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かけがいのない友

 休暇中のある日、レンゾ様から手紙が届いた。雪祭りを一緒に楽しもうと言う話になっていたから、その詳細かと思ったら違った。最初の一文はこうだった。

〔お祭りの前にせっかく雪が舞って綺麗だし、少し街を歩かない?〕


自国では雪は降らないと言っていたレンゾ様。文面だけでワクワクしている彼の姿が窺える。

「ふふ、こんなに楽しそうなんだもの。断ったりしちゃ駄目よね」

私は返事を使いの者に持たせると、早速出掛ける準備を始めた。



 待ち合わせ場所である大きな時計台の前へ到着すると、既にレンゾ様が待っていた。

「ミケーリア嬢。こっちこっち」

黒いミディアム丈のコートに、髪の色とよく似た若草色のマフラーを巻いている。ぱっと見、性別がどちらなのかわからない程可愛らしかった。

「お待たせ、レンゾ様」

「全然待ってないよ。雪が舞っているのを見てるだけで楽しかった」

そう言って微笑んだ姿を見た周囲の人たちが、男女関係なくふらっとしていた。レンゾ様の魅力、恐るべしである。

「あ、それと」

思い出したように、小声で私の耳元へ顔を寄せる。

「今日の私たちは貴族ではないのだから、様付けで呼んだらダメだよ」

「ああ、そうでしたわね。では、レンゾ」

私が呼ぶと、嬉しそうに笑みを浮かべる。

「じゃあ、行こうか。リア」

愛称で呼んでいいとは許した覚えがないけれど。まあ彼ならいいかと受け入れる事にした。


街は雪祭りの準備が始まっていて賑わっていた。雪像があちらこちらで作られている。雪像に使うのだろう。小さな雪山がそこかしこにあった。

「うわぁ、凄いね。こんなにたくさんの雪。一体どこから持って来るんだろう」

レンゾ様の目が、幼い子供のようにキラキラしている。

「あれは向こうに見える山から持ってきているの」

街中に降る雪だけでは流石に足りないので、数日前に魔術師団の面々が魔法で雪を運んだのだ。


「凄いなあ、完成したら素晴らしいのだろうね」

「そうね。夜にはライトアップされてとても幻想的になるわ」

「来週が楽しみだ」

「ふふ、そうね」


それからもあちこちと見て回った。

「はあぁ、雪は綺麗だけどやっぱり寒いね」

結構歩き回った私たちは、すっかり身体が冷えたのでカフェに入った。二人でホットチョコレートを飲む。


「寒いのは辛いけれどやっぱり綺麗だし、冷えた後のこのホットチョコは堪らない至福だね」

コートを脱いだレンゾ様は真っ白のふわふわのセーターを着ている。そんなレンゾ様が両手でカップを持つ様は、その辺の女性のそれよりも可愛らしい。

「楽しんでいただけたようで、良かった」

暫く無言でチョコを飲みながら、二人で窓から舞うように降っている雪を眺める。


「……雪ってさ、何だかリアのようだよね」

「え?」

唐突なレンゾ様の言葉に、思わずキョトンとしてしまう。そんな私の表情に笑いながらレンゾ様が続けた。

「雪ってさ、真っ白で儚げで、手に落ちるとあっという間に溶けて消えてしまうよね。なのに、あんな大きな雪像にまでなってしまうんだ。儚げに見えるのに強い。ね、リアみたいじゃない?」

「ええっと。ありがとうございます、でいいのかしら?」

私の答えにハハっと笑うレンゾ様。


「本当はさ、初めてリアを見た時からいいなって思っていたんだ。ダンドロッソにはいない、白く儚く繊細な美しさを持つリアをいいなって。でも見た目に反して強い姿を見る度に、私には勿体無い高嶺の花なのだと思ってしまったんだよね。それに、どうやら強力なライバルが何人もいるみたいだしね。だったら友人の中で1番を獲得しようって考えを改めたんだ」

「レンゾ……」

切なげな笑みを浮かべて話すレンゾ様を見て、胸の辺りがキュウっと苦しくなる。



【「シシリーはまるで雪のようだね」

雪が降ったからと嬉しそうに笑うレンゾと共に、街を散策していると不意にそう言われたシシリー。

「私が?」

「そうだよ。雪のようにふわふわして可愛らしい」

「そんな……」

愛おしそうな表情でシシリーを見つめるレンゾの青い瞳がキラキラと輝いて見える。

「出来ればシシリーをダンドロッソに連れて行ってしまいたいよ。私だけの雪になって欲しい」

雪が全て溶けてしまうのでは?と思える程の熱い視線を向けられたシシリーは、頬が熱くなっている事に気付きながらも彼の目から逃れられず見つめ合う。

「私も……レンゾ様が生まれ育った国を見てみたい」】



『そう言った癖にシシリーは結局行かないのよ』

私は本の一文を思い出しながら、彼の言葉に対する返答を考える。


「レンゾは……レンゾは私の最初の友人で、最高の友人よ。それはこの先もずっと変わる事のない事実だわ」

いい加減な答えは言えない。これが私の本当の気持ちだった。私の言葉に、レンゾ様の青い瞳が大きく見開かれた。


そして、今まで見た中で一番の美しい笑みを見せた。

「本当?それって……最高の言葉だよ。ありがとう、リア」

私たちは微笑み合いながら、少し冷めたホットチョコレートを飲んだのだった。


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