三十五話 棘の能力者
「あの時は驚いた。お前達から聞いていたが、実際にこの目で見るまで能力者という存在を舐めていた、と言わざるを得ない」
修学旅行を終えて、正弦の父である源三に連絡を取ると同時に紅子にも連絡をする。
そして、やはり嫌な予感が当たったというべきか……京都の旅館で朝に見たニュースは、あの日出会った正弦を含む大学生グループが被害者となった能力者犯罪だったらしい。
死傷者も出たその事件の生存者が入院しているという病院を訪ね、病室の中で正弦のどこか感心している様な雰囲気も感じさせる淡々とした語りを俺は聞かされていた。
「俺は頭が良いとは言わないが、しかし能力者の力がこの世界を支配する物理法則からかけ離れた現象を起こすという事は、理解できた。ふん……真守、お前は今まであんな奴らと戦っていたらしいな、何故早く俺と出会わなかった?」
「いや……知りませんよ……」
なんでこの人はどこかウキウキとした口調なんだろう。俺は上機嫌な正弦に、この人ほんと頭おかしいのかなぁ? とうっかり呟きそうになるのを我慢する。
「能力者は危険ですよ。簡単に命を落とします。そしてこれからその戦いは激化……多分、していきます。正弦さん、貴方は能力者を舐めてます」
「だからそう言っただろ? だがもう修正した」
トントン、と。正弦は得意気な顔で自身の頭を指で小突く。
「次は不覚を取らん」
ニヤリと、いつも仏頂面を貼り付けている正弦の感情のこもった不敵なニヤケ面に、顔が整ってるから様になっていてこういうの好きな女多そうだなぁ〜と呑気なことを考える。
とりあえず、俺は正弦から目を横に逸らし病室のベッドで腰から起き上がって……茫然自失といった様子で虚空を見つめる女性を見た。
「まだ、話は出来ない様ですね」
その時何があったのかを聞くのなら正弦が居るので、事情を聞けなくて落胆する様な気持ちは一切ないが……だからこそ友人の死を間近に見て心を閉ざす彼女の姿は痛々しく、その心境を想像するだけで俺の胸まで痛くなりそうだった。
「……あぁ。あの『棘の能力者』は、少々視覚的に、な。若い女には刺激が強すぎただろう」
確かお前同い年だよな。と内心思いながらも、何やら責任を感じていそうな珍しい深刻顔の正弦を見る。
ちなみにではあるが、彼は無傷である。
*
正弦が通う大学の教授、岸村はとある研究資料収集の為に教え子達と共に京都に来ていた。
とはいえ目的地は京都からまだ遠く、観光地には通り道に寄った程度で、そこで真守達と出会ったのは偶然タイミングが良かったと言える。
真守や花苗と別れたあと、正弦達は二台ほどの車に分かれて目的の地へ向かっていた。
「正弦くんが来るなんて珍しいよね!」
美南は満面の笑みで外見が好みで割と本気で狙っている正弦に対して明るい声で話しかけるが、当の正弦はというと美南の開いた胸元から覗く胸の谷間にも一切興味を見せず、腕を組み不遜な態度で運転席に座る岸村をバックミラー越しに見る。
「先生に携帯を覗かれて連れてこられたんだ」
「いや偶然だって、そもそも興味を示したのは君じゃないか」
覗かれたというよりは、正弦の後ろを歩いているときに偶然京都のお土産を調べている画面が目に入っただけだ。
「雨宮が来た時俺らもビビったっつうの!」
「むしろ君達が余計にくっついてきただけじゃないか……」
「いいじゃないすか! これぞ青春!」
「いや君達と違って私は研究……」
助手席に座る同級生の男がやたらとハイテンションで車中で大きな声を出すものだから、それが喧しくて正弦は眉を顰める。
美南はその様子を見ながら、「不愉快そうに顔を歪める様子もかっこいい〜」と呑気なことを考える。
「後ろもちゃんとついてきてるなぁ〜、それで先生、あとどんくらいすか?」
「あと10kmも無いと思うんだけどねぇ」
後ろとは、他の同級生が乗っている車のことだ。
「不死とか、死んだ人が復活する伝承があるんでしたっけ」
「そう。まぁ昔一度調べに行って、ただのよくある伝承程度の話に過ぎないってのは分かってるんだけどね。時間も経ったし、もう一度調べてみようと思ってね」
今回の目的は、あまり人気の無い地域にある村に古来より語り継がれてきた不死や死者復活の伝承を調べに行く、らしい。
「まだ人も住んでるらしいし、過去の資料と──とりあえず、せっかく来てくれた君達にも聞き込みを手伝ってもらおうかな」
とはいえ漫画やアニメに出てくるような古い因習の残る村、というわけではないためその村に辿り着くまでの道はちゃんと舗装されていた。
確かに所々崩れていたり、アスファルトではなく砂利道だったりはしたが……ちゃんと文明の気配を感じられた。
だからこそ、正弦達がその村にたどり着いたとき、人間の気配が一切感じられないことに違和感しかなかった。
「なんだか、変な感じしません……?」
美南が不安そうな顔で自身を抱き、同乗していた同級生男も流石に静かになっていた。続いて降りてきた後続の車に乗っていた面々も、同じように不安そうな表情を浮かべている。
「嫌な臭いが、するな」
ボソリと、正弦は呟き近くにあった民家に歩き出す。そして、徐に扉を開け放った。
「おい正弦くん!」
後ろから慌てた様子で岸村が正弦を止めにくるが、正弦は止まる気配を見せずぐんぐんと中に入っていく。
「……これは」
そして、その中で見たのは夥しい量の血と、凄惨な死体。血はまだ乾いて、いない。
「……これは、まずいか?」
流石の正弦も困り果て、とりあえず玄関に戻り同じく困った顔をする岸村教授になんと切り出したものかと思案する。
「どうした? 何かあったのか?」
「ええまぁ……。あいつらには見せない方がいいような、死体が転がってましたね」
「は?」
「キャァァァァァァ!」
正弦の珍しい困った顔と戸惑った声色に岸村教授が目を丸くさせていると、外から女の叫び声が聞こえてくる。これは美南の声だ。
「なんだ!?」
「うっ」
「ひぃっ!」
美南の後に続いて他の同級生達の声もする。どれもが戸惑い、恐れを感じさせるものだった。
正弦と岸村が慌てて彼らの元へ行くと、そこには民家の壁にへばりつくような人間の下半身……当然、あたりは血の海だ。
どうやら、正弦に続き美南も移動して死体を見つけてしまったらしい。
なぜ下半身だけなのかと言うと、その民家には大きな綺麗な丸い穴が空いており、上半身のあったところはまるで民家の壁と共に削られたように見える。
「け、警察……圏外……?」
同級生の一人が震える手でスマホを取り出すがどうやら圏外らしい、慌てて他の面々も確認したが、全員圏外だった。
「───とりあえず、ここから離れよう」
岸村教授が意を決したように言って、正弦以外が全員顔を真っ青にさせて車に乗り込む。先程と同じ構成で乗り合わせ、正弦達が乗るものとは別の車が先導して走り出した。
「……一体、何が」
「……おそらく、あの村に住む人間全てが『ああなっていたんでしょうね』。尋常ではない……死臭だった」
後部座席に座り呆然と呟いた岸村に、隣に座るあんなものを見ておいて平然としている正弦が真顔でそんなことを言い出した。
先程と違い岸村に代わって運転席に座った同級生の男は運転することに集中しさっきのことを必死に頭から離そうとしているし、助手席に座った美南は正弦の言葉を想像して吐き気を催している。
「正弦くん、しばらくこの話はやめよう」
「……そうですね」
そんな美南の様子を見て、岸村がバツの悪そうな顔でそう言うと流石の正弦も一度深く瞑目してから、素直に答えた。
そして、村から離れて十分も経たない頃。
道路の舗装が村の周囲よりも綺麗になってきた辺りでようやくスマホの電波が入った。
「電波入りましたね、じゃあとりあえず警察に───」
正弦が二つ折り携帯を開き、番号を押そうとした瞬間のことだった。
突如として大きな音とブレーキ音。そして激しく揺れる車内。正弦はすかさず体勢を整え、運転席を確認する。
そのとき目に入ったのは、先導していた車が黒い───槍のようなものに貫かれた姿だった。
正弦の乗る車を運転する同級生はそれを見て慌ててハンドルを切ったのだ。彼はそのまま急ブレーキも踏み、車は強い慣性を残しながら停車した。
その瞬間に自身がずっと持っていた長物の袋を握り込んで、すかさず外に飛び出した正弦は先導車に向けて駆け出した。
四……いや、五本。空から伸びた黒い槍が車を貫いている。車内の様子は遠目に見ても──酷い。正弦は思わず顔を顰め、槍の伸びた先を仰ぎ見て確認する。
そこには、まだ年端もいかない少年が居た。身体から黒い槍を生やし、それを支えに天高くこちらを見下ろしている。
穴の空いた車からガソリンが漏れている。それに気付いた正弦は流石に近くに寄るのは危険だと足を止め、少年を見上げ強く睨んだ。
フッ、と。槍が一瞬で消えて少年が重力に晒されて落ちてくる。
ここは、山の斜面に作られた道路だ。故に土砂崩れ対策のためにコンクリートで舗装された山の斜面が目と鼻の先にある。
少年は、再び槍を生やしてその斜面に突き刺した。そして加速。まるで振り子のように、しかし普通の人間が追うには速すぎる速度で正弦に肉薄し……彼に向けて槍を突き出した。
その槍は正弦を吹き飛ばし、そのままコンクリートの斜面に叩きつける。凄まじい破壊音と、砕け散ったコンクリートが周囲に舞う。
「雨宮ァっ!」
ちょうど車から出てきていた運転席の男が、それを見ていたために焦った声を出す。美南も助手席から降りて一体何が起こったのかと周囲をキョロキョロと忙しなく見渡していた。
そして、岸村が遅れて車から降りて……運転席の男の顔が槍に貫かれるのを見る。
「キャァァァァっ!」
美南の甲高い叫び声が響き渡る。少年はそれを煩わしいと言いたげな顔で睨みつけ、美南の事も槍で貫こうとし……後ろから歩いてきた壮年の男の気配に気付き一度手を止める。
「行動が早いね」
少し慌てた様子でそう言いながら、壮年の男は歩いてくる。傍には、全身黒い服装でかためた異様な雰囲気を持つ少女を連れていた。
「『先生』か、仕方ない。見られたんだ、よく分からないけれど、ややこしいんだろ? だったら殺せば良い」
「いや……しかし、派手にやっ──」
「札木……?」
黒い少女を連れた男、彼を見て岸村は瞬きをしてから呆然とした声を出した。その名を呼ばれ……『先生』と呼ばれた男、札木は大きく目を見開き、岸村を見る。
その様子は、横で無表情に立つ黒い少女が思わず見上げて僅かに眉を顰めるくらい、珍しい姿だった。
「殺せ」
「札木! お前生き───」
ドッ。
「これで良いのか? 『先生』」
美南は地面に尻餅をついた。腰が抜け、後退りながら絶望に顔を歪ませる。目の前でまるでおもちゃのようにぷらぷらと、岸村の身体が揺れている。
「あ、あぁ……」
彼の顔面は黒い槍に貫かれ、溢れる血はとめどなく、ぶら下がる身体は当然力がない。岸村は一瞬で絶命した。それを『先生』は少し悲しげな瞳で見つめて、しかし一度瞑目すれば───今まで、少年や『黒い少女』に見せていたものと同じ柔和な表情に戻っていた。
「すまない、少し取り乱してしまった。知り合いでね……でも、《ネクスト》には関係ない」
「ほぉ、お前らが《ネクスト》か」
「!?」
少年と『先生』が、横合いから突然聞こえてきた声に驚き慌ててそちらを見る。
すると、なんとそこには先程少年が槍で突き刺したはずの正弦が無傷で立っていた。不敵な笑みを浮かべ、しかしそれでいて僅かに怒りを瞳に宿している。
「バカな、どうやって」
「ふん、あんなもの当たるか」
破れた袋から、鞘に収められた日本刀が現れる。それを強く握りしめ、正弦は視線を鋭く『先生』を睨みつけた。
「君は、どこで《ネクスト》を知った? それは───私が最近、名付けたものだ」
「……? お前が、名付けた?」
正弦としても、真守達からその名を聞いていただけなので『先生』の質問の意味が分からなかった。
「僕の力で、殺せなかったのはお前が初めてだよ」
「そうか、俺は子供でも容赦しないぞ」
正弦と『先生』の会話は長くは続かない。すぐに少年が槍を生み出し、戦闘体勢を取った。正弦としても少年から殺意を向けられてそれ以外に意識をやっている余裕はない。
「『血棘』、少しまっ───」
「死ねッ!」
少年の首元から生えるように五本の黒い槍が正弦に向けられた。それぞれが間髪入れず急所を狙い飛来するが、正弦は流れるような動きで間を縫うように回避する。
上半身を捻り、片足で飛び、もう片足で槍の一つを踏み、身体を傾けたまま踏み込む。
触手のように伸び切った黒い槍を、少年は慌てた様子で消し去る。だがその瞬間にはもうすでに正弦の刀の範囲内だ。
彼の振るう刀は、鞘に収まっているため打撃武器として少年の脇を殴りつけた。鞠のように少年の身体が跳ね、道路を転がっていく。
だが正弦はそれを一瞥すらせず、『先生』を見ていた。
「……ッ!?」
『先生』の驚く顔を見て、正弦はより鋭く眼光を光らせる。そして、更に踏み込んだ。
しかし、明後日の方向から再び黒い槍が飛来する。正弦はひとつを首を捻って躱す。
一瞬の時間差で、今度は胴体を狙ったもう一本。正弦は腰を落とし、刀を振るい黒い槍を弾いて軌道を逸らす。鞘が砕け、輝く刀身が姿を現した。
(あの少年……やはり俺の剣を服の下で)
先程正弦が少年の脇腹に振るったのは、本人の容赦をしないと言う宣言通り子供の身体なら死に至る可能性もある程の力が込められていたものだ。
しかし正弦も気付いてはいたが、少年は服の下に黒い槍を伸ばしそれを防いでいたようだ。とはいえそれなりの感触があったと正弦は自負していたが……少年の闘志は高く、口から血を漏らしながらも槍を放ってきていた。
だが正弦は取るに足らないと無視をした。剥き身の刀身で『先生』を狙う。更にもう一本、少年の槍が『先生』を守るように正弦の前に盾のように現れるが───
そこが、精々『一本』が少年の限界かと正弦は不敵に笑う。
「間抜けが」
一閃。
掬い上げるように正弦の刃は黒い槍を切り裂き、その先にあった『先生』の左手の先を切り落とした。
正弦の手にあった日本刀はつちくれに変わり、足元に落ちて風に舞う。
「ぐっ」
「お、オォォォオオォォ!」
左手の先を手で押さえ呻く『先生』に正弦は素手で追撃をかけようとして、腹の底から吠える少年に何かを感じてその場を飛び退いた。
チラリと唯一の生存者である美南……虚な目で呆けている彼女の元へ寄り、脇から肩に抱えて走り出す。
ドッ!!
爆ぜるように、少年を中心として『槍』が四方に放たれた。道路のアスファルトを砕き、山の斜面を舗装するコンクリートも強引に剥がす。
「なんて力だ……。見た目はまるで雲丹だが」
とてもではないが正弦でも、大吾郎の刀無しにあの闇雲に放たれた攻撃を避けられそうになかった。ガードレールから外に飛び出し、木々と斜面を勢いよく降りながら逃げる。
その後正弦は街まで逃げて警察に駆け込んだが、彼らが追ってくることはなかった。警察に見たままの事情をそのまま語って信じてもらえなかったが、美南に付着した岸村の血痕から事件性は感じてもらえたらしく、正弦の伝えた場所に向かってもらうと『槍』で貫かれた車や……殺された岸村や同級生達の死体もそのまま転がっていた。
そしてもう一つ。正弦が切り落とした……《ネクスト》を名付けたと言った『先生』と呼ばれるあの壮年の男……札木。正弦が切り落とした彼の左手首から先も、少し離れたところで木や草に紛れていたところが発見された。
しかし、彼らの姿はどこにもなく、手がかりらしい手がかりもなく今に至る。
*
『棘の能力者』
俺は正弦の話を聞いて、一人の能力者を思い出した。俺としても深い因縁のある能力者だ。自然と拳を握り込んでいた。
「聞いた感じ、少年は『棘の能力者』かな?」
超能力者対策部にて、正弦の話を共に聞いていた紅子が俺の作成した能力者一覧を見てそう言った。
紅子からひったくるように正弦が一覧を見て、無言で頷き肯定して紅子に返す。
「真守にメールを送ったのはいいが、うまくまとまらんくてな。しかし間違えて送ってしまったんだ」
『あうたー』とだけ書かれたメッセージ。あれは警察にお世話になっている正弦が近くにいる俺に連絡すべきか悩んでいるうちに操作を誤って送ったものらしい。
あれのせいで俺はかなり切羽詰まった状況だったのかと心配したのだが……いや、聞いている限り何故無傷なのか不思議でたまらないくらい切羽詰まってはいたが……。
「《ネクスト》の名付け親の『札木』に、黒い少女。そして『棘の能力者』か。聞く限り『棘』はかなり強い能力のようだな」
大観が頭を抱えながら、椅子にもたれてため息を吐く。
黒い少女……。俺の脳裏には、京都で正弦と会ってすぐに少しだけ接触した彼女のことが浮かんでいる。同一人物かは、分からない。
「一矢報いたといっても、左手一本だ」
腕を組み、勝手に椅子にふんぞり返った正弦が目を細めて続ける。
「あいつらに対しては、割に合わん」
ボソリと、はっきりと怒りを滲ませて言い切った正弦に、なんと答えるべきかとこの部屋のいる俺と紅子に大観は押し黙った。
「真守、『棘の能力者』については詳しいのか?」
ふと、紅子がそう聞いてきたので俺は少し考えた。そして答える。
「奴は、『記憶』において……未来の《ネクスト》の、首魁……リーダーでした」
驚きに目を見開く紅子と大観。正弦だけは、首を傾げている。
「でも、正弦さんの話を聞く限り……創設者だと考えるには少々幼すぎるし、今彼が従っているらしい『先生』と呼ばれる人も非常に気になりますね」
そう続けながらも、俺は『棘の能力者』との因縁について別のことを考えていた。奴こそがかつて俺を殺した能力者だからこそ、今際の際を思い出していた。
少なくとも奴は潔を殺す能力者じゃない。考えてみると、潔が同じ能力を持っていたとして……『棘』の力であのような殺し方ができるとは思えない。
「ついに、あいつまで出てきたか」
兄の時は全く敵わなかった。奴はただ身体から『棘』を生やす能力だが、その力は能力者の中でも強大だ。
ブルリ、と。身体の奥底から冷えるような震えがあった。死に際を思い出し、何とも言い難い恐怖がジワリと湧き出してくる。グッと拳を握り、俺はその恐怖を必死に振り払った。




