第10話 国民的アイドルが家に押しかけてきたら、座敷わらしと修羅場になりました
本日4話更新の2話目です。(07時・12時・17時・21時)
国家規模の依頼を終え、二十億円の入金を確認した翌日。
俺は広いリビングで、スズが淹れてくれたお茶を飲みながらくつろいでいた。
「はぁ……平和だ」
もう一生働かなくても生きていける。
スズの家事は完璧だし、縁側で日向ぼっこでもして余生を過ごそう。
ピンポーン!
突然、インターホンが鳴った。
こんな山奥に誰だ? また変な勧誘か?
俺がモニターを覗くと、そこには帽子とマスクで完全防備した怪しい女性が映っていた。
「……佐藤さん! 開けてください! 私です!」
この声、まさか。
俺が慌てて玄関を開けると、予想通り、天道アイリその人が立っていた。
「アイリさん!? どうしてここが」
「興信所を使って調べました! ……じゃなくて、引っ越したなら教えてくださいよぉ! 水臭いなぁ」
彼女はプンスカと怒りながら、当たり前のように家に入り込んできた。
両手には高級食材が入ったスーパーの袋を下げている。
「今日は『お祝い』に来たんです。佐藤さん、昨日のニュース見ましたよ? 『謎の最新技術で汚染除去』って、絶対佐藤さんですよね?」
「あー……まあ、バレますよね」
「やっぱり! さすが私のパートナーです! さあ、今日は私が手料理を……」
アイリさんがリビングに入った、その時だった。
「……主様。その厚化粧の女の人は、どなたですか?」
温度のない声が響いた。
キッチンから、エプロン姿のスズが顔を出している。
その瞳は笑っていない。ハイライトが消えている。
「え?」
アイリさんが固まった。
彼女の視線が、スズの幼い容姿と、透き通るような白い肌、そして俺との距離感(物理的に近い)を行ったり来たりする。
「さ、佐藤さん……? その子、誰ですか? まさか隠し子……いや、連れ込み……犯罪!?」
「違います!!」
「彼女はこの家の……えっと、管理人みたいなもんだよ」
俺が説明する前に、スズがフワリと宙に浮いた。
「私はスズ。この家の守り神であり、主様の身の回りをお世話する『正妻(予定)』です」
「せ、正妻ぃ!? お世話って何よ! 私なんて佐藤さんと肌と肌を触れ合わせる(施術)仲なのよ!」
アイリさんが対抗意識を燃やして食ってかかる。
スズも負けじと、冷ややかな視線でアイリを見下ろす。
「ふん。主様には、そんな騒がしい俗物は似合いません。お帰りください」
「なっ……! あんたねぇ、私は国民的アイドルなのよ!?」
「知りません。テレビとか興味ないので」
バチバチバチッ!!
二人の間に、目に見えるような火花が散った。
座敷わらし VS 国民的アイドル。
ファイッ。
「……あのー、二人とも?」
「「佐藤さん(主様)はどっちの味方なんですか!!」」
同時に詰め寄られる。
なんだこの状況。
数日前までゴミ屋敷で寝ていた社畜の日常とは大違いだ。
結局、俺が仲裁に入り、「スズは家のこと」「アイリは外のこと(とメンテナンス)」という役割分担で無理やり納得させた。
その夜。
アイリさんが持ってきた高級肉と、スズが作った煮物が並ぶ食卓を、三人で囲むことになった。
「……ふん。悔しいけど、この煮物美味しいわね」
「……貴女のお肉も、質だけは良いようです」
なんだかんだで、二人は意気投合……はしていないが、休戦協定は結べたらしい。
騒がしいが、一人でコンビニ弁当を食べていた頃より、飯が数倍美味かった。
こうして俺の豪邸に、二人の美少女が出入りする奇妙な生活が始まった。
だが俺は忘れていた。
レベルアップした【生活魔法】には、まだ隠された機能があることを。
翌日、庭の家庭菜園に水を撒こうとした俺は、とんでもないものを発見することになる。
(続く)
座敷わらし vs アイドル。
まさかの修羅場でしたが、なんとか和解(?)しました。
賑やかな食卓っていいですよね。
次回、庭いじりをしていたら「ダンジョン」ができちゃった!?




