第22話 【付与】で「時間が止まる弁当箱」を作ったら、激務の官僚が泣いて喜びました
本日3話投稿の3話目です(07時・17時・21時)
アイリさんの衣装問題を解決した後、俺は【エンチャント】のさらなる可能性を検証していた。
「服ができるなら、他のものもいけるよな」
目の前にあるのは、ホームセンターで買ってきた安いタッパー(保存容器)。
俺は右手をかざし、イメージを固める。
中に入れた物の時間を止め、腐敗を防ぎ、温度を完全に維持する魔法。
「――【エンチャント】、鮮度保持」
ボウッ、とタッパーが一瞬光り、すぐに収まった。
見た目は変わらないが、魔力でコーティングされているのが分かる。
「スズ、実験だ。熱々の唐揚げを入れてみてくれ」
「はい! 揚げたてをご用意しました!」
スズが作った激ウマ唐揚げをタッパーに入れて蓋をする。
そのまま放置すること、三時間。
普通なら冷めて湿気ってしまう頃合いだ。
パカッ。
蓋を開けた瞬間、ジュワァ……という音と共に、揚げたての香ばしい湯気が立ち上った。
衣はサクサク、中はアツアツ。入れた瞬間と全く変わっていない。
「成功だ……! これなら『作り置き』の概念が変わるぞ」
「主様、すごい発明です! これがあれば、いつでも温かいご飯が食べられます!」
俺とスズがハイタッチしていると、スマホが震えた。
西園寺さんからだ。
『……佐藤様。お久しぶりです……』
声が死にそうだ。
聞けば、また別のトラブル(俺が回収した衛星の解析作業)で、二日間まともな食事をしていないらしい。
「……分かりました。今すぐ行きます」
俺はスズにお願いして、特大の「エンチャント弁当箱」に、スタミナ満点の焼肉弁当を詰めてもらった。
もちろん、ご飯もおかずも炊きたて・焼きたての状態だ。
内閣府への移動は【テレポート】で一瞬。
地下の執務室に転移すると、西園寺さんがデスクに突っ伏していた。
「うぅ……お腹すいた……温かいものが食べたい……」
「お疲れ様です。差し入れですよ」
俺が弁当箱を置くと、西園寺さんはゾンビのように起き上がった。
蓋を開ける。
ブワッ!!
執務室に、食欲をそそる焼肉のタレの匂いと、湯気が充満した。
「えっ!? 湯気!? ここ、火気厳禁ですよ!?」
「魔法で『出来立て』の状態を保存しておいたんです。さあ、食べてください」
西園寺さんは震える手で箸を取り、肉を口に運んだ。
「んん〜〜ッ!! 温かい……! 美味しいぃぃ……!」
彼女はボロボロと涙を流しながら弁当をかきこんだ。
コンビニの冷たい弁当しか食べていなかった体には、魔法の保温効果とスズの愛情料理が染みるらしい。
「佐藤様……これ、とんでもない発明ですよ。災害現場や戦地でも温かい食事が摂れるなんて……」
「あー、国に売る気はないですよ? これは西園寺さん専用です」
俺がそう言うと、彼女は箸を止めて、真っ赤な顔で俺を見た。
「せ、専用……? 私だけの……?」
「ええ。タッパーは洗えば何度でも使えますから。またスズに作らせて持ってきますよ」
西園寺さんは弁当箱を宝物のように抱きしめ、「一生大事にします……」と呟いた。
どうやら俺は、胃袋だけでなく「食のライフライン」まで完全に掌握してしまったようだ。
(続く)
「時間が止まる弁当箱」、完成です。
ブラックな環境で働く人にとって、温かいご飯は何よりのご馳走ですよね。
西園寺さんの「専用」発言で、好感度がまた上がった気がします。
次回、ついに「あの組織」が動き出します。
平和な日本に忍び寄る、海外からの魔の手とは……?




