73話 初落札 と 競り
壇上に少し派手な衣装を纏った中年の男が現れ、大きく息を吸って胸を膨らませ会場に声を響き渡らせた。どうやら司会者のようだ。
「紳士淑女のぉ~皆様ぁっ!
んっ、ようこそお越しぃ~くださいましったぁ。
っん、これよりぃ! スペシャルギフトぉオークションをぉ、開催いたしまぁすっ!」
会場から拍手が起こり俺もつられて拍手をする。
司会者の特徴のある喋り方に、俺の頭の中には何故だか『ぶるぁぁの人』が思い起こされた気がした。
「本っ日のオークション! 出品数は『9』!
残念ながらぁ『剥奪』はございませんー。」
会場に落胆等の反応は見られない。
やはり『剥奪』がある時の方が珍しいような感じが見て取れる。
「それでは張り切ってまりましょー! まずはぁ小手調べからぁ! エントリーナンバー1!
スキル『隠密』!
こちら出品者は、な~んと漁師さ~ん。
もうお歳で漁を引退されるらしく、息子さん達から一緒に暮らさないかと誘われたそうなのね。そしたら厄介になる分、せめてもの足しになればとお金を求めての参加との事~。ん~家族思いで泣かせるじゃないのー。でも漁師さんの能力だから戦闘でどれくらい役に立つかは未知数! ちょっと残念っ!
参考となる指標としては、最低で『魚が取れやすくなるくらいの隠密スキル』から、最高で『モンスターに見つかりにくくなるスキル』だぁー!
競りの開始価格は……んん~控えめっ! 金貨5枚!
これは安いと思うなぁ~。落札単価は金貨1枚毎!
オークション…ぃいよぉうい……ん! スタートぉおっ!!」
会場が少しざわつく。
冒険者は見知った顔があったりするのか話声が聞こえ、貴族と思わしき男なんかは付き人と話をしていたりする。ポツンとぼっちの俺は話し声に耳を傾ける。
「隠密か……有用だが漁師だろ? どの程度戦闘の役に立つかが見えないな。」
「モンスターに見つかり難いと言っても、そもそもが戦おうという気持ちもないのだろう? 殺気が籠ったらどうなるか分からん能力に意味はあるのか?」
「対人に対しての有効さも少しわかりにくいね……ただ、その分開始価格は安い。目立ちすぎると思う節があるヤツは買って試せってことだろうな。」
「初っ端だから、またなんともわかりにくく売れなさそうなのを持ってきたな。」
「引退する漁師……か、老練され存外磨かれたスキルかもしれんが……この後に出てくるかもしれんスキルの為に金を温存しておきたいしな……」
会場の声を聴いていると、落札に対して様子見、もしくは否定的な意見が多いように思えた。
俺は逆にかなり好意的な感触を持っている。
多分この街の人間は川や海で自分で釣りをしない者が多く魚がどれほど気配に対して敏感なのかを知らない。
『魚が取れやすくなるくらい』気づかれないなんて実は相当な隠密能力だろう?
いや……でも俺の目的は安心を手にすることだし…糸を切れるくらいの火魔法とかは手に入れたいんだよな……
「あららら~? ん誰も入札してくれなーいのぉ?
おじいちゃんの応援をしてあげようって優しい人はいなーいの?」
右手を上げようか上げまいか悩んでいると
「金貨5枚」
少し後ろから声が上がった。
そのしばらく後「金貨6枚」と、左前から声が上がる。
なんとなく上げた人は、そんなに欲しいと思ってあげている感じではなく、まぁ安いから落札出来たら落札できたでいいか。という感じがする。
「き、金貨7枚」
恐る恐る右手を上げて声を出すと、会場の空気が止まった。
慌てて左右を見てみると一手に注目を集めている。
目が泳ぎ、あからさまに挙動不審になりながら情報を集める為に聞き耳を立てる。
「あの黒髪って……勇者様なの?」
「いや違う……が、勇者様の関係者かもしれん。」
「最近髪を黒に染める者が出てきたという噂もあるからソレと同じ髪染めでは?」
「いやいや、顔の作りが我々と根本から違うように見える。」
などの声。
最後のヤツは余計なお世話だ。
どうやら黒髪と顔の作りから、勝手に勇者の関係者じゃないかと勘ぐってくれているようだ。
実際は勇者と全く無関係なので、少々心苦しい。
その後、俺に気を使ったのか最初の入札者達は入札を控え、俺はなんと金貨7枚で『隠密』のスキルを落札できた。
落札が決定すると係員が引き換え券を渡してくれて、オークション会場から出る際に係員に声をかけるように言われた。
落札出来てラッキーと思うと同時に、なんかゴメン。という気持ちで胸がいっぱいになってしまう。
罪悪感に潰されそうな気がしたが、俺の平穏の為に『勝手に勘違いしたのだからしょうがないよね』と開き直る事にした。
残りの予算は白金貨8枚と金貨4枚だ。
……なんとか安心を…糸を切る能力は手に入れたい。
次の出品は、元冒険者の主婦による、ある程度汚れを落とせるクリーンの魔法だった。
ニオイ対策に興味を惹かれたが、ニオイを消したら消したで厄介だったのを思い出し、ちょっとだけ参加してスルー。
結果は冒険者に重宝されるようで、白金貨1枚と金貨7枚で落札された。
「んエントリーナンバー3!
スキル『魔物調教』
オーク養殖場を辞める人からの出品だねぇ。
きっともう不要になる能力だからお金に換えちゃおうって感じなのかもしれないね。
参考となる指標は、最低で『オーク単体になんとなく命令を聞かせられる』
最高で『オーク複数の意思を誘導する』だぁー!
ん~~……戦闘で、もしオークが出てきた時には便利かもしれないねぇ! でもジャイアントとか、強いモンスターに有効かどうなのかは不明!
競りの開始価格は……んん~控えめっ! 白金貨1枚!
落札単価は金貨1枚毎!
えぇ? なんだって、高いって?
だって色々可能性が広がりそうな能力なんだから仕方な~いじゃない。なんてったって『調教』だもの。『調教』。
それではスタートォ!!」
「「 白金貨1枚 」」
俺は気が付いたら開始と同時に右手を挙げ価格を言っていた。
しかし、左側から同じ金額を言った声がしてそっちに目をやると若い貴族の男が同じように手を挙げて俺を見ていた。
一瞬俺と貴族の間に火花が散ったような気がした。
相手が貴族だろうがなんだろうが俺はこの能力が欲しい!
モンスターに言う事を聞かせる事が出来る能力だぞ!
言っちゃなんだがアデリーはモンスターと言われてもおかしくない。そのアデリーに命令を聞かせられるかもしれないのなら俺は買う! いくらでも出す!
引く気が無いので、すぐに大きく手を上げ
「白金貨1枚と金貨1枚!」
と宣言する。
すると貴族も一度ニヤリと笑い
「白金貨1枚と金貨2枚」
と上乗せしてきた。
『やる気だな』と思い、その貴族の若い男をもう一度見ると、その貴族の付き人であろう可愛いネコミミ女がひょっこり首を出して俺を見たのが目についた。
貴族の若い男はその様子に気が付いて、ネコミミ女が俺を見ようとして出した顔を『ほら、ちゃんとしろ』といわんばかりに、手で押し戻した、が、またネコミミ女はひょっこりと顔を見せ俺を見る。
その様子を見て、俺はピーンと来た。
『アイツ、隣のネコミミ女を調教できるとか思って……落札しようとしているな』
と。
俺の中で『アイツには負けられない。』という気持ちが燃え上がる。
「白金貨2枚」
気が付けば右手を上げて声を出していた。




