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四人目

 私が視界の端に銀色の光を捉えたのと、誰かが叫んだのは同時だった。

「危ない!」

声を発した誰かが、こちらに向かって走って来る。


しかぁし。ここで守ってもらう程、私は弱くはない。構えていた剣を右上から左下へ振り抜き飛んで来た銀色の光を弾く。弾かれた銀色の光はキーンという鋭い音の後、ザクッと地面に突き刺さる音をさせた。

「ケガは……していなさそうだな」

銀色の光の正体である、誰かの手からすっぱ抜けたであろう剣を振り払った私の元に駆けつけて来たのは、赤い髪の男、ミアノ・プロスベーラ様だった。

『なんでこうなったかな?やっぱあれか、シシリー嬢が端にいなかったせいか?』

またもや本の展開と異なる事態に、内心汗をかきまくりながらも涼しい笑みを作る。

「ご心配頂いたようですが、あのくらいの事なんともありません」

私の返事に一瞬瞠目した彼が、ニヤリとした笑みを見せた。

「どうやら要らぬ心配だったようだ。私はミアノ・プロスベーラ。君の噂は聞いている。良かったら私と一戦交えないか?」

「ミケーリア・ティガバルディです。よろしいのかしら?第一王子の護衛を担っている方を負かしてしまって」

こちらもニヤリとした笑みを返す。何が楽しかったのか快活に笑った彼は「是非」と言って早速剣を構えた。


「では、私が審判をいたしましょう」

ニッコリと笑みを深くしてやって来たのはパウル様だった。またもや冷たい雰囲気が見当たらない。さっきまではあった気がしたんだけどなぁ。

「ミケーリア嬢、頑張ってください」

パウル様は何とも言えない色気を醸し出しながら、私に言葉を掛けて微笑みかけて来た。

「パウル。いつの間に彼女と交流を?まあいい。ジャッジはフェアに頼むぞ」

苦笑いをしながらミアノ様が言うと、パウル様は「勿論」と答えていた。


「ミケーリア嬢、頑張って」

会話を聞きつけたのか、やって来たレンゾ様が私を応援してくれた。

「ええ、頑張るわ」

そんな彼にニコリと笑みを返してから、ミアノ様に向き合う。互いに一礼して剣を構えた。私の心臓は今、とってもドキドキしている。

『いきなり強者との対決とか。ああ、たまらない』


「始め!」

パウル様の声に、私とミアノ様が同時に動いた。


『意外に速い』

力が強いイコール動きが遅いというタイプではなさそうだ。しかも、しっかり剣の一振りは重い。嫌なタイプだ。それでも、純粋なスピードは私の方が上だ。

『それなのに』

中々懐に入り込む隙が無い。リーチを考えると、今の位置では私は分が悪い。

「どうした?防戦一方になっているぞ」

私の攻撃が届かない位置から連撃してくるミアノ様。更に動きが速くなっている気すらする。でも、そこが私の狙い目だった。動きは速くても、剣を振る時のスピードは全く変わらない。一振りが重い分、次の振りまでに小さなタイムラグが生じるのだ。

「そこ!」

その瞬間を私は見逃さなかった。ガキーンと凄まじい金属同士のぶつかり合う音がした。

『よし』

そう思った私の手には剣がなかった。

「あら?」


「両者、引き分け!」

パウル様の声が響いた。

「引き分け?」

ミアノ様を見ると、彼も剣を持っていなかった。ポケっとする私を余所に、会場内が疾風怒濤に湧き上がった。

「ははは、お見事だった」

楽しそうに笑うミアノ様が、私の目の前まで近寄って来た。

「攻撃と攻撃の間を突いてくるとはな。噂には聞いていたが、本当にミケーリア嬢は強いんだな」

そう言って私に手を差し出した。

「悔しいですわ。完璧に剣を弾いたと思ったのに」

確かに私はミアノ様の剣を弾いた。しかし、彼の握力が化け物だったようで、彼の剣を持つ力に耐えきれず、私の剣も飛んでしまったのだ。差し出された手が、握手を求めているのだと理解した私は、自身の手を差し出した。そこで初めて違和感に気付く。


「手が……」

差し出した私の手が、フルフルと震えていたのだ。そう言えば痺れたような感覚がする。彼の重い剣を受けたせいで、手に力が入らなくなったようだ。

「すまない。つい本気でやってしまった」

うまく力の入らない手をそっと掬い取った彼の親指が、震えを確かめるように私の手の甲を撫でた。

「謝らないで下さい。とても楽しかったのですから。これからも本気で来て欲しいですわ」

私の言葉が意外だったのか、驚いた表情で私を見つめるミアノ様は、取った手を自身の顔まで持ち上げた。そしてそのまま、手の甲にキスを落とした。突然の事に呆気に取られた私に、ミアノ様はニッと笑いかけた。


一連の出来事に先程の太い声の歓声から一転、今度は鼓膜を破くほどの悲鳴が会場内に轟いた。


何?この展開。いやもうマジ、誰か、助けて。


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