四十六話 TS逆行転生者は妹を護りたい
『龍眼』───龍雲寺天子の持つ、《未来を視る》力。
その力はコントロールが難しく、望んだ未来を見ようとしてもうまくいかないことが多い。
だが、天子はその力をできる限り有効に活用し、同じ能力者の仲間や警察と協力して犯罪を未然に防いだり、新たに生まれた能力者がその力を悪用しないように働きかけたりしている。
それらは全て、《変革の時》と呼ばれる『悲劇』を回避する未来に繋がっている……直接関係のない事柄でも、自分達の仲間の『実戦経験』として役立つ。
変革の時───それが起きれば、天子はおそらくそこで死ぬし、彼女だけではないもっと大勢のものが死ぬ。
周防真守からもたらされた情報……人を能力者に目覚めさせる『血の雨』。それは適応できなかった人間を死に至らしめ、適応し能力に目覚めた者も錯乱し周囲に害を及ぼす……毒だ。
というわけで、《変革の時》を止めるために《対魔》を結成し活動している天子だが、深夜に目覚めた彼女は汗びっしょりでつい先程視た未来について考える。
「……これは、どうすれば」
ボソリと、つい口に出してしまう。
こんなにはっきりと、未来が視えることはめずらしい。だが問題は───
「すこし、集中しすぎでは……」
これから起きるいくつかの『事件』。それらの発生時間だ。密集している。一体、どう対応していけば良いのか。天子はその後寝ずに悩むことになった。
*
札木という男の情報は、警察や正弦がいくら調査しても一向に掴めず、能力者サトウの能力などを駆使して意図的に消したのではないか、という結論に至っていた。
しかし正弦は、札木と旧知の仲であったと思われる亡き岸村教授の研究室や自宅を捜索し続ける日々の中で、ついにその手がかりを掴んだ。
それはある日、岸村の自宅を訪ねた際に彼の妻から受け取ったものだ。彼の妻は夫を凄惨な事件で失い、きっと心に余裕もないだろうにずっと正弦の調査を手伝ってくれていたのだが、それは彼女が家の中で見つけたものではなく偶然郵便ポストに入っていたらしいものだった。
それとは、岸村の古い友人からの手紙だ。
海外から届いたそれは手紙の主が近々日本に帰る予定だというもので、岸村の妻はその手紙に対して主人はもう亡くなっていると返信しようと考えている───という話を聞いて、正弦は一つ文章を付け足して貰った。
『フタキという男を知っているか?』
その答えは、一カ月も後に帰ってきた。
内容は、突然の訃報に驚いており焼香をあげに行きたい旨と……札木というのが、かつての同期の彼のことを言っているのならば、知っている……そんな言葉が綴られていた。
添付されていた古い写真には、若い岸村と何人かの若者……その中に、正弦が見た『札木』に似た男の姿があった。
「紅子さん、札木という男について手掛かりが手に入りそうです。そこで相談なのですが───」
正弦は、このことを周防真守には伝えなかった。嫌な予感がしたからだ。
その予感は当たることになるし、結果的に伝えなくてよかったとも考えた。
「さて……リベンジ、といったところか」
陸から海を隔てた空港と、外を繋ぐ唯一とも言える橋。そこを走っていた正弦を乗せた車は、突如として現れた『赤い柱』と、大きな爆発によって陸地と分断された。
その際に周囲の車も巻き込まれ、周囲は地獄の様相だ。塔のように海の上に立つ連絡橋の残骸の上で、正弦は車から出て刀を手に不敵に笑った。
「ちょ! ちょ! なになに!? 日本ってこんなに治安悪かったっけ!?」
車の中から、男の騒ぐ声が聞こえてきて正弦は嘆息する。彼は宜保、上で述べた札木のことを知る者だ。
「大観さん、大吾郎さん、宜保さんをしっかり守ってくださいよ」
「おいおい……まさか、一人でやる気かよ。ってか、先生……こいつがあんたの腕とったやつかぁ?」
空から、そんな声とまるで散歩するように気軽な雰囲気でゆっくりと何人かの人間が降りてくる。人は空を飛べない。なのに宙に浮き、まるで風船が地面に落ちるようにふんわりと彼らは地面に着地した。
左手のない、初老の男。周防真守よりも幼く見える子供、ライダースーツとダメージジーンズを履いた柄の悪い顔つきの男。
そして、彼らとはまるで纏う空気の違う異質な……真っ黒な服に身を包んだ、黒髪の少女。
「ああ、そうだよ。だから、荒波くん。君も気をつけたほうがいい、彼をただの無能力だと侮ってはいけない」
「ん〜後ろのおっさんは、陶芸師の───ってことは、あの刀は能力を消すやつね」
正弦に続き、車から出てきた大吾郎を見て荒波はニヤリと口角を上げて首を回した。漲る殺意に大吾郎はごくりと息を呑むが、正弦はというといつも通りの自然体だ。
「なんでもいいよ。今度は……殺す」
そう言った少年の首筋から赤い触手のようなものが這い出て槍の形を成す。『棘の能力者』の少年だ。幼い身ながらも、人を殺すことに躊躇いのない目付き。
正弦は棘の能力者はその目で見ているし、荒波についてはいろんな人から話を聞いている。実際に対峙してみて、『空気』の能力を攻略できるかは未知数だが……そんなことよりも、彼は黒い少女が気になっていた。
(なんだ……あのガキは、真守と同じくらいか……しかし)
いくら考えても答えには辿りつかないが、最も恐ろしいなにかを感じるのはあの少女だ。しかし今それを考えても仕方がないと正弦は頭を切り替える。
札木が能力者かどうかはわからない。そもそも荒波と棘の能力の二人を正弦が相手取るだけでも、状況はかなり厳しく見えた。
バコォォン!
突然、甲高い音が周囲に響き渡ったかと思えば、正弦たちの乗っていたセダンタイプの車のトランクの扉が宙を舞っていた。その中心は何かがぶつかったように大きく歪んでおり、数秒空を飛んで地面にぶつかり大きな音を立てる。
「お、俺の車……」
大観の哀しげな呟きを、誰も聞いてはいない。トランクからヌッと這い出てきた者の姿を見て、その場にいるもので特に荒波が顔色を変えた。
中学校の制服を着た女だ。
同年代の女子……いや、大人の男顔負けの体格の少女が、険しい顔付きで正弦の横に立つ。
「真守の、姉か」
「す、周防、潔ィィ!」
短く正弦が反応し、それとは対照的に歓喜に震えるように荒波が吠えた。しかし潔は一瞥もせず、鋭く息を吐き……構える。
「潔さん、何故ここに」
ここで初めて、黒い少女が声を出した。大きな声ではないのに、まるで空気を貫くように正弦と潔の元へ届く。
潔は、身に覚えのない少女に名前を呼ばれて首を傾げた。
「誰? あなた」
「……札木さん、少し離れて彼らに連絡しましょう。『そちらに周防潔はいない』と」
黒い少女の言葉に、ぴくりと潔は眉を顰めた。
「どうやら、ここでチンタラしている暇はなさそうだぞ、潔」
「真守ちゃんの知り合いだからって、馴れ馴れしくないですか?」
正弦は刀を構え、潔も拳を構える。
荒波も空気を操り始め、棘の能力者は『棘』を構えた。
《ネクスト》でも屈指の戦闘能力を持つ二人と、周防真守の近くに居て最も強い能力を持つ周防潔に、無能力ながら能力者と戦える雨宮正弦。
突如として、彼らの戦いの火蓋は切られた。
*
朝。
近所の中学校に通う生徒達が通学の為に多く使っている道。そこに向かって鼻歌混じりに歩く男がいた。
髪を銀に染め、顔をいつも気に入って使っているものに戻している。陽気そうに歩く彼だが、ズキリと不意に頭が痛んで額を抑えた。
つい先日周防真守に受けた傷は脳にまでダメージを与えており、陶芸師の能力はあらゆる物理的損傷を治癒できるが、繊細な脳を弄るのはリスクが高いと判断した為なるべく触れないようにした。
その結果偏頭痛のような症状がいまだに時折現れる。しかし陶芸師は周防真守を憎むようなこともなく、どこか楽しげであった。
だがそれはそれとしてやはりやり返さなければ、そう思い彼は彼女と同じ中学校の生徒を人質に取ろうと考えていた。
とりあえず通学路を歩く子に目を付けて、適当にあの子でいいやと手を伸ばそうとして……何かにぶつかった。
「これは───!」
「room"1"」
それは、不可視の壁だ。
彼はこの能力を、荒波達から聞いて知っている。陶芸師は直接それに触れて能力を行使しようとした。感触としては……力を強く込めれば破壊、可能だ。
しかし、その不可視の壁はすぐに消えてしまった。何故だろう? そう考えたのも束の間、突然眼前に現れた銃を構えた女に、陶芸師はギョッとしつつも諸手を挙げる。
「陶芸師、分かるな……? いつでも、撃てる。撃つぞ私は」
「……何が目的かな?」
一体、どこから?
陶芸師は完全に油断していた。この瞬間、殺そうと思えば殺せたはず。だがそうしなかったのは女は警察官で、近くには一般人が多くいるからか。
銃弾が陶芸師の身体を貫通して、周囲に危害を与える可能性はゼロではない。それに警察官の女が、簡単に人を殺せるとも思えない。
「場所を変えるぞ」
「……いいよ」
そうして、周囲がかなり開けた場所に出た警察官の女……紅子と陶芸師。紅子は依然、陶芸師の頭部に銃を構えたままで、周囲に人がいないことを確認して───引き金を引こうとした。
パリィィン!
直後に何かが割れる音が響き、弾かれた拳銃は宙を舞う。発生した衝撃波が紅子と陶芸師の髪を揺らす。陶芸師は、紅子が銃を弾かれた衝撃で仰け反ったその隙を狙い手を天に向けて伸ばす。
「───ッ!?」
その行動に、一番驚いたのは陶芸師自身だった。確実に紅子に向けて手を伸ばしたのに、そのまま何故か空へ向けて腕が動いたのだ。
紅子は、陶芸師の腹を思い切り蹴飛ばして自分もその勢いで後ろに下がる。すると、先程まで二人が立っていたあたりの地面が突然弾けるように吹き飛んだ。
「チッ、ポッターてめぇぇ、なにへまってんだよ」
「ってぇ〜、違うって。多分、人の体を動かすような能力者が近くにいるって」
腹をさする陶芸師の元へ苛立ちを隠さず歩いてきたのは、『斥力』の能力者である兎城だ。
兎城はすぐに弱い斥力を周囲に放ち、感覚を研ぎ澄ます。
「……いるな。目には見えないが、何人か」
紅子があの場ですぐに発砲せず場所を移動したのは、陶芸師の予想した通り紅子の銃弾が周囲へ危害を及ぼす可能性を考慮して、というのもあるが一番大きい理由が兎城の存在だった。
陶芸師の近くに潜んでいる兎城が、発砲を防ぐ為に能力を行使すれば確実に大きな被害が出る。だからこそ、相手に様子見させながら場所を変える必要があった。
「兎城くぅんがいるなら、まぁなんとかなるかなぁ……あの警察官のお姉さんは真守ちゃん虐めるのに使うからさ、殺すなよ」
「ほんっと情けねぇよなお前。知ったこっちゃねぇから自分でなんとかしろ」
紅子は、深く息を吐く。
陶芸師は言わずもがな、兎城の方もまだ子供だが……平気で人を殺せる人間だと思って、行動した方がいいだろう。能力の強さは言うまでもない。
「紅子さん、周囲に陶芸師と兎城以外に能力者はいないそうです」
「そうか、ならあいつらに集中すればいいわけだ」
耳元で『見えざる行進』によって姿を消した透が囁いてくる。更に彼の近くには不動と間壁……そして、『龍眼』の天子も、透の能力によって姿を消して控えている。
放っておけば、身勝手な理由で周囲の人を傷つける行為に走る二人を前に、紅子と《対魔》の面々は戦うことを決意してここに立つ。
*
「おはよー」
目覚めて、階段を降りてまず歯磨きと洗顔、保湿を済ませた岬花苗はリビングに顔を出しながら、朝食を用意してくれている母親にそう挨拶した。
「おはよう花苗」
ニコリと、朝から快活な笑顔を向けてくる母のはるかに花苗も笑顔を返す。食卓に座ろうとして、ふと背後に母が立つ気配を感じて花苗は振り返ろうとするが───突如、母に口を手で塞がれる。
「むぐっ?」
疑問に思うと同時、母の手からぬるりと粘度の高い液体が分泌される。歯を掻き分けるように指を突っ込まれ、その粘液を強制的に摂取させられた花苗は、すぐにそれを吐き出そうとするが……間に合わず、ガクガクと足が震えて立っていられず床に崩れ落ちてしまう。
「な、何を……っ!?」
「花苗、これはあなたのためなの……えぇっと、何故だったかしら?」
突然の凶行。そもそも、一体何が起きたのか、母は手元に何かを隠し持っていた? 花苗は言うことの聞かない身体、溢れ出す冷や汗に朦朧とする意識で思考する。
いまいち、自分でも何故こうしたのか分かっていなさそうな母の姿に、花苗は何度か聞いたことのある能力者のことを思い出す。
「あれ、もうやっちゃってた。さてさて、娘さんの方にも───」
トイレの流れる音。勝手に拝借していたのか、トイレを出て手を洗ってからリビングに顔を出した一人の男。
花苗は体が動かず声しか聞けていないが、その男がおそらく『催眠』の能力者サトウであると当たりをつけた。
サトウは、何かしらの目的で母に能力をかけて自分を襲わせた。だが、即死級の毒を飲ませなかったあたりは、用意できなかったというより花苗にもサトウの能力をかけて操るため……という推察の方が当たっているだろう。
なので、花苗はとりあえず無防備に近付いてきたサトウの足に針を刺した。『致死性の毒』の生成は中々扱いが難しいので、いっそのこと外傷を与えてやろうと『酸性の液体』を体内に注入してあげた。
「──!? ぎゃあっ! な、なんだ!? な、何をしたッ!?」
突然の激痛にその場を飛び退くサトウ。足の痛みで情けなく尻餅をつくサトウを、普通に立ち上がった花苗は冷たく見下ろす。
キッ、と。サトウは強く母のはるかを睨む。するとはるかにかけられた催眠は強化され、両手から更に粘液を分泌させて花苗に抱きつくように襲いかかる。
しかし、それをするりと避けて花苗は顎に手を置いて何かを考えている。その視線の先は、何も持っていない母の手元だ。汗のように湧き出す粘液をジッと見て、不思議そうに首を傾げる。
「驚いたな、お母さんも……そうだったんだ」
「な、何故……動ける……? あ、あんた確実に毒を飲ませたのか!?」
「え? ええ……そのはず……ですけど……大の大人でもすぐに動けなくなるはず……」
催眠状態でありながらも自分の娘に毒を飲ませる状況に違和感を感じているのか、はるかは苦しそうに眉を顰めながら、しかし自らの能力を確実に摂取させたはずの相手が特に支障なく平然と立っている姿に驚きを隠せない。
サトウは、痛む足のせいで集中が切れないように自分に対して能力を使う。痛みを完全に消すことは難しいが、痛みに強い人間になれるよう意識野に能力をかけた。
「というより、なんだ、その指は……まさか君も、能力者だったのか!?」
「ああ、知らなかったんですか」
針のように伸びた指、それを顔の前で遊ばせながら、花苗は余裕の笑みを浮かべる。何故ならしばらく様子を見ていたが、サトウ以外他に別の能力者が現れる様子はない。
更に自分と同じ『タイプ』の能力者だと思われる母の……能力の、大体の性能が分かったからだ。
「私に、毒や薬の類は効きませんよ」
このサトウという能力者。殺すのは惜しいが……話を聞く限り凶悪にすぎる。その能力が自分にあれば、どれほどの真守ちゃんで遊べただろうとため息をつく。
まぁ、既にもう片足は二度と使い物にならないだろうけど。体内で『毒』を生成しながら花苗は口角を上げる。
とりあえず、もう片足を奪うか。
母の能力も自分と同じように注入した毒を解毒できる可能性があるため、確実に人体を物理的に破壊できる毒を刺す。
「花苗ちゃん、サトウさんは私達の味方よ。少し話を聞いて」
「お母さん……面白いな、こんな怪しいおじさんのこと本気で味方だと思えるんだ……催眠おじさんかぁ……エロ方面で真守ちゃんにかけてたら様子見しちゃってたかも……」
苦しそうな顔をしている母の嘆願にも似た言葉に、しかしどこかよそ見しがちな花苗。その余裕ぶりに、サトウはどこか不気味なものを感じた。
(だが、少しでも能力をかけてしまえばこちらのものだ)
(さて、とはいえ催眠おじさんの能力に少しでもかかればお終いか……)
二人とも、考えることは同じだ。
決して派手なものではないが、決着は一瞬だろう。その確信が二人にはあった。
*
「くそっ……陶芸師と兎城のやつ勝手なことを……っ」
ぶつぶつと、何事かを呟きながら苛々とした様子で何処かへ向かって急いでいる『辰蔵光』の姿を見つけて、俺は彼女の進路を妨害するように目の前に立った。
彼女と、九条祥華はかつて同じ小学校の同級生だったらしい。サチカから伝え聞いた光の様子は……俺の知る辰蔵光とはまるで別人のようだった。
しかし今目の前に立って、俺を見つけて……少し目を泳がせる姿にも、すぐに気を取り直してこちらを見る姿にも、どこか懐かしさを覚える……。
「真守──ッ」
「真守だよ、今は……。とっくに知ってるんだろ? 光」
心は落ち着いていた。
文字通り旧友と話すときのような、自然と微笑んでしまうような気持ちで話せていた。
「記憶が、あるんだな? 私と同じ、これは、お前の能力か?」
「……そうだ。ちなみに性別が変わっていることについては、ややこしいのでできれば聞かないでほしい」
……? まぁいいか。
「お前の能力は、《保存》だな? 『前回』、潔を殺したのもお前の能力だろ」
「……怒っているのか?」
兄の時に、俺が散々潔を殺した能力者を探していたことを知っているはずだ。
なのにわざわざそう聞いてくるのは、今……目の前に立つ俺から、さほど怒りを感じないからだろう。そしてそれは正しい。
「真守になって、いろんな戦いがあった。その中で潔が能力者だったことも知った……光は、知っていたのか? 潔は、『前回』も能力者だったんだろ?」
「そうだよ、彼女は……同じ、能力を持っていた」
俺も、ほぼ確信していたことだ。
何故潔は、《変革の時》よりも前にあんなことになったのか。そして天子の存在を知り、変革以前に戦っていた《対魔》と、潔との繋がりも知った。
「潔は、《ネクスト》と戦っていたんだろ? でも、あの能力があって……あいつを簡単に殺せるとは思えない」
俺は色々と考えて、至った結論を光に疑問としてぶつける。
「死んでなかったんだろ?」
光は目を見開き、少し感心したような顔をした。でもどこか、悲しげに目を伏せる。
「……聞きたいのは、そんなことじゃないでしょ」
その通りだ。
俺から、光に聞きたいことはただ一つ。
「お前は、光は私の敵か……?」
俺の言葉を、一度飲み込んで光は強くこちらを見る。その目を見て俺はまた懐かしく思うも、心の中に悲しい気持ちが僅かに浮く。でも、覚悟していたことだ。
「敵だよ」
短く、そう返してきた。
「《変革》は起こすのか? 人が大勢死ぬ、《ネクスト》が殺す。それでも、お前は、そちらにつくのか」
「そうだよ。いっぱい人を殺す、いや───殺してきた」
《ネクスト》と共にいるということは、つまりそういうことだ。俺はため息を吐いて、頭を抱えたくなりそうなところをなんとか抑え、平静を装って言葉を紡ぐ。
「バカだよ、お前は。どうして」
「真守、いや真守……お前と一緒だよ」
一緒。その言葉に、俺は首を傾げた。
どこか諦めのような、自嘲するような笑みを浮かべた光。彼が……彼女は、《ネクスト》と共にいれるような人間じゃない。俺はずっとそう思っている。
あの頃の、ただ怒りの矛先が分からず闇雲に他人にぶつける俺を、不必要に命を奪っていた俺すら止めた……兄の時に知った彼の姿を、俺は嘘だと思えない。
それなのに、光はその選択をした。例え、自身が苦しむことになろうとも。その道を選んだのだ。
「私は……俺は、妹を護るんだ。そう、決めたから」
泣きそうな顔で、光はそう言った。
俺は一度瞠目し、小さく頷いた。




