第17話 エリート美人官僚が過労で死にかけていたので、餌付けしてマッサージしました
本日3話投稿の2話目です(07時・17時・21時)
スパイたちが連行された後。 引き取りに来た内閣府の西園寺さんは、リビングのソファで死んだ魚のような目をしていた。
「……はぁ。やっと片付きました」 「お疲れ様です。あの、顔色悪くないですか?」
彼女の目の下には、ファンデーションで隠しきれない濃いクマがある。 肌もカサカサで、髪も少しボサボサだ。
「ええ……。佐藤様が海を綺麗にしてくださったおかげで、その事後処理やら、海外メディアへの言い訳やらで……ここ三日ほど寝ていないんです」
三徹。 ブラック企業出身の俺でも引くレベルだ。 原因の一端は俺にある(派手にやりすぎた)ので、少し罪悪感が湧く。
「……少し、休んでいきませんか? ご飯くらい出しますよ」 「いえ、公務員が民間の方に接待を受けるわけには……グゥゥゥゥ〜〜〜ッ」
西園寺さんのお腹が、言葉を遮って盛大に鳴り響いた。 彼女は顔を真っ赤にしてうつ向いた。
「……お言葉に甘えます」
◆
数分後。 スズが運んできたのは、ダンジョン産の「ビッグボア肉」と「マタタビダケ」をたっぷり使った、特製スタミナ丼だ。
「どうぞ。精がつきますよ」 「いただきます……ハフッ、んんっ!?」
一口食べた西園寺さんの目がカッ!と見開かれた。
「美味しい……! なんですかこれ、体の中から力が湧いてくるような……」 「魔物肉ですからね。疲労回復効果は抜群です」
彼女は無言になり、すごい勢いで丼をかきこみ始めた。 エリートの仮面が剥がれ落ちている。 あっという間に完食すると、彼女は「ふぅ……」と幸せそうなため息をついた。
「生き返りました……。では、そろそろ戻らなくては」 「あ、待ってください。肩、ガチガチじゃないですか?」
立ち上がろうとした彼女の肩が、岩のように凝り固まっているのが見えた。 これじゃ頭痛もするだろう。
「職業病ですので……整体に行く暇もなくて」 「俺が治しましょうか? 一瞬で終わりますよ」 「えっ?」
俺は彼女の背後に回り、肩に手を置いた。 イメージするのは、筋肉に溜まった乳酸と、凝りの原因である老廃物の除去。
「――【クリーン】、疲労除去」
シュワワッ……。 魔法が発動した瞬間、西園寺さんの体からドス黒いモヤのようなものが抜け、霧散した。
「あ……っ、ぁ……♥」
西園寺さんの口から、官僚らしからぬ艶っぽい声が漏れた。 彼女はその場にへたり込み、とろんとした目で俺を見上げた。
「か、軽い……羽が生えたみたい……。嘘、万年の偏頭痛まで消えてる……」 「老廃物を掃除しただけですよ。ついでに睡眠不足の毒素も抜いておきました」
俺が笑うと、彼女はウルウルした瞳で、俺の袖を掴んできた。
「……帰りたく、ないです」 「はい?」 「霞ヶ関に戻りたくない……。ここのご飯美味しいし、体も楽だし……もう私、佐藤様の家の子になりたい……」
完全に幼児退行している。 どうやら日本の国家中枢を支えるエリートを、完全にダメにしてしまったらしい。
結局、迎えの車が来るまで、西園寺さんはスズと一緒にこたつで丸くなって爆睡していた。 その寝顔は、激務に追われる官僚ではなく、ただの疲れたお姉さんだった。
(続く)
エリート官僚、陥落。 胃袋と健康を握れば、人は簡単に落ちるようです。 これで政府とのパイプは盤石(?)ですね。
次回、いよいよ【テレポート】を使って、アイリの職場へ遊びに行きます!




