夜襲
書籍『断罪されている悪役令嬢と入れ替わって婚約者たちをぶっ飛ばしたら、溺愛が待っていました』の続巻の作成に入っている為、投稿が不定期になってしまっています。
本当に申し訳ありません。
でもちゃんと完結までの目処は立っておりますので楽しんでいただけると嬉しいです。
お茶会の翌日はお父様との約束通り、一日中一緒に過ごした。それはもうベッタリと。お兄様も付き合ってくれて、久々に三人でゆっくり過ごす事が出来た。スピナジーニ母娘は、出かけていたのか朝食から姿を見せず、陽が落ちる少し前になってやっと戻って来た。
翌朝。
「おはようございます、お嬢様」
私を起こすアネリが異様なほど機嫌が良い。
「なにかいい事でもあったの?」
宙に浮いてるのでは?と思う程上機嫌な様子のアネリに寝呆けた目を擦りながら問うと、予想外過ぎた答えに一気に眠気が吹き飛ぶんだ。
「はい。実はですね、夜中に侵入者が現れまして。身体を動かすっていいですよね」
本当に嬉しそうな表情でアネリが答える。
「向こうは4人でやって来まして。まぁ本来ならば、外の警備の者たちで事足りるのですが、どこを目的にやって来たのかを知りたくでですね。そのまま侵入を許したんです。4人はお嬢様の部屋に真っ直ぐやって来ました」
そう言ってニヤリと笑うアネリ。どうしてそんなにいい顔?私が襲われそうになった事が嬉しかったのだろうか?と、怪訝な表情になった私にアネリはニヤリと口の端を上げた。
「やはり、お嬢様がこの本の主人公です」
「は?」
アネリの口から出たセリフに驚き過ぎて朝から素っ頓狂な声が出てしまう。そんな私を見つめながらアネリの言葉は続く。
「本の中でも主人公が襲われかけたのを、覚えておりませんか?」
そういえば……言われてすぐ、本の内容が思い浮かぶ。確かにあった。お茶会の翌日の深夜、主人公の部屋にナイフを持った賊が来るという話が。あの時はお兄様がいち早く気付いて捕らえたと書いてあったはずだ。
「思い出しましたか?シシリー嬢を襲うはずの賊が、真っ直ぐお嬢様の部屋に来たという事は、もうお嬢様が主人公で間違いないでしょう」
話をしながらもしっかり私の着替えを完了させたアネリが、それはそれは楽しそうな瞳を鏡越しに私に向けた。あれ?私起きたところまでしか記憶にないけど?
朝の鍛錬が終わりダイニングルームに行くと、先に席についていたスピナジーニ夫人にギロリと睨まれてしまった。どうやらお茶会の件でまだ私を恨んでいるらしい。実はお茶会の時、お父様に扉の外に連れ出された後お父様から直々に、次になにか問題を起こしたら問答無用で屋敷から追い出すと脅されたそうだ。翌日、三人で過ごしていた時にその話を聞きお兄様は「次なんて言わずにすぐにでも追い出しちゃえばいいのに」と言っていたが、お父様は「もう少し暖かくなったらね」と言って笑っていた。多分、その事で私に逆恨みしているんだと思う。昨日の夜も睨まれたからね。ま、別に夫人に睨まれたところで、痛くも痒くもないけれど。
【花祭りも近くなったある日、屋敷に帰る前にお土産を買おうと、シシリーは街の中を一人で歩いていた。表通りだけを歩いていれば、危ない目に遭うこともない。無事にお土産を買い、馬車を停めている場所まで急いで戻ろうとした時だった。
『何だかずっと視線を感じるなぁ』
あちこちから見られているような気配を感じる。走って戻ろうとしたが、足が止まってしまう。進みたい方向に、明らかに柄の悪い男がニヤニヤしながらシシリーを見ているのだ。
『少し遠回りしよう』
ところが行く先々に、同じような男たちが道を塞ぐように立っている。シシリーは避けて歩くうちに、裏通りに入ってしまっていた。
「シシリー・ディガバルディだな。貴様に恨みはないがボロボロにして欲しいという依頼を受けてな。なあに、命を獲ったりはしない。ただ、少し俺たちにいい思いをさせてくれればいいんだよ」
そう言いながらシシリーに詰め寄って来る男たち。
『どうしよう⁉︎どうしたらいいの⁉︎』
逃げようにも4人の男たちが四方から詰め寄って来ているせいで、どこにも逃げ場がない。シシリーは怯えて身体が震えてしまい、立っているのがやっとの状態。
『誰か!助けて‼︎』
男たちの腕がシシリーに伸びた時。
「そこで何をしている⁉︎」】
朝食が運ばれスープを一口。喉を通った瞬間、急に本の一場面を思い出した。そうだ、お茶会を境に主人公は何度か暴漢や暗殺者に襲われかけるんだ。まあ、その度に誰かしら助けが入るのだが。主人公を襲わせているのは私だ。アルノルド王子の心が完全にシシリーに向いていると気付いた私が、シシリーを痛い目に遭わせようとお金で人を雇うのだ。
『うーん……これは流石にないわよ。そもそもアルノルド王子が、シシリー嬢を好きになったって関係ないし』
心の中でそう呟いた途端、チクリと針が刺さったような痛みを胸に感じる。
『何かしら?ヤダ、なにか病気?』
ところが、痛みを感じたのはそれきり。特に病気である感じでもない。私は首を傾げながらも、しっかり朝食を平らげたのだった。




