83話 新事業の提案
本日2話目
「今日は休みだと思ったけど何しに行くの?」
ブラウスにカーディガン、短めのスカートにニーソックスを履いたアイーシャが、俺と腕を組んで中央広場を歩きながら声をかけてくる。もちろん着ている服は俺の趣味だ。
「ちょっとゴードンに新しい事業の相談しようと思ってさ、ちょっと時間をとってもらってるんだ。」
「ふ~ん……新しい事業って、イチって結構欲張りよね。私はイチは今でも十分すぎるくらいに稼いでると思うわよ?」
「まぁ確かにそうなんだけどさ、結局今は俺が向こうから持ち込んで売ってる物で利益を得てるじゃない? それが出来なくなったらアイーシャが俺から離れてっちゃうからね。」
「もうっ! 私は確かに愛人だけどイチの事もちゃんと好きなんだからね! もしそうなったらまた働くよ? みんなで働けば食べていくのは問題ないでしょ?」
アイーシャはブライアンの店をやめ、今は秘書っぽい感じで俺の手伝いをしてくれている。
なんせエイミーと一緒に行動していると目立つ事もあり、アイーシャとエイミーが二人で交代しながら秘書をしてくれているのだ。
ちなみにブライアンは俺のアドバイザー料やゴードン商会からの商品の中継で儲かっていてセクシーな女の人を新たに雇っている。あのエロ親父が。
そしてアイーシャは事あるごとに俺の事を『好き』と言ってくれるが俺にはその気持ちがどこまでの物なのかは掴めない。
裏表のない子ではあるから好きは好きなのだろうが『金の切れ目が縁の切れ目』なんて言葉もあるからアイーシャからの好意に関する話は言葉半分で聞いているような状態だ。
「ありがとう。アイーシャ。」
「も~、イチは全然信じてくれないんだから……」
膨れっ面をして拗ねるアイーシャ。可愛いです。
ペロペロします。今すぐに。
イチャイチャしながら商館に到着。
バッタリとアニと出会う。
「あらあら。お熱いわねお二人さん。」
「あら、アニさんこんにちは。ええそうなの。熱くてごめんなさい。うふふ。」
二人ともニコニコしているが、なんとなく寒い気がする。
「アニさん。ホールデンさんに話をして頂けました?」
「ええ。一応話を通したわ。『作れることは作れるけど、そんなの作ってどうするの?』ですって。疑問が頭に浮かびまくってたわよ。」
「そっか。作れますか。これは遊びの幅が広まるな。」
「ちょっとイチ~。私にわからない内緒話しないでよ~。」
腕をくいくい引っ張りながら拗ねるアイーシャ。
アイーシャはアニと話すと時々我儘になる気がする。
「あぁごめん。魔道具なんだけどね……説明は難しいから出来上がってからのお楽しみって事で。」
「ふふ。そうなのまだ私達だけの秘密のお話なのよね。ふふふ。」
二人ともニコニコしているが、やっぱりなんとなく寒い気がするのは気のせい……だよね。
アニと別れゴードンの部屋を訪ねる。
「や、イチはん。ようこそ! 時間ピッタリでんな。」
ゴードンの部屋には格式高そうなネジ式の壁掛け時計がある。
これは礼のつもりでプレゼントした。
ソーラー式の腕時計もプレゼントしてあるので、もしネジ式の時間がずれても合わせる事ができるので問題ない。
「忙しいのに時間とってもらってすみませんね。」
「何言うとるんや。イチはんのおかげで忙しいんやさかい、そんなもんなんぼでも時間くらい取るっちゅーねん。それに優秀な人間もどんどん増やしとるさかいワイのやる事も少なくなってきとるんや。」
ネコミミの生えたスーツを来た女性と、羊の角の生えたスーツを来た女性がゴードンの後ろに控えている。犬耳メイドはイスに座ってだらけている。
彼女達はゴードンの秘書兼護衛だ。
犬耳メイドは元々戦闘職、ネコミミさんも戦闘メインだ。
羊さんは仕事の補佐がメイン。
人選を見る限りゴードンは獣人が好きなんだろうか? と思わないでもない。
さて、そんな事より本題だ。
「早速ですが本題から入らせてもらいますね。
提案は2点。『金貸し』と『娯楽施設』です。」
「ほう……なんやおもしろそうやないか……聞きましょか。」
金貸しについては自分達でやるのではなくエルフに行ってもらう。
エルフが組織を作って金を貯め込んでいるのをスペシャルギフトのオークションで知ったので、その貯め込んだ金を活用する方法を考えたのだ。
『保険』も考えたが日本ほど安全ではない世界ではリスクが大きいと思い諦めた。
借主のスキルに応じて貸出金額の上限を決めソレを担保に金を貸す。
その毎月の回収業務なりをゴードンが請け負う形を提案した。
厄介な仕事ではあるがコレは金になると思う。
この世界では『契約』という方法があり、強制的に従わせる方法もあるのだから、どうしても払えない場合はオークションにスキルを出品してもらうという運びとなる。
エルフには資産運用だとか人助けだとかもっともらしい理由をゴードンに考えて貰い提案して納得してもらえばいい。
この事業はやってもらえるなら好都合。という程度の事。
なぜならオークションは月に1回そして10に満たない程度の出品だった。
今の俺の稼ぎと先のオークションを考えると俺が全て買い占めるような姿を想像してしまう。
そうなって不平不満が出ないようにするには『出品数』か『開催日』が増えたらいいのだ。
そう思っての提案だ。
「ん~……でもそんなに街で金を使う機会なんてあんま無いんとちゃいますか?
あ。それで娯楽施設っちゅーわけですか?」
『娯楽施設』
これはカジノの事だ。
ニアワールドは娯楽らしい娯楽が無い。
コンドームの消費量から考えても分かり易い。
今は時計の普及によりニアワールドからみて異世界である日本で使われている数字の認識は急速に広まっっている為、トランプとかを使った遊びもできる。
ルーレットなんかも分かり易いし、数字が分かり難い人間にはダイスを使った物で遊んでもらえる。なんなら丁半博打でもいい。
さらにもっと単純な遊びでホールデンにお願いしているのだが、それはなにかと言えば魔道具『スロット』だ。
コインを入れてレバーを引く回る。そして止まるが柄はなかなか揃わない。揃ったら柄に応じてコインが出てくるという仕掛け。
入場に当たっては金貨をデポジットとして預ける必要があるが、その代わり金貨分のプレイ用コインを渡され、帰る時には精算できるという仕組み。
俺はその場所を購入する費用や建設費を出し、さらに設備や道具の準備も行う。
ゴードンは施設を運営し、俺は道具利用料として地代家賃を貰う。
運営に関わる費用はもちろんゴードン持ち。
そして利益が多い場合は、その利益率に応じて地代にマージンを上乗せさせてもらう。
これを提案した。
「ふぅん……まぁ、今商会は金がわんさか入ってますさかいな。金は回さな金を生まんさかいに実験的にやってみるのも悪くないかもしれません。なんせイチはんの提案やし。」
と、ニコニコと笑顔。
思ったよりも簡単に受けれてくれそうだ。
と思ったら突然真面目な顔をするゴードン。
「ちゅ~てもや。分からんもんには金はだせまへん。まずは体験ですわ。それから決めましょ。」
ですよね~。
もちろん準備してますとも。
ポケットに入れておいたサイコロを二つと、賭け金替わりのおもちゃのコインを取り出し、カップを借りた。
「まずは分かり易い『丁半』から。試しましょう。
アリアさん達も参加してみてください。」




