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王国を追放されましたが、今が一番幸せです〜婚約破棄された【無能】公爵令嬢は、隣国の辺境伯の元で才能を開く〜  作者: 雨野 雫


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27.破滅の足音


 一方その頃、ランドル王国では。


「クソッ! アストリアはまだ捕らえられんのか!!」


 王城の執務室で、ランドル国王は頭を抱えていた。王国内でついに大瘴気が発生してしまったのだ。


 さらに運の悪いことに、発生場所がよりにもよって「北の大森林」だった。


 北の大森林は、北の隣国との主要な貿易ルートであるため、人の往来が多い。そして、大森林の近くには、レインというこの国で二番目に大きい都市があった。


 臣下の報告によると、貿易ルートを通った商人は揃って瘴気にやられ、病に伏しているそうだ。さらに大森林には、ドラゴンやケルベロスなどの強力な魔物が集結、凶暴化し、既に多数の被害が出ているらしい。


 これでは商人の安全が保障できないと、北の隣国からは早急な瘴気の浄化を要求されている。貿易による利益はこの国の主要な資金源のひとつなので、かなり深刻な問題だ。


 今回発生した瘴気が「大瘴気」だとわかったのは、被害状況が通常の瘴気とは比べ物にならないからである。


 大森林を通った者のみならず、少し離れたレインの住民にも病が広がりつつあるそうだ。そういったことは、普通の瘴気では起こり得ない。


 そのため、住民たちは揃って不安の声を上げ、国に早急な浄化を要求しているのだ。


「一体いつになったらアストリアを捕らえられるのだ!!」


 怒鳴る国王に、宰相が恐る恐る言葉を返す。


「アストリア様は、普段はベルンシュタイン領にいらっしゃるのでなかなか機会がなく……。しかし、大瘴気が発生してしまったなら、フレーベル帝国に大瘴気の浄化を要請すればよいのでは?」


「そんな借りを作るようなこと出来るか!!」


 国王が執務机をドンと叩くと、宰相はいつものようにビクリと肩を跳ね上げた。

 

 フレーベル帝国とは敵対関係にはないが、特別友好的というわけでもない。ここで大きな貸しを作って、後々無理難題を吹っ掛けられでもしたら困るのだ。


 国の規模では圧倒的にフレーベル帝国の方が上であるため、強気に出るわけにもいかない。


「ひとまず、一時しのぎでシェリルを向かわせろ!」


「しかし、普通の光の巫女では大瘴気の浄化はできませんよ?」


「そんなことわかっておるわ! だが何も対応しなければ、国民が黙っておらんだろう!」


 光の巫女を派遣せず静観すれば、そのうち暴動が起きる。そうならないために、アストリアを連れ帰るまでは対処しているフリをしておけばよいのだ。


 宰相は何か言いたそうにしていたが、反論しても無駄だと思ったのか、シェリルを大瘴気の元へ派遣させる方向で話を進めた。


「では、シェリル様の護衛はいかがいたしましょうか。大瘴気とあらば、耐性のない者が近づけばすぐに倒れてしまうでしょう。かといって、大瘴気から身を守れるほどの結界を張れる魔法使いは、我が国には……」


「騎士団や魔法師団の人間を犠牲にするわけにはいかん。一人で行かせろ」


「一人でですか!? いくら何でもそれは……」


「アストリアもずっと護衛なしでやっていたではないか。シェリルも自分の身くらい自分で守れるだろう」


 国王はそう言ったが、宰相はまたもや何か言いたそうな表情をしていた。


 しかし、ここで宰相が国王に進言することはなかった。自らの保身のためだ。


 ランドル王国は王家による独裁色が強く、国王の機嫌を損ねた臣下たちは(ことごと)く退任させられていた。国王に長年仕えている宰相は、機嫌を損ねない塩梅や引き際をよくわかっているのだ。


「アストリアさえ手に入れば、あんな頭の悪い娘、もはや不要だ」


 国王はニヤリと笑う。


 実を言うと、国王がシェリルを大瘴気に向かわせることにしたのは、彼女を都合よく始末するためでもあった。


 ここ一ヶ月ほどで、シェリルが愚か者だということはよくわかった。


 他の男への気移りがひどい上に、自分の行動が国にどういう影響を及ぼすか考えられない。そんな女が、次期王妃に相応しいはずがない。


 国王はアストリアを取り戻したら、すぐに息子のジェフリーと結婚させるつもりでいた。


 しかし、ジェフリーの生誕祭で大々的にシェリルとの婚約を発表してしまった手前、再びアストリアと婚約を結び直すのは少々体裁が悪い。そのため、シェリルには()()()()()消えてもらおうというわけだ。


「とにかく、シェリルを北の大森林に向かわせろ。嫌がるようなら『ベルンシュタイン領に無断で立ち入り不興を買った責任を取れ』とでも言っておけ」


「はい、国王様」


 今回の国王の命令も、宰相がそれに対し進言しなかったことも、後々にランドル王国の首を締めることになる。


 だがこの時点では、国王も宰相も、この国の誰しもが、破滅への道を歩んでいることに気づいていなかった。


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