花祭り
花祭りが始まった。花祭りは2日間開催される。街中が色とりどりの花で飾り付けられ、屋台は勿論だし店舗内でも安売りが行われる。そして所々に大きな花籠を持った売子が現れ、花で出来たブレスレットを売るのだ。これは、男性が好きな女性に渡す為の物で、女性の答えがイエスであれば相手の頬にキスをする事になっている。花祭りは別名、恋祭りとも言われているのだ。
今回も雪まつりの時と同じメンバーで楽しむ予定だ。2日間ある祭りだけれど、内容はそんなに変わらないので、2日目に行く事に決めていた。
「凄い人の数だね」
レンゾ様は目をキラキラさせて周りをキョロキョロと見ている。
「なんと言っても恋祭りですからね」
パウル様もなんだか楽しそうだ。
「そう言えば、恋祭りとも言われていたな」
ミアノ様はニヤニヤしながら私を見る。そんな会話をアルノルド王子が黙って聞いていた。
クーは先程から舞い散る花びらに釘付けだ。瞳をキラキラさせながら目の前を舞う花びらに手を伸ばしたり、口に咥えようとしてみたり腕の中で暴れている。そんなクーが何かを思い出したように私に話しかけてきた。
『そうだ。あのね、僕、買いたいものがあるの』
「そうなの?」
『うん。ちょっと行ってくるから、ここで待ってて』
そう言ったクーは、私の返事も待たずに腕の中から飛び出した。仕方がないので皆に事情を話してしばし待つ事にした。暫くして戻ってきたクーは、口に花を咥えているように見えた。
「クー、それは?」
私が問いかけると嬉しそうな顔で咥えている花を見せる。
『リアにプレゼントだよ』
クーは私に飛びつくと、私の左腕に器用に花を付けた。
「これ、花のブレスレットね」
黄色い花をメインにオレンジや白で出来た明るい色合の花のブレスレットだ。なんだかクーみたいと思っていると、得意げにクーが答える。
『ヴィートがね、教えてくれたの。花のブレスレットをリアにあげると喜んで貰えるよって。お金も持たせてくれたんだ』
ちゃんと一人でお買い物が出来た事に、感動してしまう。
「クー、ありがとう。とっても嬉しい」
私はクーの頬にキスをした。嬉しそうに尾を揺らしている姿が可愛らしくて笑ってしまう。帰ったらお兄様にもキスをプレゼントしなくちゃと思っていると、レンゾ様もジャケットのポケットから花のブレスレットを出した。小花で纏められたブレスレットは、クーのくれた物とは違った雰囲気で少し大人っぽかった。
「来る途中で綺麗だったから買ったんだ。意味を知ったのは買ってからだったけど、せっかくだしもらって」
へへと笑いながら、私の左手につけてくれているレンゾ様。彼にこそ似合うのでは?と思ったのは内緒だ。
「ありがとう、レンゾ」
クーにもしたノリでレンゾ様の頬にもキスをした。友情のキスだとお互いにわかっているけれど、少しだけ照れくさくなって二人で笑い合っていると、背後に強烈な視線を感じる。
「レンゾにしたキスはどういう意味だ?」
「お二人は親友だとおっしゃってましたよね?」
ミアノ様とパウル様だった。
「親友にお礼の意味を込めてしたキスですわ」
当然でしょと私が言えば、二人は納得がいかないと駄々をこねる。
「では、仮に私がブレスレットを差し上げた場合はどうなるのですか?」
「それはキスはなし、ですわね」
ミアノ様も同じ質問をしてくるから、同じ返事を返すとズルイと騒ぎ出す。
「キスしてもらう為にはどうしたらいい?」
ミアノ様の問いかけにクエスチョンマークが浮かぶ。それはもう論点がズレているというか、そもそもの意味とは違っているのでは?
「レンゾ殿だけズルいです」
ギャンギャン言っている二人がうるさくて、どうしたものかと思っているとレンゾ様が笑いながら言った。
「今日だけ友情のキスとしてしてあげたら?じゃないとこれ、ずっとうるさいままかもしれないよ」
すると先程までレンゾ様に対して文句を言っていた二人は、途端にレンゾ様を誉めながら賛同する事にシフトチェンジした。そんな二人がなんだか可笑しくなってしまって、私が折れる事にしてあげた。
「では、今日だけ。友情の証として頬にキスして差し上げますわ」
そう言うと、一目散に買いに走った二人。レンゾ様と笑いながら見送っていると、私の横にアルノルド王子が移動してきた。
「実は……私も用意していたんだが。受け取ってくれるか?」
そう言って出してきたのは、薔薇で囲まれたブレスレットだった。
「庭園に咲いていた薔薇で作ったんだ」
照れ気味に言う王子に、驚いた表情になった私。
「まさか、ご自分で?」
「ああ、庭師に聞いて……」
耳を赤くさせながら言う王子に、何故だか私まで照れてしまう。
「それは……あの、ありがとうございます。薔薇のブレスレットなんて初めてです」
薔薇はそれなりに高額な花なので、花祭りで売られているブレスレットにはない。元々が市民たちのお祭りだからだ。それに、手作りのブレスレットを貰うのも初めてだ。王子は「つけても?」と言いながら私の手を取った。その瞬間にふわりと薔薇の香りがした。
「ありがとう、ございます。嬉しいです、とっても」
お礼を言った私は、ごく自然に王子の頬へキスをした。




