第18話 【転移】のマーキングをしにテレビ局へ行ったら、放送事故寸前の修羅場でした
本日3話投稿の3話目です(07時・17時・21時)
数日後。 俺はアイリさんの招待で、都内のテレビ局に来ていた。 目的は二つ。 一つは、アイリさんの楽屋を【テレポート】の移動先に登録すること。 もう一つは、単なる社会科見学だ。
「ここが楽屋です! どうぞ!」
案内されたのは、大部屋ではなく個室。さすがトップアイドル。 俺は部屋に入ると、こっそりと魔力を練り、脳内マップに地点登録を行った。
『ピロリン♪ 地点登録完了:【ポイント2・アイリの楽屋】』
よし、これでいつでもここへ飛んでこれるし、差し入れも一瞬だ。 用事は済んだし、あとはリハーサルを見学して帰ろう……と思った時だった。
ガチャン!!
隣の部屋から、何かが割れる音と、悲鳴が聞こえた。
「なっ、何やってるのよ!!」 「も、申し訳ありません……!」
騒がしい。 アイリさんと顔を見合わせ、廊下に出てみると、そこは地獄絵図だった。 新人っぽいアイドルが震えていて、その足元にはコーヒーの染みが広がった純白のドレスが転がっている。
そして、鬼のような形相で怒鳴り散らしている女性スタッフ。
「どうすんのよこれ! 本番まであと十分しかないのよ!? このドレス、特注で予備なんてないのに!」 「あわわ……クリーニングに……」 「間に合うわけないでしょ!」
放送事故確定の空気だ。 アイリさんが小声で教えてくれた。 「あれ、私の事務所の敏腕マネージャーさん。で、あのドレスは今日の特番のフィナーレで着るやつ……」
なるほど。 俺はため息をつくと、人だかりをかき分けて前に出た。
「あの、すいません」 「なによ部外者は! 今それどころじゃ……」 「そのドレス、俺が直しますよ」
俺は床に落ちていたドレスを拾い上げた。 コーヒーの茶色い染みが、白いレースに残酷に広がっている。 普通なら再起不能だ。
でも、俺にはただの「汚れ」にしか見えない。
「――【クリーン】」
一瞬だった。 光が走ると同時に、コーヒーの染みは完全に消滅した。 それだけじゃない。ついでに【リペア】もかけて、ほつれていた糸やシワも新品同様に直しておいた。
「はい、どうぞ」 「は……?」
マネージャーさんが口をポカンと開けて、真っ白なドレスを受け取った。 あちこち確認するが、染み一つない。
「うそ……新品? いや、さっきまで確かに……」 「魔法使いの仕業ってことにしておいてください。じゃ、俺はこれで」
カッコつけて立ち去ろうとした俺の腕を、マネージャーさんがものすごい力で掴んだ。
「待ち(マチ)なさいッ!!」 「はいっ!?」 「あなた、アイリが言ってた『佐藤さん』ね!? お願い、ウチの専属スタッフになりなさい! 給料は言い値で出すわ! ていうか結婚して!」 「ええええ!?」
結局、アイリさんが「佐藤さんは私の専属ですぅーっ!」と割って入るまで、俺はマネージャーに求婚され続けた。 テレビ局という魔境に、また一つ強力なコネ(信者)ができてしまったようだ。
(続く)
放送事故を回避しました。 敏腕マネージャーまで陥落させ、芸能界での立場も強固になりました。 ちなみに、助けられた新人アイドルちゃんも、頬を染めてこっちを見ていますね……。
次回、西園寺さんから緊急連絡! ついに「テレポート」を使った、海外への極秘任務が発生します!




