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本の存在

 皆の好意に戸惑ってしまう。だって私にはアネリとクーがいる。それだけで十分頼りになるのだ。けれど、皆の意思は既に固まっているようだ。

「学院にいる間はまだしも、一歩外に出たらいつ狙われるかわからない。出来るだけ私たちがそばにいるのはいい事だと思う。前回のように不意を突かれないためにも皆で警戒しよう」

アルノルド王子の言葉に皆が再び大きく頷く。これってもう決定事項かしら?私が口を挟む隙もなく警備隊が組まれてしまった?心配してくれて嬉しい気持ちと、思ってもみない方向に話が膨らんでいく事に困惑する気持ちが混在している中、王子が私に顔を向けた。


「リアは狙われる事に何か思い当たる事はないか?狙われる理由だけでもわかれば、何か対策を練る事が出来るかもしれない。なにかあるなら教えて欲しい」

アルノルド王子の言葉で、私の胸に存在しているモヤモヤが大きくなったような気がした。狙われる理由は正直ある。あの本の存在だ。あまりにも本の通りに進まない事に業を煮やした人物が、とうとう私をいらないものと認定して命を狙い出したのかもしれないという事。でもそれを話すには本の存在の事を知らせなくてはいけない。そうなれば、それこそ本当に本の通りにはならないし、本の世界そのものが崩れる事になるかもしれない。それがこの世界にどのように作用するのか。私だけならまだしも、皆に何か悪い事が起こったりしたら絶対に嫌なのだ。けれども、私を守ると言い張っている優しい人たちに甘える訳にもいかない。皆はきっと身を挺して守ろうとしてくれるだろう。しかし、それは私が望んでいない。本の存在を知らせるべきか、黙っているべきか、どうしても答えは出なかった。長い沈黙の後、私はフルフルと首を振る。


「……そうか」

それだけ言った王子の手が、私の頭の上に置かれた。

「そんな顔をしないでくれ。そんな辛そうな顔をさせたい訳じゃない。大丈夫だ、絶対に私たちが守る」

頭を撫でる優しい手つきに、胸がギュウっと苦しくなった。ダメ。こんなに優しい人たちのいる世界が、万が一壊れるような事になったら私は自分が許せない。

「あの!」

皆を見た。

「あの、少しだけ私に時間をいただけないでしょうか。数日でいいのです。お願いいたします」

これではなにか思い当たる節があると言っているようなものだがしょうがない。背に腹はかえられない。きっと皆もなにかあるのは間違いないと思っただろう。それでも皆の視線は優しかった。

「ああ、わかった。リアが私たちに言っていいと思うまで待つ。だから、泣かないでくれ」

王子の手が伸び、親指の腹で目元を拭われた。その時初めて涙を流したのだと気づいた。慌てて手で拭おうとすると、レンゾが自分のハンカチでそっと拭き取ってくれた。

「この話はおしまい。せっかくのお茶がすっかり冷めてしまったんじゃない?もう一度新しく淹れ直してもらおう」

レンゾの言葉で、皆の空気が変わる。王子にエスコートされ席に着くと、すぐに新しいお茶が出された。それからはこの件には一切触れずに楽しい話をたくさんしてくれたのだった。


お兄様が中庭まで迎えに来た事で、お茶会は終了となった。お兄様と共に屋敷に戻るとすぐ後にお父様も帰って来た。そしてアネリも交えて襲われた時の話をする。全てを話し終えた後、アネリに部屋から本を持ってきてもらった。

「お父様、お兄様。とても……とても大事なお話があります」

二人とも真剣な眼差しで私を見つめると、ソファに深く座り直した。

「本当はお話してしまっていいのかわからない……とてもすぐに信じられるような事ではないだろうし、話してしまった事でこの世界にどのような影響を及ぼすのかもわからない。けれど、もう黙っていてはいけない気がするの」

そう言って私はピンクの本を二人の前に差し出した。

「これは?」

お父様が本を見てから私を見る。

「ある日、私の部屋に突然置かれていたの」

そこから今日までの全てを話した。長い話にもかかわらず、二人とも黙って聞いてくれた。

「手に取ってもいいかな?」

全てを話し終えた後、お父様にそう言われ私は頷く。本をそっと持ち上げたお父様は、色々な角度から本を眺めてから、手を本に沿わせるように動かした。

「微かだが魔力を感じるね」

「え?」

私は気付かなかったが、お父様は何か感じ取ったようだ。

「この本、暫く預かっていいかな。少し調べてみたい」

私は無言で頷いた。


お父様とお兄様に全てを話してから数日経った。今のところ、世界に異変は起きていない。王子たちはまるでなにもなかったかのように、普通に振舞ってくれる。しかし、常にそばにいる事ですっかり私がハーレム状態になってしまった。

「学院では襲われないと思うのですが?」

休憩時間。今日は少し日差しが強いので、木陰にあるベンチに座ってクーを遊ばせている中、周りを警戒するように囲っている王子たちに言ってみる。

「それはあくまでも相手が本物の老婆であった場合です」

すぐさまパウル様が否定の意を表した。

「だよな。それに、老婆がここの生徒なり先生なりを操る可能性もある」

今度はミアノ様。レンゾ様も大きく頷く。

「そうだよ。用心するに越した事ないよ」

三人にそれなりの正論を振りかざされては太刀打ちなど出来るはずもなく。私は小さく溜息を吐いた。


 結局、その週は何事もなく平和なまま終わった。


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