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お見舞い

 柔らかな陽射しが差し込む中、目覚めた私は横になったままで伸びをする。

「うーん。よく寝た。アネリ、喉が乾いたわ」

いつもなら嫌味を言いながらやって来るはずなのに、なんの返答も返って来ない。

「あれ?アネリ?」

もう一度呼んでみるがやはり返事はない。そこで初めて自室ではなかった事を思い出した。

『そういえば、ここってルド様の部屋だった』

その瞬間、昨夜の出来事を鮮明に思い出し身悶える。全身が茹で上がったのかと錯覚できる程に熱を帯びている。両手で顔を覆い声にならない叫びを上げてから、気を落ち着かせるように大きく息を吐く。

『そういえば』

部屋をキョロキョロするが、傍でクーが気持ち良さそうに寝ているだけで、アルノルド王子の姿はなかった。

「あれ?もしかして夢だった?」

やけにリアルな夢だった。私を抱きしめていた感触や体温を覚えている気がするけれど、それすらも夢の産物だったのかもしれない。

「そうよね。うん、やっぱりあれは夢だったんだわ。絶対に夢だったのよ」


自分に言い聞かせるかのように呟いていると、扉をノックする音がした。ガチャリと開いた先には3人の侍女の姿。

「おはようございます。お身体の具合はいかがですか?」

真ん中に立っていた侍女が聞いて来た。

「ありがとう、もうすっかり元気ですわ」

私の返事に侍女たちが笑みを浮かべる。ああ、朝から爽やかな笑顔の侍女って新鮮。

「では、よろしけば入浴のご用意をさせていただきます。いかがなさいますか?」

「じゃあお願いしますわ」


入浴を済ませると、王妃殿下が用意してくれたというドレスに着替えさせられる。

「綺麗……」

王妃殿下から贈られたドレスは鮮やかなグリーンの光沢のある美しいドレスだった。それからすぐに王宮医の診断を受け、もう大丈夫だと太鼓判を押された。王宮医が部屋を出ると、ほぼ入れ違いのようにアルノルド王子が入って来た。

ベッドに腰掛けていた私の隣に腰掛けた王子の膝の上に、すかさずクーが飛び乗る。クーは本当に王子を気に入っているらしい。そんなクーの背を撫でながら私を見つめた王子。

「身体の具合はどうだ?怠くはないか?」

クーを撫でていた手が私の頬に伸びてきた。温かい手が触れた途端、昨夜抱きしめられたのは事実だと直感し、顔が沸騰したように熱くなってしまう。

「はい、大丈夫です。あの……ありがとうございます」

一体どうした私?と頭の中の私が突っ込む。何故か王子の顔をまともに見る事が出来ないのだ。しどろもどろにはなるし、顔を見る事ができなくて俯いてしまう。すると、膝の上に置いていた手に王子の手が重なった。

「良かった……リアが無事で……本当に良かった……」

「ルド様……」

俯いていたせいで、私の手を握っている王子の手が小さく震えているのが目に入った。私を心配してくれたのだろう。近しい友人が目の前で死ぬかもしれないという体験をした事が衝撃的だったのかもしれない。私は王子の手を握り返した。

「ルド様たちのお陰です。本当にありがとうございます」

それから暫く、無言のままただ手を握り合っていた。


広い空間で無言のまま座っていると、ぐうぅぅぅとなんとも間抜けな音が鳴った。

『ちょっと!私のお腹!何してくれんのよ‼︎』

頭の中でお腹に突っ込むと、再び同じような音が鳴る。途端に王子が笑い出した。恥ずかし過ぎてどうしていいかわからない。

「ク……ククク。順調に回復したようだな」

肩を震わせながらもそう言った王子をチラリと覗き見ると、バッチリ目が合ってしまった。途端に今度は大爆笑されてしまった。

『この笑い上戸め』

ムッとしながら、これ以上鳴らないでくれとお腹をさすっていると、クーが叫ぶように言った。

『僕もお腹空いたぁ!』

まだ笑いがおさまらないながらも王子はクーを肩に乗せ、私をゆっくりと立ち上がらせた。

「食事の用意が出来ている。一緒に食べよう」

「はい!」

『うん!』

私とクーの声が重なった。


 食事が終わり談話室でお茶を飲んでいると、扉がノックされた。レンゾ様、ミアノ様、パウル様がやって来たという事だった。入って来た三人は私を見た途端、安堵の溜息を吐いた。

「リア、元気になったんだね。よかった……本当によかった」

レンゾ様が私の傍に走り寄ってきて、手をギュッと握った。

「心配かけてしまってごめんなさい。私はもう大丈夫。皆のお陰。ありがとう」

ミアノ様とパウル様も側に来て口々に見舞いの言葉をくれた。パウル様は花束までくれた。

「おまえって気障だったんだな」

ミアノ様が馬鹿にしたようにパウル様に言えば、パウル様は鼻で笑いながらミアノ様を見る。

「少しでもリアの心の慰めになればと思っただけです。他の女性にはしません」

するとミアノ様は私の手を掴み、その場に立たせた。

「?」

訳がわからずなすがままになっていると、私が座っていた場所にミアノ様がドカリと座り膝をポンポンと叩いた。

「なら私はリアの負担を軽減する為に、私の身体を最大限に使ってやる。ほらリア、ここに座れ。移動する時はそのまま抱いてやるから」

やっぱりミアノ様の脳の半分は筋肉で出来ている。そう確信した私の手を引いて座らせようとしたミアノ様。

「アホですね。ミアノの筋肉ばかりの硬い足なんて座り心地がいい訳ないでしょう」

そう言ってミアノ様の腕をバシンと叩くパウル様。二人のやり取りを見ている私の背後から腕が伸びてきて、私のお腹に巻き付くとミアノ様から距離を取った。

「ルド様?」

伸ばされた腕の正体は王子だった。王子の腕に導かれるまま長ソファに座らされる。

「隣には私が行こうっと」

そう言うと、レンゾ様が私の隣に座った。

「あ!何ちゃっかりリアの隣に座っているんです?」

パウル様が抗議の言葉を口にするけれど、レンゾ様は素知らぬフリ。一気に賑やかになった場に思わず笑みを浮かべた時だった。


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