7話 マジックトーチを見にいこう。
翌朝、車を出してホームセンターとスーパーを回って簡単な仕入れを済ませた。
仕入れた物は
・紙コップ50個入り
・10個入り飴袋
・20個入りチョコ袋
・4連小分けのスナック菓子
・手回しLEDランプ×4
ホームセンターだと手回しLEDランプが1,980円の物しかなく、ネットの1,000円の物は手に入らなかった。
まぁ、単価が高くなってしまったけれどテストだから問題ない。これくらいの量なら全て肩下げの鞄に入れる事が出来る。
早めに昼ごはんに牛丼を食べて家に帰り、着替えてニアワールドへと向かう。
鞄に詰めた荷物は体が完璧にモニターを超えた後に、後追いで引っ張るような形になったが問題なく移動する事が出来た。
とりあえず路地裏に出たが、まだ道が分からず、どうやって雑貨通りに行ったらいいのかわからないので中央広場へと向かう。中央広場は今日もとても賑わっている。
広場を歩くと、やはり黒髪は注目を集めるようで服装は馴染んでいるはずなのに注目を集めている気がする。
あぁ。貝になりたい。
視線を我慢して衛兵に声をかける。
「すみません。雑貨通りはどう行ったらいいんでしょう。」
「あぁ雑貨通りなら、あっちに見える道をまっすぐ行きな。
しばらく進むと用水路に橋がかかってるからそれを越えたら、そこから雑貨通りさ。」
衛兵に礼を言い移動する。
5~10分くらい歩いただろうか。石造りの小さな橋がある。
渡りながら下を見ると、2m程下を用水と調査用なのかその脇に幅1mも無いような通路がある。
間違いなくネズミとか居そうな雰囲気だなと思いながら橋を渡りきると、正面には建物がずらーっと横並びに建ちそれぞれに看板が出ていた。
看板は基本的に文字ではなく、デフォルメされた絵『ピクトグラム』で表現されていて何となくわかる。だが行ったり来たりしてもどうにもランプっぽい絵が見当たらない。
怪しい看板としては『魔女の帽子』の看板だ。
思い切ってそこに入ってみる事にした。
「す……みませーん」
恐る恐る店舗らしきドアを開けると、いかにも魔女ですと主張せんばかりの黒のつばの広いとんがり帽子をかぶった幼女が目線を向けてきた。
髪の色は青みがかった緑色をしている。
物語で幼女扱いしていたキャラクターが実はドワーフで年上でしたー的な話もあったので、きっと彼女もドワーフなのだろう。
ただ、個人的にはドワーフで魔女の看板のマジックアイテムというのが……ちょっとしっくりこない。
そこはエロフじゃないの?
んんっ! ………そこは、エルフじゃないの?
いや、ドワーフでも可愛いからいいけどさ、でもやっぱりどっちかってーとロリコン属性っぽいじゃない? ドワーフって。
まぁ、この幼女もとーーっても美人ですよ? そりゃあ。この際ロリコンでもいいかぐらいに思っちゃいそうなくらいは……
「なにか御用かしら?」
声をかけられて正気に戻る。
そうだ。今回は調査と、できそうだったら商談に来たんだった。
相手は幼女だろうがエロ…エルフだろうが、オッサンだろうが関係ないんだった。
「すみません。
マジックトーチを扱っているお店を探していたんですが、こちらでお取扱いはありますか?」
「あぁ。マジックトーチ。
家庭用でいいのよね? 魔力を使える人がいるタイプ? それとも蓄魔タイプ?」
「ちくま?」
店の女は少し呆れたように席を立ち、マジックトーチの棚の前に向かい、そして『おいでおいで』のジェスチャーをした。なので、お店に入り女の呼ぶ方へと行く。
うわぁ、ちっちゃい。
身長140cmもなさそうだ。
ちょうどいい手の高さに頭があるから、なんとなく頭を撫でたくなる。
「ほら。コレみたいに魔力タンクの取り外しができるヤツ。
魔力を使える人の所に魔力タンクを持っていて蓄魔してもらうのよ」
黒色の円柱の瓶のような物を取ったり付けたりしている。
なるほど。充電式だ。
「蓄魔と蓄魔じゃない方だとどっちが高いですか?」
「蓄魔ね。」
「じゃあ蓄魔じゃない方のマジックトーチで、一番安い物だとどういった物になります?」
「そうね……」
立てかけてあった長めの棒を取り、高い棚の上の品物を器用に手元に持ってくる。
女の手には四角の小型のランタンのような物がある。
「これで銀貨3枚ってとこね。」
おおお。かなり高価だよマジックトーチ。
3万円。
まぁ、ろうそくとかでも消耗品はランニングコストがかかるから、長期で見ると、こっちの方が安いとかもあるんだろうな。
ん? 蓄魔があるって事は……もしかして。
「蓄魔タイプの『魔力の補充』って、もしかして注文として受けたりとかもあるんですか?」
「まぁ、魔力使える人が誰も居なかったりした場合は、ウチに持ってきてくれたら鉄銭1枚で補充するよ?」
おっと。
これはLEDで食い扶持を潰してしまう可能性もあるのか?
既得権益を潰す様なマネは宜しくないから、もしかするとこのお店では受け入れられないかもしれないな。
腕を組み右手を顎に当てて熟考する。
……まぁいっか。
とりあえず聞くだけ聞こう。
「有難うございました。
ところで突然で申し訳ないんですが、こういった品物ってお取扱い頂く事ってできますか?」
あらかじめ出しやすいようにしておいたLEDランプを取り出すと同時に女の顔がしかめっ面に変わる。
この世界は善人が多い。
そして大事な事だが善人がバカに直結するという事は決して無い。
悪人が居た時に損をする役回りの者が善人に多いというだけで、売るつもりで話していて買い取れという話になれば難色を示されても仕方ないし、利にならなければ断りもするだろう。
……だが、問答無用で無理矢理追い出す。という事が出来るほど悪くもなれない。から損……と。
しかめっ面をしながらも、ちゃんと話を聞いてくれた。
だが実際に話をしてみて、魔力が無くてもハンドルを回すだけである程度の時間光る事の実演をすると、女の目の色が変わった。
「ちょっと! これ凄いじゃないの! どういう原理なの!」
「企業秘密です。」
「『きぎょうひみつ』って? なに? どんな秘密よ!」
「あ。ん~……超秘密って事です。」
「うわぁ! 調べたい! 調べたい! バラバラに分解したいっ!」
「買ってくれたら構いませんけど、きっと壊れますよ?」
ハイテンションの女はその後、機能面の話をぐいぐい突っ込んできて、まぁ~俺をポツンと置き去りにして一人盛り上がっていた。
20分は質問攻めにされていたように思う。
話していた感じから、やはり幼女に見えるだけで、そこそこなお年頃なんだろうなという事は理解できたし、きっとドワーフなんだろう。
物語の主人公のハーレムの一員のドワーフも撲殺以外に炎の魔法が得意なロリキャラクターだったし。うん。
「ネックは短い時間しか使えない事よね。」
「そうですね。」
買ってきたのは『3分間手回しすると1時間使える』と、でかでかと書かれていたが、目立ちにくい配色で『(弱の明るさの時)』とこっそり書いてあった。
つまり普通に明るくして使うと1時間は絶対に持たないのだ。
「でもまぁ、その弱点を加味しても使いどころは結構あるわ!
夜道の移動にも使えるし! これは売れるわ!」
「売るとしたらどの程度の値段で売ります?」
「んん……そうね……いや。まだ値付けは難しいわ。
今晩私が使ってみて弱点とか使用感とか把握しないと。
……と言うわけで! コレ一晩貸してっ!」
「……壊しません?」
「壊さないわ! もし壊しちゃったらなんでも言う事聞くからっ!!」
目をキラキラさせた美少女に
『なんでも言う事聞くからっ!』
なんて言われてみろ。
これで断れるような男はいないと思う。
少したじろぎながら、頷く。
「分かりました。ソレで試してみてください。
また明日お昼過ぎに来ますから。」
「ありがとうっ! 私はアイーシャ!
アイーシャ クナナンよ!」
「あ、はい。俺はイチです。」
また、つい偽名を使ってしまった。




