てる。
肉汁が溢れ出し、部屋中に暴力的な旨味の香りが充満した。
「完成だ! 特製デミグラスソースをかけて……いただきます!」
パクッ。
口に入れた瞬間、肉の旨味が爆弾のように炸裂した。
「うまーーーーっ!!」
「ほっぺた落ちますぅ〜〜!!」
俺とスズはハイタッチをして、白米をかき込んだ。
平和だ。
最高に幸せだ。
地球の裏側で、凄腕の暗殺者が日本行きの飛行機に乗ったことなど露知らず、俺はおかわり(三杯目)をよそったのだった。
(続く)
裏では殺伐としていますが、表ではハンバーグが美味しいです。
オーク肉×和牛、絶対に美味いやつですね。
次回、送り込まれた最強の女暗殺者「タランチュラ」が接触してきます。
……が、たぶん彼女も「ご飯」か「お風呂」で陥落する予感がします。




