80話 アデリーは(盗み)聴き上手
「ね! ねぇアデリー! ソレ締め過ぎじゃない!?」
「ええんや…ええんやで……イチはん。 おうん! く、、ふぅ……い……い? あれ?………ワイ……なんやろ……なんかもう…新しい扉を開いてしまいそうや。」
「その扉は開いちゃだめぇぇっ!!」
ゴードンが、またもM字開脚宙吊り状態にされ今度はギリギリと締め付けられるオマケ付きだ。
しかもゴードンが微妙に頬を紅潮させているから、とても気持ち悪い。
ちなみにアイーシャは猿ぐつわの上に亀甲縛りにされて床に転がされている。
微妙に涙目で緊縛されている姿に心のシャッターを14回は切った。
そして俺はといえば馬メイドにガッチリ羽交い絞め拘束されてまったく動けない。
この馬メイド。
スレンダーだが……あることはある。
グイグイ当たるムニムニ感が感じられて、羽交い絞めって、なかなか素晴らしいです。
そんなどうでもいいことは置いておいて少し経緯を説明しよう。
そうすれば何故こんな状態にも関わらず俺に微妙に余裕があるのかもわかってもらえると思う。
まず、今どこにいるか。
全員アデリーの店にいる。
住宅街にある小さな飲み屋でワインを飲んで『アイーシャ可愛い』と言った時に、ちょうどのタイミングでアイーシャが迎えに来て、なんとなくボーイミーツガール的な甘酸っぱいシーンになった。
その後、ゴードンの勧めでアイーシャの家に移動をしようとして外に出たのだ。
住宅街だから出歩いている人もいないようで、3人で細い路地を進んでいると、突然一纏めにグルっと拘束された。
突然の事態に戸惑い、混乱しながらもがいてると路地の上からアデリーがニコニコしながらスーっと音もなく降りてきて、アイーシャとゴードンに猿ぐつわを噛ませ
「こーら。ウワキはダメダぞっ♪」
と、ニコニコしながら俺のオデコをちょんとつついた。
流石に『あ。俺にくっついてた糸くずは、エイミーにつけた事がある盗聴用の糸か』と気が付き、俺は天を仰ぎ、そして全てを諦めた。
遠くからカッポカッポ音が近づいてくるのを聞きながらアデリーが俺やゴードン、アイーシャを個別に拘束しなおすのを眺めていると、アイーシャが炎の魔法で糸を切って拘束をほどいた。……が、あっという間に亀甲縛りにバージョンアップした形で拘束し直されて、アイーシャも『あっ、無駄なんだ』と理解したようだった。
カッポカッポ音が拘束現場に到着すると、アデリーがアイーシャとゴードンを馬メイドに積んで、落ちないようにグルグル巻きにして、そのまま指示をだして運ばせ、そして俺をお姫様抱っこで持ち上げられる。
その時ふと『あれ? 今エイミー的には無理矢理3Pさせられてるって事なんじゃね? しかも御主人様命令で無理矢理拘束された感じで。』と思い、エイミーの顔を見てみたら……まぁなんというかヒドイ顔をしていた。ので、見ないふりしつつ、そのままアデリーの店に全員移動。
ただ移動しながらも俺の頭をニコニコと上機嫌で撫でるアデリーに不思議になって聞いてみる。
「あ、あのさ。怒ってないの? アデリー。」
「ん? なにが?」
「全部……聞いてたんでしょ? ポリポリ怖いとか……その、ペロペロしたいとか言ってたのも。」
「あぁ、それね。うん、聞いてたわ。
んもう。イチったらヒドイんだから。私がイチをポリポリするわけないじゃない?
……流石に『アイーシャたんペロペロ』はカチンと来たけどね。
でも、ふふっ。私の事好きって言ってたから許してあげるわ。」
?
…………あぁ『人型部分は好き』って俺、言ってたわ。
グッジョブ! 俺。
ニコニコしながら移動するアデリーから馬メイドを見ると、拘束された二人がもがいているのが目に入る。
「え~……っと……あの二人をどうする気なの?」
「ん~? こういった事はハッキリさせておくのが一番でしょ?」
アデリーは薄く笑ってから言葉を続けた
「もう安心してよ……私はオニじゃないのよ? ちょっとお話しするだけよ。」
はい。オニじゃないです。
蜘蛛ですよね。
そう心の中で突っ込んで黙っておく。
そのままアデリーの店に着きゴードンからお話が開始されたのだが、なんとゴードンの拘束を解いたよ。アデリー。
「ねぇゴードン。浮気しそうな知り合いがいたら止めるべきじゃない? 人として。」
心配そうな視線を向ける俺に対して、ゴードンは余裕がありそうな視線を返してきた。
なんとなく『安心してーな。イチはんの良いように収めたるわ』と言っているように感じる。
その表情に『それが出来るんなら、俺アンタに時計だろうがなんだろうがどれだけでも持ってくるよ! ゴードンさん!』そう思いながらゴードンを見つめ返すと、ゴードンは軽く頷き『ほんなら尚の事まかしとき。商人の根性みせたるわ』と言うような決意を感じる表情を見せ、アデリーに向き直った。
「いやぁ、確かにその通りですわ。すんませんでした。
せやかてアデリーはん……あの話だけで浮気やとは思えまへんがな。」
「そう? 私はイチが好きだし。イチも私が好きって言ってたじゃない? そこに他の女の気配がしたら浮気じゃない。」
「そうでんなー。確かに好き言うてましたな。『人部分』は両想いでんな。
でもイチはんは蜘蛛部分は怖いとも言うてましたで。」
「まぁ、そうね。」
「言うてもアレや。アデリーはんは魅力的なお方やしイチはんもきっとどんどん惹かれていくと思います。せやけどイチはんはまだまだ若いんやから、やっぱり近くに心安いと感じる女の人がおれば、ちょっとは惹かれてしまいますて、コレはしゃーないですわ。その辺は大目に見てあげる事はできひんでしょうかね?」
アデリーは渋い顔。すぐにアデリーから否定の言葉が発せられると思ったが、ゴードンがアデリーが口を開く前に言葉をかぶせてきた。
「それにほら……ちょっとしたハードルとかがあった方が愛も盛り上がって強固なもんになるってもんでっしゃろ?」
アデリーはピクリと眉を動かし少し興味を持ったように髪をいじりはじめた。
「ふぅん……まぁ、それは一理あるわね」
「それにアレでっせ、今みたいに無理矢理拘束したりとかしてたら、きっとイチはん萎縮してしもうて、なーんも自分の意見を言えへんようになりまっせ? そんなお人形みたいなイチはんは好きちゃいますやろ?
アデリーはんは強者かつ優れたお人なんやからイチはんがのびのび楽しく過ごせるように環境を整えつつも、最後にアデリーはんの所に帰ってくるように手の平の上で転がす事も朝飯前でっしゃろ?
せやから、もうちょっとドーンと構え取ってええんやないやろか?
ほら、押してばかっりやなく、引いてみろっちゅーんは、よう聞く愛のテクニックやないですか。」
「ん~~……でも、私はどっちかと言えば押して押して押し切りたいわ。」
「それも個性的でええと思います。せやけどイチはんみたいな控えめなお人は、ソレをされるときっと疲れてまいますがな。
アメとムチでっせ。アデリーはん。」
「あら、私ムチは得意よ。」
糸でムチを作りピシっと床を叩くと、馬メイドがハァハァしだす。
「ね?」
元従者であるエイミーの様子に軽くため息をつくゴードン。
「……いくら得意でも、ムチだけやったらイチはん擦り切れてまいますわ。それは可哀想やて。
好きやからこその、アメ。 イチはんにアメをあげたげてーな。それがきっと二人の絆になりますて。」
アデリーがチロリとアイーシャを見る。
「そのアメがあの子って言いたいの?」
「いや、まぁ、それはアレですわ。まだアイーシャはんもその気なワケやないですからなんとも……まぁ、イチはんは少しばかり惹かれてるように思えますな。」
首を捻って考えるアデリー
「うーん……色々と腑に落ちない事はあるけれど、実際にイチは『アイーシャたんペロペロしたい』なんて言ってたし。アメである事は間違いなさそうなのよね。」
「そうでっしゃろ?」
「あ、ちょっと五月蠅いから黙ってて」
あっという間にM字開脚宙吊り状態にされるゴードン。
「あぁ……またでっか。」
「んー……まぁ、私とイチを応援してくれてるような気がしないでもないし、ちょっとサービスしてあげる。」
そう言うと同時にギリギリと糸でゴードンを刺激し始めての冒頭である。
--*--*--
アデリーはアイーシャに向き直り、距離を詰めはじめる。
俺は、俺が一番恐れているアイーシャポリポリにならない事だけを必死に祈った。
アイーシャは亀甲縛りのまま宙吊りにされ、糸がいい感じに食い込むのか声を出すのを我慢しているように見える。ただ漏れ出る声ってたまりません。
アイーシャの顔は紅潮している。
「この子のニオイ……イチに粉をかけてた子で間違いないわね。
そしてイチが私をごまかす為に嘘までついてた子。はぁ~~……こんな子をペロペロしたいって思ってたのねイチは……流石に落ち込むわ。」
落ち込むしぐさをしながら、天井から垂れている糸をぐいっと引くアデリー。
アイーシャの宙吊りが少し高くなり、また微妙に締め付け感があったのかアイーシャが「んんっ!」と声を上げる。
俺はまた心のシャッターを切る。
この場にデジカメもビデオカメラも無いのが悔やまれてならない。
俺がアイーシャのニオイをギルドの受付の人のニオイと言っていたのは、どうやらとっくの昔に嘘だとばれていたようだ。
もしかすると、アイーシャも参加していたアドバイザーの会議にはエイミーも参加していたし、エイミーはアデリーの密偵として俺の周りの情報をすべてアデリーに報告するような活動していたのかもしれない……いや、していただろう。
という事はアニの存在もバレているのか?? そういう事か?? レッスンチャンスの危機なのか!?
アデリーに猿ぐつわを解かれると同時に大きく息をするアイーシャ。
「な、何なんです。いきなり!」
おおっと、アイーシャ強気!
怖い物知らずな性格なのか?
この状況ですごい胆力だ!
「突然ごめんなさいね。ちょっとお話しておきたくて。
初めまして。私イチの恋人のアデリーよ。
宜しくね。アイーシャちゃん。」
「さっきまでの話を聞いていると……とても恋人とは思えませんけれど?」
アイーシャをじっと見るアデリー。
アイーシャも負けじと視線を返している。
「ねぇ、アイーシャちゃん。
貴方……イチの事は好き?」
赤くなるアイーシャ。
可愛い。
「な、な、そ、そんな。急に、す、好きとか
そ、そんなのいきなり言われても困ります。」
やだ、可愛い。アイーシャ。
じっとアイーシャを見るアデリー。
しばらく見つめた後、突然微笑んだ。
「良かった~。本当にこの子はゴードンの言う通りアメに丁度いい子だったわ。」
そう言いながら俺に振り向き、良い笑顔になった。
「だってこの子。別に好きじゃないもの。イチの事」




