第16話 留守番中の座敷わらしをスパイが襲いましたが、返り討ちにしました
レゴブロックの当たる位置を修正しました
主様が出かけて数分後。
私は広いリビングで、ルンバ(主様が買ってくれたお掃除ロボット)の後ろをついて歩いていた。
「そこ、まだ埃が残ってますよー」
私の仕事は、この家の「清浄」を保つこと。
それはゴミだけではない。
勝手に入り込んでくる「悪い人間」もまた、掃除すべき対象だ。
カチャリ。
厳重にロックされたはずの勝手口が、特殊な工具で音もなく開けられた。
黒ずくめの男たちが三人、土足で上がり込んでくる。
「……侵入成功。センサー反応なし」
「ターゲットは外出中。中にいるのは子供一人だ。確保して人質にするぞ」
男たちが忍び足で近づいてくる。
私はため息をついた。
せっかくピカピカに磨いた床なのに。土足なんて信じられない。
「……あの。靴、脱いでくれませんか?」
私が声をかけると、男たちはビクッと震え、すぐに銃のようなものを向けた。
「動くな! 声を出すと撃つぞ!」
「子供か。よし、捕まえろ!」
リーダー格の男が、乱暴に私に手を伸ばしてきた。
私は一歩下がって、ニコリと笑った。
「主様の家を汚す人は、お仕置きです」
パチン、と指を鳴らす。
それが合図だった。
ウィーン!!
突然、足元のルンバが唸りを上げた。 通常時の三倍くらいの速度で急加速する。 その進路上には、アイリが読み捨てていった『分厚い動物図鑑』が、ちょうど坂道のように伏せて置かれていた。
「なっ!?」
ガッ! ブオンッ! 図鑑の傾斜をジャンプ台にして、凶暴化したルンバが宙を舞う! 美しい放物線を描いた円盤は、そのままリーダーの男の脛に激突した。
「ぐあっ!?」
男がバランスを崩し尻もちをついたところに、なぜか床に落ちていた「レゴブロック(昨日アイリが忘れていったやつ)」がクリティカルヒット。
「ギャアアアアアッ!!」
男は白目を剥いて倒れた。レゴの痛みは地雷に匹敵する。
「な、なんだ!?」
「おい、冷蔵庫が……開いたぞ!?」
残りの二人が怯える中、キッチンの大型冷蔵庫が勝手に開き、中から「冷凍カチカチの鶏肉」や「氷」がマシンガンのように発射された。
ドスッ! バシッ!
「痛っ! 冷たっ! やめろ!」
「撤退だ! この家、何かがおかしい!」
男たちは蜘蛛の子を散らすように玄関へ走った。
しかし、玄関マットがツルリと滑り、二人は漫画のように空中で一回転して後頭部を強打。
「がはっ……」
気絶した男たちの上に、仕上げとばかりに玄関の靴箱が倒れかかり、完全に封じ込めた。
所要時間、三分。
最新鋭の諜報部員たちは、家(と私)に遊ばれて全滅した。
ヒュンッ。
そこへ、空間が歪んで主様が帰ってきた。
【テレポート】のテストから戻ったらしい。
「ただいまー。いやー、転移便利だわ……って、んん?」
主様は玄関で伸びている黒ずくめの男たちを見て、目を点にした。
「スズ、これ何?」
「ゴキブリ(スパイ)が出たので、退治しておきました!」
私がVサインをすると、主様は「……そっか」とだけ言って、手慣れた様子で警察……ではなく、内閣府の西園寺さんに電話をかけた。
「あ、西園寺さんですか? 産業スパイ捕まえたんで、引き取りお願いします。……ええ、なんか勝手に転んで自滅したみたいで」
こうして、我が家のセキュリティレベルが「要塞」以上であることが証明されたのだった。
(続く)
ホーム・アローン(物理)。
座敷わらしがいる家に押し入るなんて、不運にも程がありますね。
ルンバとレゴブロックは最強の武器です。
次回、捕まえたスパイの背後関係を洗うため、あの「エリート美人官僚」が再び家に来ます!




